今回のひとこと
「NEC PCとレノボ・ジャパンは、デジタルの接点にいる人たちの声を最も多く聞ける立場にある。この強みを積極的に活かし、ユーザー目線のPCを投入し、生活の質と企業の生産性を高め、日本の社会の発展に貢献したい」
新任の檜山社長を独占取材
2022年10月1日付けで、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)およびレノボ・ジャパンの代表取締役社長に、檜山太郎氏が就任した。
それから約3カ月を経過したものの、現時点では社長就任会見や事業方針説明は行っていない。同社は4月からが新年度であり、それを考えれば、2023年4月以降には、新たな方針が発表されるはずだ。いまはその方針を練っている段階だろう。
その檜山社長が、単独インタビューに応じてくれた。
檜山社長は、「NEC PCとレノボ・ジャパンは、デジタルの接点を担っているPCを、日本の開発拠点、生産拠点、サービス拠点を通じて提供している国内トップシェアのメーカーである。シェアが高いということは、デジタルの接点にいる人たちの声を最も多く聞ける立場にあるともいえる。この強みを積極的に活かし、ユーザー目線のPCを投入することで、生活の質を高め、企業の生産性を高め、日本の社会の発展に貢献したい」と語る。
東芝でDynabook事業の拡大に貢献、マイクロソフトの経験も
檜山社長は、1987年に東芝に入社。情報通信システム国際事業部に在籍し、英国および米国に駐在。Dynabookシリーズをはじめとする東芝ブランドのPC事業の拡大に取り組み、ノートPC市場における世界ナンバーワンシェアの獲得に貢献した。当時の東芝のPC事業は、日米欧の3極が、ほぼ同等の事業規模を持っており、日本発のPCメーカーとしては、最も出荷規模が大きかった。檜山社長は、その最前線でPC事業を行ってきた。
その後、PC事業の社内分社化により、東芝デジタルプロダクツ&サービス社の営業統括責任者や事業部長、東芝クライアントソリューション社の取締役を歴任。歴史がある東芝のテレビで培った技術と融合したモノづくりや、B2Bソリューション事業の強化など、幅広い領域を担当してきた。
2017年には日本マイクロソフトに入社し、執行役員常務に就任。コンシューマー&デバイス事業本部長として、同社コンシューマ事業を統括し、PCメーカー各社とともに、Windowsを搭載したPCの国内普及戦略を推進。日本独自の「モダンPC」を打ち出し、PC市場の9割以上を占めるWindows PC事業の顔ともいえる存在となった。Windowsを家族向け、学生向けに積極的に訴求し、量販店などとの共同マーケティングを展開する取り組みは、いまの日本マイクロソフトのマーケティング戦略でも、継承されている。
さらに、2020年には、パートナー事業本部長として、日本マイクロソフトの販売拡大の軸となるコマーシャルパートナーを担当。パートナーとの協業をベースにしたインダストリーDXの推進、中堅中小企業市場におけるクラウドの普及、自治体などに対するガバメントDXの強化などに取り組んできた。
こうした経験は、NEC PCおよびレノボ・ジャパンの社長として、大きな力となって発揮されそうだ。
個人と企業、ソフトとハード、国内と海外、いずれも経験
檜山社長は、「東芝時代にハードウェア事業の経験とともに、海外と国内で仕事を行い、コンシューマ分野も、コマーシャル分野も担当した。日本マイクロソフトでは、ソフトウェアおよびプラットフォーム事業、クラウド事業を行い、ここでもコンシューマ事業とコマーシャル事業を担当した。ハードウェアとソフトウェアの経験、国内と海外の経験、コンシューマとコマーシャルの経験がある。意外なことに、こうした経験をしている人が少ないということをあとから聞いた。これが、いまのNEC PCおよびレノボ・ジャパンに求められている経験値であるとすれば、その経験を活かして、どんな経営ができるのか、なにを創出できるのか、どんな付加価値を出すことができるのかといったことを、しっかりと意識して、経営に取り組んでいきたい」と力を込める。
One Lenovoの事業展開が課題に
NEC PCおよびレノボ・ジャパンは、サーバー事業などを行うレノボ・エンタープライズ・ソリューションズとともに、One Lenovoによる事業展開を強化しているところだ。
ここでは、モトローラブランドのスマホ事業のほか、as a ServiceであるLenovo TruScaleによるサービス事業など、レノボグループが新たな柱と据えて事業を推進しているSSG(ソリューション&サービスグループ)の国内展開の強化、一本化したパートナープログラムにより、国内パートナー事業を強力に支援する新たなパートナー施策「Lenovo 360」も加わる。これらにより、「ポケットからクラウドまで」のポートフォリオを実現するとともに、サービス事業の強化、パートナー事業の強化にも踏み出している。
このように拡大するレノボグループの事業ポートフォリオを俯瞰すると、檜山社長の様々な経験は、その多くをカバーし、知見やノウハウを活かすことができそうだ。
「レノボグループは、日本市場に対して、これまでにも多くの投資をしてきた。複数のブランドをそれぞれに成長させることが、私の役割であり、NEC(LAVIE)、レノボ、ThinkPadによる相乗効果を1+1+1=3ではなく、4や5にすることを目指していく」と語る。
檜山氏が就任するまで、暫定的に日本法人の社長を務めていたアジア太平洋地区地域担当プレジデントのアマー・バブ氏は、「日本はレノボの象徴であるThinkPadの故郷として、またアジア太平洋地域で成長するサービス事業にとって重要な市場であり、さらにはレノボのイノベーションの中心地となっている」と前置きし、「檜山氏の経験と情熱があれば、エンド・トゥ・エンドのライフサイクル・サービス、as-a-Service、ハードウェアの提供を通じて、日本のデジタル変革に貢献し続けられると確信している」と述べている。
PCメーカーへの復帰には懐かしさもある
檜山氏にとっては、5年ぶりのPCメーカーへの復帰ともいえる。
社長就任直後に、NEC PCの開発、生産拠点である山形県米沢市の米沢事業場を訪問。その現場を見て、「PCメーカーならではの雰囲気に、懐かしさを感じる部分がある」と語る。日本マイクロソフト時代にも、米沢事業場を訪問したことがあるというが、そのときから、工場の様子は大きく変化していたという。
「モノづくり現場が、日々の革新に取り組なでいることを感じた。競争力を維持するために様々な工夫を行い、ユーザーのことを考えたモノづくりにより、社会を変えようという意識を強く持っていることが現場から伝わってきた」とする。
さらに、ThinkPadの誕生の地であり、研究開発である、横浜みなとみらいの大和研究所も訪問。今後は、修理をはじめとするサービス事業を担当するNEC PCの群馬事業場にも足を運ぶ予定だ。
NEC PCは、日本で生まれ、日本のユーザーによって育ったLAVIEブランドのPCを展開。レノボ・ジャパンでは、日本で生まれ、世界に飛びだしていったThinkPad、そして、海外で生まれ、日本でシェアを拡大しているLenovoブランドのPCを、それぞれ展開している。
「それぞれに異なった生い立ちを持った複数ブランドのPCを、それぞれの特徴を活かす形で進化させたい」とし、「日本のユーザーに、デジタルの恩恵をもっと受けてもらうために、そのインターフェースとなるPCが重要であることを改めて感じている。私は、そこになにか貢献ができないかという思いがある。日本で最もシェアが高いPCメーカーとして、できることは多いし、やらなくてはならないこともある。日本のユーザーに喜んで使ってもらえるデバイスを提供することで、日本の企業のクラウド化、DX化を推進していきたい」と、広い視点でのPCづくりを目指す。
共創から競争へ
日本マイクロソフト時代には、PCメーカー各社は、日本のWindows市場拡大のための共創パートナーであったが、新たな立場では、一転して競争する立場に変わる。
国内でシェア争いをしている日本HPやデルとの競合のほか、日本マイクロソフトのSurfaceや、東芝から分離し、シャープ傘下で事業を展開しているDynabookとも競合する。
「Surfaceにも、Dynabookにも、私自身、魂を入れてやってきた。商品対商品という意味では、いろいろと葛藤もあるが、NEC PCおよびレノボ・ジャパンの強みを活かして、他社との違いを訴求し、しっかりと勝っていくつもりだ」と意気込む。
だがその一方で、「日本の産業界や、PC業界を、どう発展させるかという点では、各社と立場は同じ」とも語る。
国内PC市場は低迷が続いているが、ハイブリッドワークの広がりとともに、PCの価値が見直され、ゲーミングPCや動画編集などではPCならではの性能が評価。教育現場でもPCの活用が促進されている。低迷するPC市場をいかに活性化するか、そして、一部に見られているこれらの明るい兆しをいかに顕在化するかといった取り組みは、PCメーカー1社だけでは限界があり、PC業界全体として、盛り上げていく必要がある。
PCメーカーだけに留まらず、プラットフォーム企業での経験が、檜山社長のこうした発言につながるのだろう。それは、国内トップシェアのPCメーカーとしての覚悟と、役割にもつながることになる。
NEC PCとレノボ・ジャパンから、今後、どんなPCが登場するのか。そして、PC市場をいかに活性化してくれるのか。檜山社長の手腕に注目したい。
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