免震レトロフィット化していく東京
── 一連の改修で最も意義深い点はどこになるんでしょう?
渡邉 これくらい大規模なお寺さんで免震化しているところは他にはないと思います。西新井大師さまのご判断があってというのもありますが、皆様に慣れ親しまれた建物を安心・安全で使い続けられるようになった。それが一番意義深いことかなと。
── まだ耐震・免震をしていないビルは数十%あるという話も聞きますからね。1960〜1970年に建てられた鉄筋コンクリートビルなんて山ほどありますし。
渡邉 国立西洋美術館や東京駅などもそうですね。歴史的な建物を免震化して残しますという事例もあるんですが、これからも使い続けていく建物として免震化に取り組まれたということは意義深い事例なのではないかと思います。
国立西洋美術館 撮影:663highland
── 社寺以外ではどんな事例があるんですか?
渡邉 たとえば日本橋三越本店です。あちらは基礎を掘って、下から周りが動いても大丈夫というようにしています。あとは日本銀行ですね。我々がやる前にも旧館は改修をしていましたが、3年前くらいに本館の全体的な免震改修をやりました。
── あのあたりは三井の本館とかもありそうですね。一方で、残すことのコストもかかりそうです。
渡邉 伝統的な木造は定期的な修繕により100年は楽に持ちます。木造の文化財建物の大規模修理の周期は150年程度と言われています。そう考えると木造建築は基本的に150年に一度なんですが、コンクリート造は出てきてまだ100年ちょっと。そういった建物に関して、どう維持管理をしていくかが今後のポイントになると思います。昭和初期から戦後期の建物が文化財になってきますから。
── 今後もこういう案件は注目ジャンルとして増えていくんですかね。
渡邉 渋沢栄一さんのお宅を移築するという話もありますね。二代目清水喜助が渋沢栄一さんとお付き合いをしていまして、腕を買われて自ら手がけた建物です。もともとは江東区の木場近辺にあったんですが、数度の移築・増築を経て、現在は潮見に移築を進めています。
── それも耐震補強しながら?
渡邉 そうですね。
── そのうち「清水建設レトロフィット株式会社」って会社ができそうです。
渡邉 いやいや、そんなことは……。
お寺もインスタ映えってことですな
── 免震改修は安心・安全という側面もありつつ、お寺としては「変わらない」というのも役割のひとつということを感じました。
渡邉 変わらない、受け継いでいくことですね。時代を重ねてきた木造の建物は、修理に携わることでいろんなことが見えてきます。山門の例もありましたが、今後も文化財として残していくためには、現状で施せる新たな技術を使いながら、それを維持していく必要がある。それは我々のような伝統建築を専門で扱うものの役割だと思っています。
── 「使える」というのが大事ですよね。メタバースのようなバーチャル空間に移ってしまわない限り、そこに出かけてお参りしたり、記憶が人の頭に残るところに価値があるということですから。縁日なんかもありますしね。
酒井 お寺というのは信仰の中心でありながら、そこに付属する楽しむところという意味合いも大事なんですね。以前は檻があって動物がいた時期もありました。まだ電車が発達していなかったころ、中心部からバスで来て一日楽しんで帰っていったというんですね。そこで門前町とか、そういったいわゆるにぎわいというものとつながってくるわけです。総合的なエリアということだったんでしょう。昨今は分散していますけれども。
── 神田明神にも馬がいますしね。そう考えると観光と信仰は遠くないんですね。
酒井 そもそも観光というのは、観音様の霊場の呼び名でもありますからね。
── おお、失礼しました。文字通りモニュメンタルなものだったと。その場で願いをかけられるというのも観光地である寺社としての役割ですね。ディズニーランドで「この先も幸せでありますように」と思いを馳せるのも信仰のようなものじゃないですか。
酒井 ある檀家さんのお家で古い写真を見せていただいたことがあったんです。旧い本堂がバックに写っていて、これから出兵するんでしょうね。無事に戻ってきてほしいという願いの下、お大師さまにお参りをしたときの写真だと思います。人の命を願うというのは当然なんですけれども、世代が移ってもそうして変わらず願われるエリアというものは存在しなければいけない。その象徴がやはりこの本堂ではないかと思いますね。
── 子どもたちの命を願うと。今でも七五三とか、様々なイベントがありますしね。
酒井 ほほえましいですよ、やっぱり。七五三でお子さんが連れられて。あの子どもたちはおぼえていないかもしれないけれども、本堂でお参りして、親御さんが写真を撮って帰る。通過儀礼かもしれないですけど、これは大切にしないといけないなあと思います。
── そういうものがなくなったら、人間、何のために生きているのかという話になりますからねえ。
酒井 写真といえば、耐震工事で山門を移動したときに、副産物というかよかった点があってですね。これまで山門の前はあまり広くなかったんです。今回、山門が6メートル境内寄りになったぶん、正面が広くなったので写真を撮る人が増えたんですよ。これまでは山門が近すぎて全体がわからなかったんです。引いてもギリギリだったんですが、とてもいい写真が撮れるようになったんです。
── なるほど、お寺もインスタ映えってことですな。それも大切なことですね。
(提供:清水建設株式会社)
この連載の記事
- 第24回
sponsored
スマートシティに“伝統工芸”が必要なワケ 豊洲スマートシティ推進協議会の「T-HUB」が面白い - 第23回
sponsored
清水建設のXRに感動した。「トイレはこちら」が空中に浮かぶ時代はすぐそこに - 第22回
sponsored
首都災害、意外な新事実 清水建設、データ分析で明らかに - 第21回
sponsored
清水建設がイノベーション拠点のどまんなかに「旧渋沢邸」を置いたワケ - 第20回
sponsored
大雨被害 清水建設、量子コンピューターで復旧支援 - 第19回
sponsored
あなたの家も「駅徒歩1分」 LUUPがまちの常識を変える - 第18回
sponsored
首都直下地震が来たらこれがヤバい。清水建設の社会実験で分かったこと - 第17回
sponsored
IT業界で稼げなかったら建設業界に行こう! 清水建設がベンチャー投資に本気 - 第16回
地域イノベーション
清水建設が「月の砂」を作っている理由 - 第15回
sponsored
「海に浮かぶ100万人都市」清水建設のとんでもない構想
この記事の編集者は以下の記事もオススメしています
sponsored
清水建設がビルにOSを入れた理由は、昔から「デジタルゼネコン」だったからsponsored
建物で働くロボットには《課題》も《建物自体のビジョン》もあったsponsored
3Dプリンターで作った柱が豊洲のビルに使われたワケsponsored
なぜ東京に「道の駅」を作るのかsponsored
酒! 刺身!! 自動運転!? 豊洲街びらき動画レポsponsored
これはトイレのNetflixだ「VACAN AirKnock」sponsored
国立代々木競技場の石垣には「謎の建物」が埋まっている!?sponsored
最先端建設ロボット大集合 人口減少時代の建設現場を救え!sponsored
清水建設の「木工場」がすごいsponsored
IT業界で稼げなかったら建設業界に行こう! 清水建設がベンチャー投資に本気sponsored
あなたの家も「駅徒歩1分」 LUUPがまちの常識を変えるsponsored
大雨被害 清水建設、量子コンピューターで復旧支援sponsored
清水建設がイノベーション拠点のどまんなかに「旧渋沢邸」を置いたワケ