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「たてもの」と「まち」のイノベーション第14回

西新井大師には“巨大ダンパー”が入っている

文●ASCII 漫画● ほさかなお

提供: 清水建設株式会社

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免震レトロフィット化していく東京

── 一連の改修で最も意義深い点はどこになるんでしょう?

渡邉 これくらい大規模なお寺さんで免震化しているところは他にはないと思います。西新井大師さまのご判断があってというのもありますが、皆様に慣れ親しまれた建物を安心・安全で使い続けられるようになった。それが一番意義深いことかなと。

── まだ耐震・免震をしていないビルは数十%あるという話も聞きますからね。1960〜1970年に建てられた鉄筋コンクリートビルなんて山ほどありますし。

渡邉 国立西洋美術館や東京駅などもそうですね。歴史的な建物を免震化して残しますという事例もあるんですが、これからも使い続けていく建物として免震化に取り組まれたということは意義深い事例なのではないかと思います。

── 社寺以外ではどんな事例があるんですか?

渡邉 たとえば日本橋三越本店です。あちらは基礎を掘って、下から周りが動いても大丈夫というようにしています。あとは日本銀行ですね。我々がやる前にも旧館は改修をしていましたが、3年前くらいに本館の全体的な免震改修をやりました。

── あのあたりは三井の本館とかもありそうですね。一方で、残すことのコストもかかりそうです。

渡邉 伝統的な木造は定期的な修繕により100年は楽に持ちます。木造の文化財建物の大規模修理の周期は150年程度と言われています。そう考えると木造建築は基本的に150年に一度なんですが、コンクリート造は出てきてまだ100年ちょっと。そういった建物に関して、どう維持管理をしていくかが今後のポイントになると思います。昭和初期から戦後期の建物が文化財になってきますから。

── 今後もこういう案件は注目ジャンルとして増えていくんですかね。

渡邉 渋沢栄一さんのお宅を移築するという話もありますね。二代目清水喜助が渋沢栄一さんとお付き合いをしていまして、腕を買われて自ら手がけた建物です。もともとは江東区の木場近辺にあったんですが、数度の移築・増築を経て、現在は潮見に移築を進めています。

── それも耐震補強しながら?

渡邉 そうですね。

── そのうち「清水建設レトロフィット株式会社」って会社ができそうです。

渡邉 いやいや、そんなことは……。

お寺もインスタ映えってことですな

── 免震改修は安心・安全という側面もありつつ、お寺としては「変わらない」というのも役割のひとつということを感じました。

渡邉 変わらない、受け継いでいくことですね。時代を重ねてきた木造の建物は、修理に携わることでいろんなことが見えてきます。山門の例もありましたが、今後も文化財として残していくためには、現状で施せる新たな技術を使いながら、それを維持していく必要がある。それは我々のような伝統建築を専門で扱うものの役割だと思っています。

── 「使える」というのが大事ですよね。メタバースのようなバーチャル空間に移ってしまわない限り、そこに出かけてお参りしたり、記憶が人の頭に残るところに価値があるということですから。縁日なんかもありますしね。

酒井 お寺というのは信仰の中心でありながら、そこに付属する楽しむところという意味合いも大事なんですね。以前は檻があって動物がいた時期もありました。まだ電車が発達していなかったころ、中心部からバスで来て一日楽しんで帰っていったというんですね。そこで門前町とか、そういったいわゆるにぎわいというものとつながってくるわけです。総合的なエリアということだったんでしょう。昨今は分散していますけれども。

── 神田明神にも馬がいますしね。そう考えると観光と信仰は遠くないんですね。

酒井 そもそも観光というのは、観音様の霊場の呼び名でもありますからね。

── おお、失礼しました。文字通りモニュメンタルなものだったと。その場で願いをかけられるというのも観光地である寺社としての役割ですね。ディズニーランドで「この先も幸せでありますように」と思いを馳せるのも信仰のようなものじゃないですか。

酒井 ある檀家さんのお家で古い写真を見せていただいたことがあったんです。旧い本堂がバックに写っていて、これから出兵するんでしょうね。無事に戻ってきてほしいという願いの下、お大師さまにお参りをしたときの写真だと思います。人の命を願うというのは当然なんですけれども、世代が移ってもそうして変わらず願われるエリアというものは存在しなければいけない。その象徴がやはりこの本堂ではないかと思いますね。

── 子どもたちの命を願うと。今でも七五三とか、様々なイベントがありますしね。

酒井 ほほえましいですよ、やっぱり。七五三でお子さんが連れられて。あの子どもたちはおぼえていないかもしれないけれども、本堂でお参りして、親御さんが写真を撮って帰る。通過儀礼かもしれないですけど、これは大切にしないといけないなあと思います。

── そういうものがなくなったら、人間、何のために生きているのかという話になりますからねえ。

酒井 写真といえば、耐震工事で山門を移動したときに、副産物というかよかった点があってですね。これまで山門の前はあまり広くなかったんです。今回、山門が6メートル境内寄りになったぶん、正面が広くなったので写真を撮る人が増えたんですよ。これまでは山門が近すぎて全体がわからなかったんです。引いてもギリギリだったんですが、とてもいい写真が撮れるようになったんです。

── なるほど、お寺もインスタ映えってことですな。それも大切なことですね。


(提供:清水建設株式会社)

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