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Cybozu Days 2022のプロダクトキーノートはプロダクトの話じゃなかった

星野リゾート、ジョイゾー、神戸市 変化に対応できる組織を実現したDXの勇者たち

2022年11月11日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2022年11月10・11日、サイボウズは幕張メッセにおいて年次イベント「Cybozu Days 2022」を開催している。初日のプロダクトキーノートは、サイボウズ代表取締役社長の青野氏が「DXの勇者たち」に話を聞くというスタイルで展開。星野リゾート、ジョイゾー、神戸市が登壇して、変化に対応できる組織とその作り方について説明した。

変化を前提としたITが間に合った星野リゾート

 コロナ禍においてもリアル開催にこだわってきたCybozu Daysだが、会場は今年も幕張メッセ。「宝島 DXの勇者たち」をテーマにした今年も大規模なセットは健在で、外光を遮った非日常的な空間に、秘密基地やほこらなどさまざまな造作が会場に設置されていた。また、エントランスの「天空の大滝」を抜けると、そこは「パートナー集落」となっており、多くのパートナーがまるでバザールのように出店していた。

 さて、初日の基調講演に登壇したサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏は、今年の「宝島 DXの勇者たち」というテーマについて、「せっかくの機会なので、みんなのノウハウを持ち寄って意見交換し、刺激し合って、今後につながるヒントをお宝として持ち帰って欲しい」と説明。会社概要と「サイボウズ Office」「サイボウズ Garoon」「kintone」「メールワイズ」の4製品の紹介を早々に済ませ、DXに取り組む勇者として星野リゾート 情報システムグループ グループディレクターの久本英司氏を壇上に迎え入れた。

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

 「旅は魔法」というミッションを掲げ、世界に通用するホテル運営会社を目指す星野リゾート。だが、コロナ渦における観光の落ち込みは大きく、売上高9割減という中、18ヶ月の生き残り戦略を立ち上げ、やることやらないことの選択を迫られた。そして久本氏が率いる情報システム部は、「ITでできることが全部やってきた」という。センサーを用いた大浴場の混雑防止、GoToトラベルなど観光支援施策や新決済システムへの対応のほか、大規模なITコストの削減も実施した。

 こうした施策はなぜ実現できたのか? 久本氏は、「変化を前提としたIT戦略が間に合ったから」と振り返る。そして、このIT戦略が間に合った背景は、同社が長らく続けてきた組織作りが実は効を奏していたという。

 話は星野リゾートの情シスメンバーがまだ3人だった2013年にさかのぼる。当時、星野リゾートは規模をどんどん拡大させていたが、情報システム部はこれに追従できず、「成長の足かせ」となっていた。情シスを立て直そうとしていた久本氏がいろいろ調べた結果、IT業界ではすでに今で言う「DXの時代」が予見されており、「デジタルビジネス化」というキーワードで、変化を前提とした組織や仕組みのベストプラクティスが試されていた。そこで久本氏は2020年までにDXの担い手となるためのIT戦略の立案に踏み切った。これが2015年のことだ。

5年後の未来を想像して作ったIT戦略

 その戦略は、当時言われていたデジタルビジネス化に必要なことを全部やるというものだった。特に大事に考えたのは会社の戦略で、久本氏は星野代表自ら書いた就業規則を挙げた。この中で星野氏は、グローバルチェーンに比べてはるかに少ないリソースで、コモディティ化する業界の中で生き残る戦略としては、「持続性は現場スタッフが自らイノベーションを行なうことで実現する」ことしかないと述べている。

 これを実現すべく、たとえばサービスにおいては一人のスタッフが一人の顧客に対するタスクをすべて行なうことで、顧客接点から気づきを蓄積し、顧客満足度につながる提案につなげるようにした。また、組織的に全員フラットに意見を出し合し、コミュニケーションを双方向に行なえるようにした。そして、ひとたび合意形成できたら、チームが一致団結して動くというものだ。

変化に対応できるシステムを作れる組織の方が重要

 IT部門に関しては、変化前提の企業活動を支えることをゴールとし、これを実現するため、「作りたいもの」「作るもの」「作り方」を間違えないようにすることを「チームの能力」として定めた。そして、グローバルチェーンに打ち勝つための施策として、現場スタッフ全員をIT人材化していくことを打ちだした。「グローバルチェーンは予算規模も、情シスの人数もうちの100倍大きい。でも、全員をIT人材にすれば数で勝てるかもしれない」と久本氏は語る。

社員全員IT人材という着想

 こうした方針の下、長く業務を経験したプロパー社員をIT人材として登用し、専門家に育成してもらうことで、ITの自前化を実現しようとした。「システムを作るときに大事にしてきたのは、IT人材を外から採用するのではなく、現場でお客さまと接してきたスタッフの中から、システムで顧客に価値を与えたいと強く思っている人を集めてきた。システムの知識はないけど、こういう人たちを集めるのにこだわりを持ってきた」と久本氏は語る。

 しかし、内製化を前提とした社員育成でのみでできることに限界を感じたのも事実。kintoneのようなノーコード・ローコードツールがあっても、やはり目的によってはプロのコーディングが必要だったからだ。

 その結果、2017年頃からエンジニア採用も積極的に進めてきた。こうした社員のIT人材化と外部からのエンジニア採用により、2013年に3人だった情シスはほぼ20倍の60人まで拡大することができたという。全社員IT人材化に関しても、UMLモデリングは情報システム総研、UXはTWOTONE、システム開発はジョイゾーといったプロに師事し、自ら作り出す力と心構えを得られるようにしているという。IT能力を自前化するための人材の再教育、今で言うところの「リスキリング」だ。

 10年近くをかけて、変化に対応できるITを実現できる組織に作り上げてきた星野リゾート。プレゼンを聞いた青野氏が「こんなシステムを作ってきたという話ではなく、組織作りの話ですね」と感想を述べると、久本氏は、「どんなシステムを作ってきたかは、市場や競合によって変化するので、たいして重要じゃない。変化に対応すべく、どんなシステムでも作れる組織や能力の方が重要」とコメントする。

星野リゾート 情報システムグループ グループディレクターの久本英司氏

 また、基盤についても、どんな基盤であるべきか、デザインし、確証していくことが重要だという。久本氏は「kintoneが苦手な領域もあるので、他社の基盤を用いたり、時には自ら基盤を作るという判断もある」とコメント。さらにせっかくシステムを作っても使われなければ意味がないため、ノウハウの共有やサポート体制など使われるような「活用するための場作り」も重要だと説明した。

 2人目のゲストであるジョイゾー 代表取締役社長の四宮靖隆氏は、星野リゾートのSIパートナーでもある。今は年2回で相互にインターンを行なうプログラムをしているが、四宮氏と久本氏は10年近く「壁打ちをお互いし合う間柄」とのこと。四宮氏が「現場の肌感覚を得られるのがありがたい」と述べると、久本氏は「事業会社のIT部門の立ち位置みたいなものを体験してもらえたと思う」と応じる。

 久本氏は、今後について「これから本当にやりたいことをやっていきたい。来年は今まで蓄積していた力を発揮してみようと思っています」と抱負を述べ、そのまま九州出張に旅だった。

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