年々被害が深刻化している大雨被害。DXを進めている建設会社の清水建設は、量子コンピューターなどを使ったシミュレーションを通じ、大雨や土砂災害による被害からの復旧を支援する取り組みを進めている。
昨年は、2018年に発生した広島県・呉市の大雨被害をテーマとして、土砂災害で通行止めになった道をどこから復旧させるべきか、データ分析をもとにシミュレーションした。首都圏ではスマートシティとして開発が進む江東区・豊洲エリアを中心に、水害時を想定した事前避難経路のシミュレーションをして、災害時のリスクを可視化。国土交通省、東京都、江東区、民間、住民と江東区エリアが抱える課題、災害時の避難行動について議論した。
こうした実証とともに、交通ネットワークや人流の状況などを可視化することで防災や観光などの政策を立てやすくする自治体向けサービス「交通・防災・観光データ分析プラットフォーム」の開発も進めている。
清水建設とともにプラットフォームの開発に携わるのは、量子コンピューターやAIをはじめデータ解析技術を扱うグルーヴノーツと、人流データを扱うジオトラだ。清水建設の、特にデジタル方面の取り組みに関する取材を続けているアスキー総合研究所の遠藤諭が、清水建設 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 大村珠太郎氏らにみっちりと話を聞いた。
西日本豪雨「交通のデジタルツイン」で分析
── 今年も全国的に大雨被害が繰り返されている状況です。清水建設さんでは以前に、データ分析をもとに大雨被害の復旧支援に関する取り組みをしたという話でした。
大村 グルーヴノーツさんとともに、2018年に広島県呉市中心に発生した西日本豪雨をテーマに「通行止めをどう解除すべきか」のシミュレーションをしたことがありました。方法としては、平時の交通量をもとにどの道路から復旧工事を実施すべきか分析するというもの。データとしては過去の災害情報、道路の寸断情報、道路の復旧工事の実施情報を分析しています。
── 効率的な通行止めの解除方法をデータから提案したと。具体的にはどんな形で?
大村 この画像は土砂災害で通行止めになった場所をプロットしたものです。それぞれ、国道、地方道、市町村道で色分けしています。当時の状況を可視化した上、平時の交通量から見てどの道路から復旧工事を実施させると都市の復興が早いかということを検討しました。
── 西日本豪雨発生時はどう対応していたんですか?
大村 当時は、国や県、市などの行政機関を中心に会議室に集まって、学識の先生も助言して対応されていたようです。我々としては、事前にデータ分析しておくことで、経済復興が早い道路はここだよとあらかじめ知っておけば、あわてずに復旧ができるんじゃないかと考えています。
── そのときにはコンピューターは使っていなかったんですね。
大村 地図を黒板に貼り、通行止めの道路に「×」をつけて状況を確認し、復旧指示を出していたそうです。ただ、学識の先生方は「どの道の交通量が多いか」といった情報は頭に入っているので「まずこの道を通せば呉市と広島市が復旧できるよね」といった議論になる。
── 猪瀬直樹の「日本凡人伝」ってあるじゃないですか。その有名な回の1つが、国鉄の人たちが湯河原あたりで鉄道ダイヤの線を引く話なんですよね。宴会場のテーブルを並べて、ダイヤ図を広げ、叫びながら線を引いていく。そこにコンピューターを持ち込むような世界ですね。
大村 ただし、土砂災害の量はデータ上でシミュレーションできないので「現実的には復興すべきだったが、現実的には復旧工事を実施できなかった」というところも多くありました。たとえばシミュレーションでは2番だったところも、実際にはそれは土砂の量が多すぎて、復旧工事を実施ができなかったようです。
── シミュレーションされた理想と現実の乖離があったと。
大村 とはいえ、シミュレーション上で復旧工事の優先度が高かったところは、現実的にもやはり「ここは復旧させたい」と思われていたところだったんです。シミュレーションはあくまでも示唆なので、行政や専門家と議論できるものにもなります。この分析があることで、行政の判断基準になると考えています。こうしたプラットフォームを作っておけば、次に水害、土砂災害があったときに、土砂で通行止めになったところをプロットしていくことで解除する順番を分析できるんじゃないかという議論をしました。
── 可視化ですからね。あくまでも議論のベースになると。
大村 どの道から復旧工事を実施すればいいかというのは自治体にとって難しい部分があるようです。国は国道、県は県道、市は市道という形でそれぞれの管轄が分かれていることもあり、地域にあった道路復旧計画は、横断的に考えないといけない。我々が客観的に分析して順番をつけておくことで一助になると考えています。
── 行政の死角になりがちな部分をプラットフォームとデータ分析で補っていくと。
大村 行政も地域防災計画を立てていて、大方針はありますが、「どの道から」というところまで落とし込めてないようです。我々の分析が行政の災害対応の助けになればということで着目した形です。
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