TF32+という独特なフォーマットをサポート
次がT-coreである。こちらも詳細はあまり明らかになっていないのだが、MMA(行列乗加算)や畳み込みを高速化する、というあたりはNVIDIAのTensor CoreやAMDのMatrix SIMD、インテルのXMXなどと同じもののようだ。
このT-coreはMMAを行なえるから、GEMMなどの科学技術演算にも使えることになる。もっとも最大でもFP32だから、科学技術計算といっても使えるところはやや限られることになるが。
このT-Coreで特徴的なのは、TF32+という独特なフォーマットをサポートしていることだ。大昔のATIのGPUは内部が24bit構成になっており、これでFPを扱うとFP24になっていたし、最近だとAchronixのFPGAは内部でFP24をサポートしているから全然例がないわけではないが、あまり一般的ではない。
TF32に比べると仮数部が10bit→15bitに増えているぶん、精度が32倍向上しているとは言っても、そもそも仮数部の精度を上げてもそれほど全体としての精度向上につながらないからこそ昨今のAIプロセッサーは学習でもTF32やBF16などを使うようになっていることを考えると、これのメリットがどこまであるのかははっきりしない。
ただ記事冒頭の画像にもあるように、TF32+を使うとピークパフォーマンスがFP32に比べて倍になっているあたりは、性能と精度のバランスを取る上でサポートした方が良いと判断したのだろうが、このあたりはトレードオフの結果をグラフかなにかで示して欲しかった気もする。
また前ページの2つ目の画像を見ると、EUの一番下にTDA(Tensor Data Accelerator)と呼ばれるユニットが配されているが、その詳細が下の画像だ。
V-coreの場合は明示的にcoreからのロード/ストアー命令を受けて動く形だが、T-coreの場合は次の演算が始まる前に自動的にロードが、演算が終わるとストアーがそれぞれ発行されるようで、そのリクエストに応じてアドレス計算とかOut-of-bound Accessの制御などを自動的に行なってくれる仕組みだ。
要するにCPUコアのLSUやAGU(Address Generation Unit)などが行なっている役割だが、通常のLSUやAGUと異なるのは、これがV-coreやT-coreと独立に動くことと、T-coreの場合はTensor Descriptor(どんな形でデータを格納する/格納されるか)を自身で判断することだろうか。
またBR100では、2次キャッシュおよびメモリーに関して、それをUMAで扱うことも、NUMAで扱うこともできるのもやや珍しい。アクセスの効率化を考えれば、個々のSPCは自分のローカルのメモリー(2次キャッシュの一部)を排他的に扱うのが一番良い。
これだと複数のSPCで処理を分担する際に、一度HBMなり2次キャッシュ経由でデータの転送を行なうことになり、場合によってはむしろ効率が落ちる。そうした場合に、すべての2次キャッシュというかローカルメモリーをUMA的に扱えるようにすれば、むしろ効率が良くなるという話である。
ただこれを混在できるのか(例えば3つのSPCはUMAとして扱い、残りの1つはNUMAのままにできるか)は不明である(なんとなくできなそうな気がする)。
もう1つ、よくわからないのがReduction Engineである。そのReductionの説明が下の画像だ。
最初は可逆圧縮メカニズムかなにかと思ったのだが、この左側を見る限り、複数のSPCが同一のメモリー領域をアクセスするようなケースでは、単一の2次キャッシュ領域を共有するようにすることでデータの重複持ちを避けるということらしい。
共有2次キャッシュなら当然では? と思うかもしれないが、BR100/104の場合はNUMAモードもあるから、基本SPCごとに2次キャッシュにデータをロードすることになる。
ところがUMAモードの場合は、Reduction Engineが「どこの2次キャッシュにそのデータがあるか」を把握して、重複して持たないような工夫が施されるようだ。またTable Lookupを高速化するアクセラレーターも搭載されているようだ。
なんというか、GPU的な構造を持っている部分もあるが、全体としてみるとGPUというよりはやはりAIプロセッサー的な色合いが非常に濃いもので、ターゲットはやはりAIプロセッサー向けであろう。HPC向けにはあまり向かない構成である。
問題はこれがいくらで販売されるか? というあたりだろうか。NVIDIAのH100やAMDのInstinct MI200/300、あるいはインテルのPonte Vecchioなどに比べると全体的には保守的な構成で、こうしたハイエンドGPGPUにはピーク性能ではおよばないが、その分安ければ“Poorman's DGX”的な位置付けで売れそうには思う。
中小クラウドプロバイダーなどでは、案外導入の余地はありそうに思う。ただフルに性能を発揮しようとすると、BR100/104独特のメカニズムをきちんと使ってやる必要がありそうで、そのあたりに少し難があるかもしれない。
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