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ローンチ後の名称変更も……知っておきたい知財戦略

「NoMaps2022」セッション STARTUP CITY SAPPORO Presents スタートアップにとって知財は重要? 特許庁と知財専門家に聞いてみた

特集
STARTUP×知財戦略

 この記事は、特許庁のスタートアップの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」(関連サイト)イベントレポートの転載記事です。

 特許庁は、2022年10月19日、北海道札幌市のクリエイティブコンベンション「NoMaps2022」にて、カンファレンス「STARTUP CITY SAPPORO Presents スタートアップにとって知財は重要?特許庁と知財専門家に聞いてみた」を現地およびオンラインにて開催。北海道出身のスタートアップと知財専門家、ITコンサルタントが登壇し、実際に体験した知財トラブル、IT系スタートアップが商標や特許で注意すべきポイント、知財の活用法について語った。

 最初に、特許庁総務部企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼 隆太氏が特許庁のスタートアップ支援施策を紹介した。

特許庁総務部企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼 隆太氏

 スタートアップにとっての知的財産とは、企業価値そのもの。しかし、日本のスタートアップの創業時の知財意識は高くない。投資家はスタートアップへの投資の判断材料として知財を重視しており、不十分な知財戦略はVC(ベンチャーキャピタル)などによる資金調達やM&AなどのEXIT機会を逸失するリスクがある。

 スタートアップの知財戦略構築を支援するため、特許庁では、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)とスタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」の2つのプログラムを実施している。

 IPASは、スタートアップ企業に対し、ビジネス専門家と知財専門家からなる知財メンタリングチームを派遣し、適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略構築を支援するもの。プログラムの成果として、2018年~2021年度までの過去4年間で60社を支援し、うち2社がEXITしている。

 IP BASEは、スタートアップと知財専門家、およびスタートアップ支援関係者のネットワーク構築の場として開設された知財ポータルサイト。インタビュー記事や事例集などの知財情報が掲載されており、知財専門家検索等も可能。そのほか、IP BASE主催でのセミナーや勉強会の開催、YouTubeチャンネルでの知財情報発信、優れた知財活動に取り組む個人や組織を表彰する「IP BASE AWARD」なども実施している。

スタートアップにとって知財は重要? 特許庁と知財専門家に聞いてみた

 セッションには、株式会社BUKARU 代表取締役 森田敦氏、佐川慎悟国際特許事務所 代表弁理士の佐川慎悟氏、myTurn株式会社代表 兼 G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO運営スタッフの関聖二氏が登壇。モデレーターとして特許庁の芝沼氏が参加した。

左から、特許庁総務部企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼 隆太氏、 myTurn株式会社代表 兼 G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO運営スタッフ 関 聖二氏、 株式会社BUKARU 代表取締役 森田 敦氏、 佐川慎悟国際特許事務所 代表弁理士 佐川 慎悟氏

 株式会社BUKARU 代表取締役の森田敦氏は、地域のための部活動支援プラットフォーム「BUKARU」を運営している。近年、教員の長時間労働と部活動の関係が問題となっており、政府は2025年までに運動部活動の地域移行を目指す方針だ。「BUKARU」の特徴は、学校と地域の指導者のマッチングと事務作業のサポート、活動費用を支援する仕組みの3つ。現在は札幌市を中心に、道内の12市町村と連携して実証実験を実施している。

スタートアップが陥りやすい商標のトラブル

 知財というと特許をイメージするが、スタートアップがまず気を付けたいのが商標だ。森田氏によると、会社とプロダクト名の「BUKARU」は当初「BUKATSU」という名称で商標出願したが、似た名称の登録商標がすでにあり、登録できなかったそうだ。森田氏の場合、早い段階で商標を調べたことで大きな混乱には至らなかったが、スタートアップでは、こうしたリリース直前の名称変更で出鼻をくじかれるケースがよくある。

株式会社BUKARU 代表取締役 森田 敦氏。旭川市出身。中学・高校とバトミントンに打ち込み、高校ではインターハイ、国体出場を経験。同校卒業後の2004年から大手フィットネスクラブを経て、2016年に独立。2017年札幌円山にトップアスリートから健康意識の高い一般の方までサポートするコンディショニングジム「FORH BODY PERFORMANCE」を開業。2021年に学校の部活動と地域の指導者をつなぐプラットフォームをローンチし、2022年8月に株式会社BUKARUを設立

 サービスやプロダクトが周知してからの名称変更は損害が大きいので、早い段階で調査、出願しておくことが大事だ。

 スタートアップは知財の重要性をわかっていても行動につながりにくい。佐川氏は、「ステージが変わると知財の重要性が変わる。ビジネスが成功したときに知財の価値、リスクが顕在化するので、早い段階から意識して適切なタイミングで権利化したほうがいい」と話す。

佐川慎悟国際特許事務所 代表弁理士 佐川 慎悟氏。北海道釧路市生まれ。東京理科大学大学院修了。1997年弁理士登録。2000年札幌にて佐川慎悟国際特許事務所を開業。2012年から3年にわたり日本弁理士会北海道会会長(旧支部長)を努める

 佐川氏によると、先輩スタートアップからのアドバイスで知財を意識し、相談にくるケースが多いという。起業前でもピッチで商品名を発表して、商標トロールに狙われるリスクがあるので、事前に出願しておくか、名称は公表しないなどの注意が必要だ。

IT系スタートアップに特許はハードルが高い?

 森田氏は、資料に使う画像の著作権や商標登録などには気をつかっているが、特許に関しては、BUKARUのビジネスモデルは社会課題の解決を目的としているため、特許を取って独占することが果たして社会にとっていいことなのか、というためらいもあるという。

 G's ACADEMY UNIT_SAPPOROを運営する関氏は、「ソフトウェアは既存のソースコードの組み合わせ。サービスが新しくてもプログラム自体は類似性が高いが、プログラムの知財はどこまで認められるのか」と質問。これに対して佐川氏は、「プログラミングで関連する知財は、著作権と特許権。著作権の範囲は広くなく、目に見えるUI部分の類似や明らかなコピペでなければ著作権侵害には当たりにくい。プログラム特許はハードルが高く、少なくともビジネス的に新しくないと特許化は難しい」と答えた。

関 聖二氏。myTurn株式会社代表 兼 G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO運営スタッフ。IT系を中心に活動し、アパレルのネット通販で月商7000万円の販売経験を持つ。ブランディング・マーケティングを中核として、本質に基づいたITコンサルを行う。地方創生や女性支援にも行政と連携して取り組んでいる

 技術的な特徴よりも、これまでにないサービスや機能があるほうが特許性を見出しやすいそうだ。

 資金調達前のスタートアップは、特許出願にかかる時間と費用もネックだ。佐川氏によると、出願準備の書類作成に1カ月以上、出願後はスーパー早期審査を使えば3~4カ月で審査結果が出る。費用は出願手続きに30~50万円、特許庁への登録料などを含めると60~100万円かかるとのこと。ただし、審査請求は3年間保留にできるので、その間に資金調達して登録料などをねん出する手もある。出願費用は、スタートアップ向けの特許減免制度や自治体の補助金などをうまく利用すると良い。

 森田氏はハードルになっているのは、どうすれば特許が取れるのかイメージがつかないことだそう。「まずは専門家に相談して特許を取るためのヒントをもらい、製品をブラッシュアップして出願するのがいい流れかもしれない」とコメント。関氏は、「起業前はいきなり知財専門家へ相談するのは敷居が高いので、まずはコミュニティの先輩スタートアップに相談してほしい」と語った。

 地方のスタートアップは数が少ないからこそ、コミュニティ意識が強く、先輩や仲間に相談しやすいという。身近な相手から話を聞くと、具体的な行動につながりやすい。いい専門家が見つからない人は、まずは地域のスタートアップコミュニティのイベントに参加してみてはどうだろうか。

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