Cybozu Days 2022のプロダクトキーノートはプロダクトの話じゃなかった
星野リゾート、ジョイゾー、神戸市 変化に対応できる組織を実現したDXの勇者たち
2022年11月11日 10時00分更新
kintoneにフルコミットするジョイゾーの作らないSIビジネス
四宮氏は、kintoneにフルコミットしたSI企業であるジョイゾーについて説明する。2010年に創業したジョイゾーを立ち上げた四宮氏は、以前から付き合いのあったサイボウズのkintoneの話を聞いて、「もうこれしかない」といち早くkintone専業のSIerとなることを決断。2014年6月には、kintoneを用いた39万円の定額システム開発サービス「システム39」をスタートした。顧客の目の前でシステムを構築する対面開発の手法で、今では900件以上の案件を手がけているという。
同じく39万円の「エコシステム39」では200以上あるkintoneプラグインやサービスの導入を支援。ジョイゾー自らもプラグイン提供を進めており、最近では義務化されたアルコールチェックを省力化する「ちぇっかる」もスタートした。さらにJ-Campという内製化支援サービスも提供しており、4日間で座学と実践でkintoneで培ってきたSIノウハウを注入するという。こちらも一人39万円だ。
さまざまなサービスを手がけつつ、根底にあるのは「できるだけ作らない」ことだ。青野氏は、作ることを生業にしているSIビジネスを手がけながら、他社のプラグインを使い、自社のSIノウハウをユーザーに伝承するジョイゾーにユニークさを感じるという。四宮氏は、「長らくSI=人月単価だったので、始めた当時は『時間換算』で評価され、高く思われたり、安く思われたりした。でも、長らく価値に対する対価であることを伝え続けていたら、だいぶ変わってきた」と振り返る。
DXにまつわる最近のトピックとしては、ブライダルビジネスを展開している八芳園との提携がある。星野リゾートと同じく、コロナで打撃を受けた八芳園も、DXを一気に推進した会社の1つで、そのパートナーとなったのがジョイゾーだ。「今だからこそDXということで、かなりの投資を行なったので、伴走させてもらった」と四宮氏は振り返る。
八芳園がユニークなのは、自らがDX事業を立ち上げたことだ。しかもブライダル業界向けではなく全業界対応で、今回のCybozu Daysでもブースを出しているくらいだ。DX支援を展開してきたジョイゾーから見ると、自らライバルを増やしたようにも見えるが、「クラウド市場も、kitnoneビジネスもまだまだ拡がる。だから、仲間が増える感覚しかない」と四宮氏は語る。
「仲間作り=コミュニティ」という取り組みは今後の大きなテーマだ。最近ではジョイゾーつながりの八芳園と星野リゾートが共同で勉強会まで実施した。今後はジョイゾーがサポートするユーザー同士をつなげ、お互いにサポートするプラットフォームにもつなげていきたいという。青野氏は、「2014年のシステム39の衝撃から、変化が連続的に起こっていることを感じられた」と感想を語った。
感染者増加や制度変更などのコロナ渦を乗り切った神戸市のDX
3番手として登壇したのは、自治体としてDXに邁進する神戸市の二人。デジタル戦略部で長らく神戸市のデジタル戦略をリードしてきた森浩三氏(現:企画調整局 医療新産業本部 医療産業都市部 部長)と現在のデジタル戦略部 ICT業務改革担当 課長の山川歩氏だ。2人ともデジタルに強いわけではなく、生え抜きの自治体職員だ。
神戸市は阪神淡路大震災を契機に長らく業務改革を進めており、2017年頃からIT人材の民間からの登用や働き方改革にシフトしてきた。そんな神戸市がkintoneを導入したのは2018年5月。紙ベースの点検作業を改善したいという下水処理場の現場担当者からのリクエストがきっかけだった。民間登用のデジタル官から提案を受けたkintoneを10ライセンス分、契約したのがきっかけだった。
2018年はペーパーレス化やWeb会議、タブレットなどの導入が進んだ年だった。それからコロナ禍を経て4年が経ったが、今ではkintoneのアプリ数も400となり、ユーザー数も1500人に拡大している。「市民の情報を扱うため、インターネット版のみならず、LGWAN版も導入したが、これが利用拡大の大きな契機だった」と森氏は振り返る。
利用例としては、たとえば公用車の運転日報アプリが挙げられる。もともと紙で行なっていたが、これをkintoneと、トヨクモのFormBridgeとkViewerを使ってペーパーレス化。年間で約5000枚の紙帳票を削減できたほか、走行距離の集計も自動化できるようになった。現在は市長の公用車の管理にも使われているという。
そして、神戸市として特に大きかったのが、新型コロナウイルスへの対応をkintoneで実現したことだ。刻一刻と変わる感染状況や法令に迅速に対応しつつ、職員の業務負荷を抑えるべく、健康局の職員が自らアプリを開発した。ワクチン接種券の発行や高齢者施設での実績入力、医療機関向けの意向調査、相談窓口の入電記録、ボランティアの募集などさまざまなニーズに対応することが可能になった。森氏は、「基本は内製。確かに運用で手は取られたが、時間がなく、制度がどんどん変わる中、職員自身がイニシアティブをとって進めることができた」と森氏は振り返る。
導入効果としては、なにより分散していたデータベースをマスターDBに統合できたこと。神戸市は区役所が10箇所あり、それぞれに保健所があり、これまでは本庁と区役所の管理がバラバラだった。用途にあわせてさまざまなアプリが用意されているが、基本的にはマスターDBに基づいているので情報が連携され、手入力による転記やファイルコピーも不要になった。事務処理や手作業など職員の負荷を減らすことで、感染者の急増にも対応できた。
森氏は、kintone導入で効果の出やすいところとして、紙やFAXなどのペーパーレス化、複数で情報共有するための脱Excel、さまざまな手段で得られた情報の一元管理の3つを挙げる。一方で、kintoneにあわない用途もあるので、その場合は他のツールを使うという判断が必要。また、職員自身のカスタマイズが発生したり、複雑なシステムになる場合は、kintoneの内製化は望ましくないとして、外部のベンダーにアウトソーシングしたほうがよいとアドバイスした。「目的はkintoneを入れることではなく、今までの業務のやり方が最適なのかを考え直すこと」と森氏は語る。
説明を聞いた青野氏が、「第6波の前にできてよかったですね」とふると、森氏は「現場の保健師さんは悲壮感が漂っていた。(システムがなければ)倒れる職員もいたと思います」と振り返る。