まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第80回
【前編】西田宗千佳×まつもとあつし対談~『レイヤー構造』で考察し直す動画視聴行動
日本ではYouTubeが地上波1チャンネル分の価値を持つ
2023年01月14日 15時00分更新
テレビは「動画配信サービスを使うための機械」に
そして、これはちょっと古いデータになるんですけれども、非常に重要な話なので基礎知識として理解していただきたいという内容が1つあります。
それは、ある国に映像配信が導入されて、ユーザーの利用が進めば進むほど、ユーザーの視聴デバイスがスマートフォンやPCから、テレビに移るということです。
この画面は、2018年にNetflixに取材に行ったときに彼らが示したものです。サインアップ時はPCやスマートフォンが使われています。やっぱり文字入力がラクなPCやスマートフォンの利用が多いわけですね。
ところが半年間、会員の継続が続くと、全体の視聴デバイスの7割がテレビになるんです。これはグローバルな数値なので、国によっては当然違うわけですけれども、映像配信というものがその人の生活の中で当たり前になってくると、どんどん楽で大きな画面で見るようになるということが明確だと言えるでしょう。
前述の通り、これはグローバルなデータなので、じゃあ日本は違うんじゃないの? という懸念を持つと思います。そこで、同じように開示されたデータをもう1つ見てもらいたいと思うんですが、これは国ごとの比率の違いです。ざっくり、青がテレビだと思ってください。サインアップしたときはどこの国もやっぱりテレビの比率が少ないのですが、比率の差はあれど、どの国もテレビの比率が上がっています。
これは2022年になっても変わっていないと聞いていますし、日本においても同じだろうと思います。テレビメーカーに聞くと「映像配信の利用率が高まっている」という話なので、映像配信の利用が定着し始めた状況において、いわゆるテレビでの視聴が日本でも高まっているし、特別なものではなくなっているんじゃないかということが、こういった資料からもわかるわけです。
この傾向が一番進んでいるのは当然アメリカです。アメリカにおいてはCATVがコンテンツの一番大きな供給源ですけれども、供給源としてのCATVをストリーミングが2022年に抜いたという話が出ました。
ここに示しているデータは、アメリカのニールセンが、テレビの前に2人以上いる状態での視聴状況の統計を取って出したグラフです。
左側は2021年の第3四半期(Q3)、すなわちだいたい半年くらい前のデータなんですけれども、このときにはまだCATVがトップで、ストリーミング全体は3割弱だったわけですが、気がついてみると、放送やCATVから少しずつユーザーが減って、第2四半期(Q2)にはストリーミングが33%になり、CATVを脅かすようになっている、と。
このニールセンのデータはもう少し面白いことがわかるので、引き続き見てみようと思います。円グラフが見えると思いますが、注目していただきたいのは、ストリーミングに割り振られているパーセンテージです。Netflixが一番大きいんですけれども、その次にYouTubeが来て、そのほかの大手が3%か2%です。
これ、トレンドで見るともう少し面白いんです。明らかにCATVが少しずつ減っていて、ストリーミングの比率がゆっくり増えています。その理由は、おそらく各社がヒットシリーズの続編を半期に一度出すようになった影響が大きいと思われます。
一方で、一番上のOtherは録画やゲームなんですけれど、これが微妙に減っています。すなわち、テレビがゲーム利用の端末から、映像の端末に戻ってきているのかなという傾向が見て取れます。
これは別の論なので詳細は省きますが、ゲームはPC向けの外付けディスプレーに映すようになりました。リビングにおける視聴は映像中心になり、ゲームは個室・個人に移行している、という状況があるんじゃないのかなと思っています。
また、各社のシェアは全体がグッと上がっているわけです。どこが上げているのかというと、やっぱりYouTubeの伸びが若干強い、それからNetflixもなんだかんだ言いながら1%くらい伸ばしているので、世の中でサービスとして定着しているものが視聴量としてもそのまま伸び続けている、というような言い方ができるのかなと思います。
この連載の記事
-
第107回
ビジネス
『陰の実力者になりたくて!』の公認Discordはファンコミュニティー作りの最前線だ -
第106回
ビジネス
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる? -
第105回
ビジネス
AI生成アニメに挑戦する名古屋発「AIアニメプロジェクト」とは? -
第104回
ビジネス
日本アニメの輸出産業化には“品質の向上よりも安定”が必要だ -
第103回
ビジネス
『第七王子』のEDクレジットを見ると、なぜ日本アニメの未来がわかるのか -
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える - この連載の一覧へ