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量子は次のインターネット。政府が掲げる1000万人が量子技術を利用する環境とは

連載
大河原克行の「2020年代の次世代コンピューティング最前線」

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「量子未来社会ビジョン」の3つの基本的な考え方

 「量子未来社会ビジョン」では、3つの基本的な考え方を示している。

 一つ目は、「量子技術を社会経済システム全体に取り込み、従来型(古典)技術システムとの融合によって(ハイブリッド)、日本の産業の成長機会の創出や社会課題の解決に取り組むこと」である。

 これは、量子技術を、社会経済システムに一体化することを目指すものであり、具体的には量子コンピュータや量子ソフトウェア、量子暗号通信、量子計測・センシングといった技術を、創薬・医療、材料、金融、エネルギー、生活サービス、交通、物流、工場、安全・安心といった社会経済システムに実装することになる。

 二つ目が、「最先端の量子技術の利活用促進(量子コンピュータ・通信などのテストベッド整備など)」である。

 量子コンピュータの発展だけを重視するのでなく、従来からの古典コンピュータやセンシング、Beyond5Gなどの通信技術、半導体技術が同時に発展することが大切であり、その実現に量子技術が寄与していく姿を構築していくことになる。ここでは、量子技術と古典技術のハイブリッド化が重要になると指摘しており、これらの取り組みによって、経済成長や、人と環境の調和、心豊かな暮らしにつながると位置づけている。

 そして、三つ目が、「量子技術を活用した新産業/スタートアップ企業の創出・活性化」である。

 量子技術イノベーション戦略で盛り込んでいた量子拠点の強化、人材育成や人材確保、知財化や標準化、国際連携などのほか、スタートアップ企業への支援を強化することにより、量子技術の利活用の促進と、産業の創出、活性化につなげるという。

 この3つの基本的な考え方を推進し、量子技術の研究開発や社会実装、産業化によって、「目指すべき未来社会ビジョン」を描いており、ここに「量子未来社会ビジョン」と題した意味がある。

 未来ビジョンでは、次世代高速コンピューティングが仮説と検証のイノベーション創出サイクルを飛躍的に加速し、経済成長を実現する「Innovation」、次世代環境材料の開発やエネルギーベストミックスなどによるカーボンニュートラルの実現、サーキュラーエコノミーの実現など、人と環境が調和し、持続的に発展する社会となる「Sustainability」、量子暗号通信による安全安心な暮らしや、次世代診断による健康、長寿、災害予測、避難誘導システムによるレジリエントな社会など、人々の心豊かな暮らしを実現する「Wellbeing」を網羅した社会の姿を示す。

 このように、経済成長、人と環境の調和、心豊かな暮らしを実現する重要技術に量子を位置づけているというわけだ。

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