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「たてもの」と「まち」のイノベーション第5回

未来につながるプロジェクト「豊洲MiCHiの駅」:

なぜ東京に「道の駅」を作るのか

文●ASCII編集部 イラスト●ほさかなお

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 清水建設が手がける「豊洲MiCHiの駅」は、日本初の「都市型道の駅」とされている。道の駅といえば地方の道沿いにあり、野菜や漬物、ソフトクリームを売っているイメージだが、豊洲MiCHiの駅は鉄道やバスやタクシーが乗り入れる近未来的な交通拠点である。

 豊洲MiCHiの駅はバスタ新宿など全国の交通拠点をネットワークでつなぐ「バスタプロジェクト」のモデルケースとして注目されている。人口が減少し、移動の減少している日本。必要十分な公共交通の整備には道路交通の活用が欠かせない。特に交通空白地が点在する東京臨海部においては、都心部の「山の手線」に対して、道路交通を活用した「海の手線」が構想されているという。

 パワーワード連発の壮大な計画に興味を惹かれたのはおなじみアスキー総研・遠藤諭。豊洲MiCHiの駅に計画段階からかかわる、清水建設スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 溝口龍太部長、建築総本部設計本部プロポーザル・ソリューション推進室 開発計画部 國嶋匡部長に詳しく話を聞いた。

これからの日本は「道路」が鍵に

── 「都市型道の駅」というのは何なんでしょう?

溝口 東大の羽藤先生(東京大学工学系研究科 社会基盤学専攻 羽藤英二 教授)が、都市部において次世代交通拠点、賑わい創出、防災機能等を併せ持つ「都市型道の駅」とも言うべき空間の創出について検討すべきと推奨しています。都心部のあり方は、にぎわいと、安心・安全と、次世代の組み合わせ。そこに軌道系の交通と、道路交通をうまく合わせていく必要がある。そこに拠点としてあるのが「道の駅」だと。もともと駅というのは馬車だから道にあったわけですよね。それをもとに戻すということでもあります。

清水建設株式会社 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 溝口龍太部長

── 都会というものは近代ずっと軌道系の鉄道で動いていたけど、これからは道路交通の組み合わせになり、そのためには都市型道の駅ってのがいるんじゃないかと?

溝口 そもそもいまの日本は人が減っているわけです。国土交通省が人の移動を10年に1度調査している「パーソントリップ調査」というものがあります。人の移動をトリップという単位で計測します。出発地から到着地までの移動を1トリップとカウントするので自宅と会社を往復すれば2トリップ、途中、食事をして帰れば3トリップとカウントします。このトリップの数が、平成30年から初めて減少に転じています。若い人がなかなか外に出なくなったし、ECも普及してきたことも要因ではないかと言われていますが、その上でコロナも来てしまった。人口、移動が減少する日本において、新たな交通インフラ整備における課題は必要十分な公共交通をどう整備するか。次世代モビリティと道路交通をうまく使えばいいという考えになったわけですね。

── 人が減ると、鉄道はコスト効率が悪くなってしまう。

溝口 地下鉄等の軌道系交通の整備には時間とコストが掛かります。右肩上がりの交通需要が見込めない中、B/C(便益費用分析)の観点からも自動運転を含む、道路を使った新しいモビリティ、新しい公共交通を整備する必要がある。そうするとそこに新しい駅が必要になる。そこを「都市型道の駅」と呼ぼうということです。

ゆりかもめ豊洲市場前駅に作られたのがミチノテラス豊洲(資料:清水建設)

拠点として「豊洲MiCHiの駅」と位置づけられている

ゆりかもめ、東京BRT、タクシー、舟運等の様々な交通が接続する交通拠点だ

── いままでは駅といえば電車だったけど、新しい公共交通のための駅が必要だと。

國嶋 都市部ではウォーカブルな街づくりが注目されています。都市型道の駅はその起点になると考えます。「道の駅」は自動車での利用が一般的ですが、都市ではモビリティもあれば鉄道もあり、歩行者の視点がより必要です。また「道の駅」の登録制度では市町村や公的な団体が設置者となりますが、都市では民間施設にも可能性があればと思います。

清水建設株式会社 プロポーザル・ソリューション推進室 開発計画部 國嶋匡部長

── 豊洲MiCHiの駅がそんな拠点になってくる。

溝口 豊洲を含む東京臨海部は半径500m圏内に鉄道の駅が無い、いわゆる交通空白地が多くあり、鉄道だけに頼らない、様々な交通が必要になると考えています。様々な交通の結節点、「都市型道の駅」整備が必要と感じています。

── 公共交通としては必ずしも便利ではなかった。

溝口 加えて、防災ももう1つのテーマになっています。コロナもそうですが、平時と災害時を柔軟に切り替えられる社会が求められる中、平時の賑わい創出と災害時の防災機能を切り替えられる「デュアルモード」に対応した、まちづくりが必要であると考えています。

── デュアルモードの「まち」!

溝口 災害に柔軟に対応できるまちを考える、ということですね。計画段階からデジタルツインで最適化のシュミレーションをして、それを現実の設計や施工に活かしていく。新しい発想でデジタルを活用し、官民連携で新しいまちづくりに取組む事によって、次世代の交通防災まちづくりを見える化することがまちづくりのコンセプトです。

── これから移動も変わる災害も考えるとなると「まち」の設計からやらないといけない。

國嶋 計画の初期段階は自動運転社会の議論が盛んになり始めた頃でした。東京2020オリ・パラを契機に、これからのまちづくりに自動運転を実証実装が進むことを考えると、このプロジェクトが先導的なものになるのではないかと。

── 都内でも自動運転の実証を進めていたんですか?

溝口 東京オリンピック・パラリンピックを契機に都心部と臨海部を結ぶBRTの計画が発表されたタイミングだったんです。人口、移動が減る日本において、交通結節点を取入れた計画の検討を始めました。フードトラックや歩行支援ロボット、燃料電池バス等の次世代モビリティを活用する施設計画です。当然将来実現するであろう、自動運転車の乗り入れも想定しています。

※Bus Rapid Transit。都心部と臨海副都心を結ぶバス高速輸送システムのこと

── そう説明されるといろいろ納得がいきますね。「道の駅って意外だなぁ」と言うくらいにしか思っていなかったのですが。

溝口 豊洲エリア246haを対象に東京都、江東区、民間企業13社と共にまちづくりを推進しています。この取組は国土交通省のスマートシティ先行モデルプロジェクトに採択されました。当社はこの豊洲スマートシティを先導するプロジェクトとして、『ミチノテラス豊洲』を位置付け、オープンイノベーションや様々な実証を行うと共にシミズの次世代まちづくりとして、行政関係者、お得意先にPRをしているところです。国土交通省にも許可を頂き、豊洲MiCHiの駅の称号を使わせて頂いています。

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