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冨田勝所長に聞く。“ダメ元精神でベストを尽くす” 庄内文化と人語(じんかた=人生を語る)が育む鶴岡発起業のマインド

鶴岡発スタートアップの継続する力はどのように醸成されたのか

連載
研究開発型イノベーション創出のケーススタディ

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学生時代の友だちが多い人ほど起業しやすい

―足元の話と言えば、経営面の支援も課題です。CXO人材はどのように補っていくのがいいでしょう。

 ビジネスは大事だけれど、必ずしも創業者が経営ノウハウを持つ必要はなく、信頼のおける副社長やCXOをうまく呼んで一緒にやればいいというのが僕の考えです。ただ、共同創業者やCXOは、無条件で信頼のおける人じゃないとダメだと思います。会社が大きくなればプロと契約することもありうるでしょうが、最初のうちは学生時代の友達がいい。Spiberの場合は研究室の2人と、公認会計士の資格を取ったSFCで同学年の友達との3人で創業しました。部活で一緒だった仲間、遊び友達など、損得勘定のない信頼関係のある友人をたくさん持っている人は起業しやすいと僕は思います。だから、若いうちは金を貯める暇があったら友達を増やせ、と言っています。

―それはほかの地域でも再現性がありますね。

 ビジネスの契約はメリットデメリットで考えざるを得ない。しかし、イノベーションを起こすには損得勘定だけで契約は結べません。前例があればメリットデメリットを計算できるけれど、そもそも前例がないことをやるのだからメリットデメリットがわからない。そうなると人物が信頼できるかどうかがすべてです。そのときに契約相手が友達なら、あっという間に決まりますよね。

 ほかの会社と連携するときも、大代表に連絡してイチからステップを上がっていくよりも、社内の友達に連絡するほうがずっと早い。友だちのネットワークはすごく大切。日本は、コネや伝手は潔しとしない文化がありますが、僕は合法であれば使えるものは全部使え、と学生たちに言っています。

―鶴岡サイエンスパークから今後もイノベーション、スタートアップが生まれ続けていくと思われますか?

 「10社目はいつですか?」とよく聞かれますが、数じゃないと思っています。20年以上前、当時の鶴岡市長が慶応の研究所を誘致して、かなりの税金をかけて鶴岡サイエンスパークを作った目的は新産業の創出です。研究所なのですぐには経済効果はでませんが、30年後を見越した種まきだと。あえて比較すると、トヨタの豊田市、日立の日立市です。

 豊田市にトヨタの次は何? と聞かないじゃないですか。20社できるよりも、日本を代表する会社が1社か2社出るほうが重要です。しかしそれにはものすごく時間がかかる。豊田佐吉が豊田商店を作ったのは、1895年と言われていますが、従業員が1万人になるまでに60年かかり、今の30万人の企業になるまでさらに60年かかっている。今は昔よりもスピードが速いとしても30年はかかるでしょう。

 30年後のために今からなにができるのか。僕としては新しい会社を作るよりも、今ある会社にがんばってもらい、世界に羽ばたいてもらうことのほうが100倍くらい重要だと思っています。

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