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遠藤諭のプログラミング+日記 第145回

ブロックdeガジェット by 遠藤諭 044/難易度★★★

家電やAV機器はロボットだ、だからソニーがロボットをやるのは当然なのだ

2022年08月12日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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元祖エンタテインメントロボット「aibo」と
新型ロボット「poiq」の間になにがある

 ソニーが、新しいエンタテインメントロボット「poiq」(ポイック)に関するプロジェクトを開始している。すでにニュースやレポート記事などでご覧になっている人も少なくないと思う。《倒立振り子》の原理で机の上にちょこんとのっていて、人と対話して成長していくコミュニケーションロボットだ。

 一般から公募されたユーザーは、5000円の参加費を支払って《研究員》となり1年間の期間限定でpoiqを育て、成長を楽しむというプロジェクト。リリースには、「ソニーは、アニメ、映画やマンガなどの物語の中で描かれる主人公に寄り添い共に成長していく《バディ》のような存在を実現するためにpoiqを構想しました」などとある。

 私の世代でいうと『光速エスパー』で肩にのっている小鳥型サポートロボット「チカ」(東芝スポンサーの番組だったが)を想像する。『ゲゲゲの鬼太郎』における「目玉おやじ」のようなものもこの領域といってよいだろう。鬼太郎の世界といえば、誰かが「ロボットにいちばん近いのは《妖怪》ではないか」と言っていたのを思い出す。

 ソニーでロボットといえば、なんといっても1999年に発売された「aibo/ERS-110」である。世界のソニーがロボットを発売したということで大きな話題となった。当時、月刊アスキーでは、プロジェクトを率いたソニーD21ラボの土井利忠氏へのインタビューを発売前月に掲載、『aibo誕生』という定価1万8000円の豪華本なんてのも作らせてもらった。

 aiboの企画が発表されたとき、ソニーの社内でも「オモチャみたいなロボットをソニーが発売するのか?」みたいな声があったそうだ。たしかに、aiboは、合計22軸の自由度による動きで生き物らしさを感じさせる。“育てゲー”的な楽しさは与えてくれるが、逆にいえばそこまでしかできない。ソニーが、そんなロボットを作る必要があるのか?

 しかし、よく考えてみてほしい。家電製品というのは、もともとロボットみたいなものなのである。いちばんわかりやすいのが、洗濯機や掃除機のうよな白モノ家電だ。洗濯をする自動ロボットが洗濯機であり、お掃除を手伝うロボットが掃除機なのである。

 1960年頃の“家電の三種の神器”といわれたのが、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫だ。「洗濯機」によって家事から少し解放された主婦たちが、白黒テレビで見ていたのがメロドラマだった。人々の生活だけでなくコンテンツを経由して心の領域と関係してくる。家電ほど文化を作れるものはないといってもよい。

 私が現役でいちばんロボット的に体験できたのは、「ラジカセ」だ。これが大ヒットした背景には“受験戦争”という社会現象があり、コンパクトカセットと“タイマー録音”という家電におけるイノベーションがあり、深夜放送やパーソナリティという文化が生まれた。

 poiqが、使うユーザーに寄り添い対話しながら成長していくコミュニケーションロボットとなったのも、なにかの偶然というわけではないはずだ。人々は、言葉と知識の中に埋もれたり振り回されたりしながら生活しているのがいまだからだ。

 aiboに関していえば、その開発そのものに歴史的にみた存在価値があるといえる。

 aiboの原型は、1997年に、米国で開催された自律型エージェントの学会で「OPEN-R」というロボットアーキテクチャとともに発表。土井利忠氏が、「2000年までに、これをベースにした家庭用のロボットを発売する」と発言。さまざまな形で、人に協力して活動するソフトウェアやハードウェアにつながる技術だった。

aibo発売の前月1999年5月号の月刊アスキーに掲載された土井利忠氏へのインタビュー。ロボットアーキテクチャであるOPEN-RやAAに関して熱く語られている。

 土井利忠氏は、AA(Artificial Autonomous=人工的な自律システム)として、「命令しなくても動く」、「決められた問題以外にも対応できる」、「それぞれの個体が個性を発揮して協調して動く」、「学習する」、「寿命がある」、「各個体の一部を継承して世代を超えて進化できる」の6つの特徴があると述べている。このAAは、リアルとサイバーとともに協調しながら進化していくものだそうだ。

 しかし、実際のコンピューターの世界は、アップルもグーグルも、マイクロソフトも、ずっと現実的かつ古典的なアーキテクチャの上でソフトウェアを動かし続けることになったのはご存じのとおりだ。この原稿を書いているAIのあるいまの時代のソフトウェアは、こうしたAAの世界になりうるという気もしてくる。

 少なくともリアル空間で活躍する家電の世界は、こうしたアーキクチャで動いていてもおかしくないはずではないか?

 私が、歴史的なコンピューターを作っていくブロックdeガジェット。都合により4月20日公開の「Apple II」のあとお休みしていたが、このaiboで再開させていただぐことになった。最小のブロック数でその製品とわかるものを作ろうというのがこのシリーズの主旨だが、なんとか初代aiboの形になったつもりでいる。以下、ご覧あれ。

 ところで、私がテレビ東京の『開運! なんでも鑑定団』に「未開封の初代AIBO」で出演していたのをご覧になった方もいると思う。編集部用と自宅用の2体のaiboを購入、編集部の1台をいじりまくっていたので、自宅のaiboが未開封のままとなってしまったのだった。鑑定を依頼することになったちょっと特殊な経緯は、いずれまた。

 

「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/YILVxzo0XrY
再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
「in64blocks」:https://www.instagram.com/in64blocks/

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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