「ロボットフレンドリー」な環境の実現に向け、官民のキープレーヤーが実証の成果と知見を講演
「自動配送ロボのラストワンマイルシリーズ04」レポート
経済産業省 製造産業局ロボット政策室「ロボット導入環境のイノベーション」
共通テーマ「ロボットフレンドリーな施設の実現に向けて」の特別講演トップに登壇した経済産業省 ロボット政策室調査員の秦野耕一氏は、特に、施設管理、小売、食品、物流倉庫分野で活用されるロボット導入を加速するための「ロボット導入環境のイノベーション」について語った。
「ロボットフレンドリー(ロボフレ)環境」について秦野氏は、「メーカーとSIer(システムインテグレーター)は個別ユーザーの特別な要望に応えて開発するので、オーバースペックで高コストになりがち」と指摘。ロボットを導入しやすい業務フローや施設環境について取り組み、カスタマイズを不要にして価格を下げ、市場をスケールさせる「社会実装を加速させるロボット導入環境のイノベーションを進めたい」と述べた。
経産省とNEDOで2019年に設立した「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」には、メーカーやSIerだけでなくユーザーも参加。2022年6月時点で会員企業は約60社となる。
SIerとメーカーだけだと、ロボット導入のためにユーザー企業の求める内容と検討内容に差異が生じるおそれがあるため、有力企業が参加することで常にユーザーの声を反映した開発、規格化、標準化、ガイドライン作成を進めている。経産省の予算事業「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」で2022年度の予算額は9.5億円だ。
次に、施設管理分野のロボフレ環境の概要を説明した。オフィスビルや商業施設、駅、ホテル、病院内で移動を伴う搬送や清掃、警備業務を想定する。エレベーターによる縦方向の移動と、扉や大きな段差や凹凸といった床での走行が難所だ。解決策として、エレベーター・扉と通信連携したり、通路幅、床や壁の材質、色など施設環境の物理特性を標準化するなど、ロボットが自律的に移動できる範囲を拡大する。
「ロボットとエレベーターの連携」と「ロボットとドアのセキュリティ連携」の実証実験では、三菱地所が所有するオフィスビルで、ロボットがエレベーターやドアと連携するロボフレ環境を整備して運搬・清掃ロボットを導入。2022年1月25日に「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」において、実運用の状況をお披露目した。
運用事例の動画では、スマートフォンで地下のレストラン街の店舗に弁当を依頼。屋内配送ロボットが弁当を載せて移動する様子が披露された。ロボットはエレベーターを呼び出して乗り、目的地フロアまで自律的に移動して弁当を運び、さらに屋外の店舗からサンドイッチを配送。清掃ロボットは夜間に自動で館内を清掃しているという。
同タスクフォースは2021年6月にロボットとエレベーター連携に必要なエレベーターの上位サーバーとロボットの上位サーバー間のインターフェース規格を発表している。また、物理環境の標準化では、ロボットが屋内で移動しやすい施設の物理環境と、ロボットが備えるべき技術仕様を明確化し、実証実験をふまえて、斜面や段差、通路、床の状態、扉などの項目に「ロボフレレベル」をランク付けした。そして、複数・異種のロボットを同時制御するロボット群管理制御システムの開発も進めている。
小売分野では、ロボットが店舗内で在庫確認、陳列、決済を行うための商品画像データベースの構築を進めているという。商品画像や3D-CAD、把持方法・把持位置・重心といった情報も合わせて格納されるこのデータベースは、さまざまな分野で活用される。
食品分野では、人手作業が主である盛付工程の自動化の重要性や作業員のシフト計算の自動化についても言及。物流倉庫分野では、特に倉庫内のマテリアルハンドリング、ロボット、上位ITシステムとの通信インターフェース標準化、またロボットで扱うケース荷姿の標準化について、2022年秋からの予算事業とTCの活動でロボフレ環境構築を進めていく予定だ。
秦野氏は「運用を工夫することでロボット対応が可能な場面はたくさんあり、使ってみることで技術進歩も爆発的に加速する」と力説。ユーザー側でロボットフレンドリーな環境を作ることはロボット導入に欠かせない視点だとして冒頭の講演を結んだ。