エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編
別府・大分・国東半島のアートが活性化する文化観光を見てきたぞ
NPO法人のBEPPU PROJECTに誘われて、2022年10月10日〜11日の2日間、大分県の別府市と国東半島のアートの取り組みを見て回った。同PROJECTは、「世界有数の温泉地として知られる大分県別府市を活動拠点とするアートNPOで、2005年4月に発足して以来、現代芸術の紹介や普及、フェスティバルの開催や地域性を活かした企画の立案、人材育成、地域情報の発信や商品開発、ハード整備など、さまざまな事業を通じてアートが持つ可能性の普遍化を目指し、アートを活用した魅力ある地域づくりに取り組んで」いる。従来の観光に加えて、アートというレイヤー(層)をかぶせるのはメタ観光的には、きわめて有効だ。
なかでも、BEPPU PROJECTが事務局を務める混浴温泉世界実行委員会は別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』(2009~2015)や『in BEPPU』(2016~2021)などの芸術文化振興事業を、大分県別府市を中心に取り組んできたが、今年は、『東アジア文化都市2022大分県』コア事業として、別府市内で、ベルリンを拠点に国際的に活躍するアーティスト・塩田千春の展覧会を開催した(2022年8⽉5⽇〜10⽉16⽇)。
今回は、この塩田千春展『巡る記憶』と国東半島で2021年と2014年に展開したアート作品を中心に周り、大分市内の大分県立美術館(OPAM)、別府市内のアーティスト・イン・レジデンス『清島アパート』も、現場の人に話を聞けた。大分県は、観光資源が豊富で、非常に魅力的なエリアだが、アートというファクターを加えることで、時代の変遷に地域の魅力を常にアップデートし、インバウンドへのフレキシブルな対応の道も切り開いた。さらに、アートによって、地域の人が、温泉や宿、土産物、特産品という従来の観光業に加え、街づくりの視点からも加わりやすくなり、シビック・プライドの醸成にも役立っているのを感じた。
BEPPU PROJECT公式サイト
https://www.beppuproject.com/
『東アジア文化都市2022大分県』コア事業の塩田千春展『巡る記憶』から大分県立美術館OPAM、アーティストが居住する清島アパートまで刺激的な”新しい観光”
塩田千春展『巡る記憶』は、別府市内の2か所で展示された。塩田は別府の街を巡り、様々なインスピレーションを受け、作品を制作した。それは、かつて卸問屋であった場所、かつて中華料理店だった場所、それぞれの記憶と共鳴しあう。
*展示は2022年10⽉16⽇に終了している
塩⽥千春はこの展覧会の開催に寄せて、以下のような言葉を発している。
「人間中心の生活から離れよう、と大地から湧き出る湯気を見て不意にそう思った。神社や教会など人々の祈りの場所も、戦争が起こる場所も、地球の引力や宇宙の大きなエネルギーによって作らされているだけなのかもしれない。別府の大地は、ものすごい生命力に溢れていた。
卸問屋だった場所では、まるで大地からの湯気が部屋の中まで湧き上がっているかのように白い糸で空間が覆われている。その糸をつたい、ポタポタと水が落ちては波紋ができて、水面は円を描いてだんだん影響されていく。流れる涙も、落ちる水道の水も、肩に降る冷たい雨も、いつも生きている証拠だった。元中華料理屋では、赤い糸が店内を覆う。もう使われていないテーブルや椅子からは当時の店の様子がうかがえる。糸が記憶を紡ぎ、不在となった部屋の記憶を呼び起こす。どちらの空間も、誰もいないのについさっきまで誰かがいたかのように不在の中の存在がある。この場所では人々の記憶が生きたまま湯気のように循環し続ける」
公式サイト
https://www.beppuproject.com/shiotachiharu/
●大分県立美術館
プリツカー賞(2014)受賞や東日本大震災・宮城県女川町の復興支援「コンテナ多層仮設住宅」(2011)などで世界的に知られる建築家、坂茂の坂茂建築設計が設計し、2015年に開業。1階の展示室は、3方をアトリウムで囲まれているが、外部を仕切る水平折戸は高さ6mまで開くことができ、開放するとアトリウムは外部とつながったパブリックスペースになる。3階は、大分県産材で包んだ箱をガラスで覆った外観とされ、ホワイエは、天井が竹工芸をモチーフにした骨組みで組まれ、中庭を透光性の膜で覆われ、外光が取り込まれ、間接的に外部とつながっている。
坂氏は、建築の狙いを「一般的に美術館というとブラックボックスで、中で何が行われているかは入ってみないとわからないことが多い。そのため、本当はもっと多くの人が楽しめる場所であるのに、その機会を失ってしまっている。あまり美術館に行かない人たちをいかに引き寄せるか、そして美術を楽しんでもらい、日常的に人々が集まるそのような仕掛けを建築に与えた」と語っている。
公式サイト
https://www.opam.jp/
●国東半島のアート
国東半島では、2012年の『国東半島アートプロジェクト 2012』を皮切りにアートプロジェクトの開催を重ね、2014年には、『国東半島芸術祭』が開催されている。瀬戸内海と大陸を結ぶ交易の要所であった大分県国東半島は、これまで数多くの人々や文化、時には自然災害など、ありとあらゆるものが海からもたらされ、渡来の文化と土着の文化が混じり合うことで、独自の文化が育まれてきた土地。
国東半島は大分県の北東部に位置し、周囲を別府湾・伊予灘・周防灘に囲まれ、半島の中央には両子(ふたご)山をはじめとする火山群がそびえ、そこから放射状に海岸に向かって谷が伸び、田染(たしぶ)・来縄(くなわ)・伊美(いみ)・国東(くにさき)・安岐(あき)・武蔵の6つの集落(六郷(ろくごう))が開けている。この地で宇佐神宮の八幡神の化身である仁聞(にんもん)菩薩が修行し、六郷満山と呼ばれる文化が始まった。このことから、国東半島は神と仏が共存する神仏習合文化の発祥の地と言われている。
国東半島のアート事業は、2011年ごろから取り組み始め、2012年からさまざまなプレ事業を開催。2012年は「異人」、2013年は「地霊」、そして2014年は「Life〈生命、生きて活動すること、人生、存在〉」をテーマに、国東半島の豊後高田市、国東市にて展開されてきた。
国東半島芸術祭公式サイト
https://www.beppuproject.com/work/229
新設2点の公式サイト・ニュース
https://www.beppuproject.com/news/3519
●「アマネク別府ゆらり」と「アマネクイン別府」
この2つのホテルは2021年12月開業で、「アマネク別府ゆらり」は屋上の別府市内が一望できる温泉インフィニティプールと別府の伝統工芸が魅せるラウンジが売り物。隣接する「アマネクイン別府」(写真3点目)の屋上には、混浴温泉世界実行委員会 (事務局:BEPPU PROJECT)の新プロジェクト[Alternative-State]の 第1弾、サルキスの[Alternative-State #8] Les Anges de Beppuが2022年10月7日に設置された。
公式サイト
https://amanekhotels.jp/beppu/
●清島アパート managed by BEPPU PROJECT(別府市)
大分県別府市にある戦後すぐに建てられた3棟22 室からなる元下宿アパートで、現在、NPO法人BEPPU PROJECTがアーティストの活動支援の一環として運営している。大家さんの「若い人が集まることで、活気が生まれてほしい」という希望を受け、全国各地から集まる様々なアーティスト/クリエーターを迎え、居住・制作環境として活用されており、清島アパート住人による多様な企画が催されている。今は6人が居住している。アトリエでの作業も見学可能(申し込み必要)。3点目の作品は、この日アパートを案内してくれた住人の東智恵さんの作品。
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