今回のひとこと
「クラウドファーストを推進した結果、いまはクラウドカオスの状況になっている。そのため、クラウドへの投資は全体の10%に留まり、先に進まない。解決策は、クラウドスマートのアプローチになる」
クラウドカオスとは?
VMwareのラグー・ラグラムCEOは、「2022年夏にVMwareが実施した調査結果では、クラウドカオスの状態にある企業が多いことがわかった」とする。そして、「その結果、あらゆる企業でクラウドへの投資が先に進んでいない。クラウドに対する支出額は、エンタープライズIT支出全体のわずか10%に留まっている」と指摘する。
ガートナーの調査によると、2021年のエンタープライズITの支出額は年間4兆4000億ドルに達したが、そのうちクラウドに対する支出額は413億ドルに留まっている。
では、クラウドカオスとはなにか。
ラグラムCEOは、クラウドファーストの考え方が浸透した結果、生まれた状況であると語る。
「10年以上から、エンタープライズ企業はフロントオフィスのデジタル化を推進し、モバイルアプリを通じて、企業のブランドを消費者に訴求した。これが多くの企業にとって、デジタル変革の始まりとなり、大きな成功を収めた。だが、これが成功したために、世界中のCIOは、クラウドファーストの考え方に基づいて、エンタープライズ全体のプラットフォームも作り直そうと考えた。いま、多くのエンタープライズ企業がこの動きのなかにあるのだが、同時に多くのCEOが、クラウド化に十分な進展が見られず、プラットフォームの再構築に時間がかかるという課題に直面している。
これらは、まさにクラウドカオスを起因としている。クラウドファーストには、統一した戦略がなく、その結果、速く動くことができない状況に陥っている」と指摘する。
クラウド第1主義がもたらしたカオスだ
クラウドファーストがもたらした課題は複数におよぶ。
「クラウドファーストによって、クラウドの導入を促進したものの、クラウドに最適化した新たなデジタルアプリケーションを開発したり、現在のシステムをモダナイズしたりするための開発者が不足し、スキルも不足していること、既存のエンタープライズアプリケーションの比重が大きく、売上げの95%は既存のエンタープライズアプリと連動したままであり、クラウドネイティブへの移行が進まないこと、クラウドファーストが成功し、自らが選んだクラウドを採用し、マルチクラウド環境が促進されたものの、その結果、ツールやアプリケーション分断化し、運用が複雑化。一貫したセキュリティを実現できないという課題が生まれていることなどが、クラウドカオスを引き起こしている」とする。
クラウドファーストが推進された結果、それぞれのクラウドに特化したソリューションが、それぞれに展開されてきた。これがシングルクラウドのときには良かったが、実際には、多くの企業は複数のクラウドを利用するマルチクラウドが進展した結果、クラウドを通じて提供される機能が重複したり、一貫した機能が提供されないため、それぞれに管理を行ったりしなくてはならない課題に直面し、複雑なクラウド環境が生まれたというわけだ。最新の調査では、97%のエンタープライズ企業がマルチクラウド環境で運用しているというデータもある。ほぼすべての企業が、マルチクラウドによるクラウドカオスに陥っているといっても過言ではない。
解決策としてのクラウドスマート
だが、ラグラムCEOは、「朗報もある。それは、私たちは、クラウドに速く移行するための方法がわかっているという点である」とし、「そのアプローチは、クラウドスマートと呼ぶものである。
クラウドスマートの考え方はシンプルであり、統一した戦略を持つことが最初の一歩である。その基本になるのは、クラウドの戦略を定義するのがアプリケーションであるということだ。まずは、アプリケーションを検討し、その上で、最適なクラウドを選択し、そうでないものは最適なクラウドに移行させることである。その際に、パブリッククラウドにするか、プライベートクラウドにするかという議論には意味がない。これはクラウドの方法論の話であり、どんなアプリケーションでも、短時間にビルドしたり、モデイファイしたり、セキュリティを強化したりできなくてはならない。これは、クラウドスマートの考え方において、重要なものになる」と語った。
VMwareでは、2年前にVMware Cross-Cloud Servicesを発表し、クラウドスマートを促進できる環境を整えた。
「クラウドカオスの状況を解決するのは、ひとつのクラウドに集約することではなく、新たなコンセプトに切り替えることである。計画されたデジタル変革のなかで、マルチクラウドを実現することである。そして、クラウドスマートを実現するのが、VMware Cross-Cloud Servicesになる。これにより、アプリ開発のスピードアップ、一貫性のあるエンタープライズインフラの実現、分断化されたアプリケーション環境からの脱却が可能になる」とする。
VMware Cross-Cloud Servicesは、マルチクラウド環境を最適な方法で管理して、あらゆるアプリケーションを、あらゆるクラウドで、構築、実行、管理、保護するSaaS ソリューションの統合ポートフォリオであり、アプリケーションプラットフォームであるVMware Tanzu Application Platformや、クロスクラウド管理サービスのVMware Aria、クラウドインフラサービスのVMware Cloud、クロスクラウドネットワークサービスのVMware NSX、クロスクラウドセキュリティサービスのVMware Carbon Black、ハイブリッドな働き方を支援するVMware Anywhere Workspaceなどで構成する。
「VMwareは、一貫したインフラを、一貫した管理のもとで、一貫した形でアプリケーションを展開でき、選択肢も提供できるようにしている。VMwareは、クラウドスマートへのジャーニーを支援できるユニークな立場にある」と語る。
仮想化はハードのサイロ化、これからはクラウドのサイロ化への対策
VMwareは、何度となく、自らの役割を大きく変えてきた。
もともとは仮想化技術によってハードウェアを抽象化して、ハードウェアのサイロをなくし、選択の自由を提供する企業であった。その後、クラウドの広がりとともに、オンプレミスとクラウドによった生まれたサイロをなくし、アプリケーションを活用する環境を実現した。いまは、マルチクラウドによって生まれたサイロを埋める役割を果たしている。そして、幅広い製品群を提供することにより、VMwareがアクセスする対象も広がっている。
ラグラムCEOは、「VMwareは、データセンターのプロフェッショナルにサービスを提供する企業であったが、いまでは、開発者やプラットフォームエンジニア、プラットフォーム運用チーム、セキュリティチームの領域にまで対象が広がっている。しかも、全世界3万社のパートナーとともに、製品を提供している」とする。
その上で、「いまは、インフレや地政学的リスクの課題、コスト、サイバーセキュリティ、エネルギーなど対処すべき課題は多いが、これらの課題があっても、エンタープライズ企業に共通しているのは、デジタルスマートの企業になることを最優先課題としていることだ。この流れは2030年まで続くだろう。イノベーションの速度を加速させながら、同時に既存ビジネスを継続させることが、多くのエンタープライズ企業にとって最優先の課題になっている」とする。
ブロードコムの傘下に
一方、VMwareは、2022年5月に、ブロードコムによる買収が発表されている。ブロードコムの2023年度中(2023年10月まで)に買収が完了する予定だ。
ラグラムCEOは、「企業や社会の問題を解決するために、VMwareは変化し、イノベーションを生み出していく。そのために、次のステージに踏み出す。それが、ブロードコムによる買収だ」とし、「これによって、顧客には多くのプラス要素が発生する。イノベーションを作ることで課題を解決するというVMwareのやり方も変わらない。顧客中心の文化も変わらない。これは、ブロードコムのHock Tan社長兼CEOと長い時間を過ごし、何度も話し合いを行い、ブロードコムの経営陣とも共有されていることだ。今後も、VMwareのマルチクラウド戦略を推進するために、イノベーションへの投資を続け、エネルギーを注入し続けていくことになる」と述べた。
ブロードコムによる買収は、VMwareにとって、これまで通りに、イノベーションを加速するためのエネルギーになることを期待したい。
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