VIVA Tech 2022、持続可能性をテーマに日仏スタートアップ6社がピッチ
VIVA Technology 2022日仏スタートアップ
フランス・パリで2022年6月15日〜19日に開催されたスタートアップイベント「VIVA Technology 2022」で、日本とフランスのスタートアップが参加するピッチコンテストが開かれた。主催は独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)。日本とフランスそれぞれ1社が勝者として選ばれた。
日本の「J-Startup」をVIVA Techで紹介
ピッチコンテストは、パリの南にあるVIVA Technology会場に設けられたピッチスタジオで6月17日に開催された。冒頭でジェトロ・パリ事務所の武田家明所長は、フランスのスタートアップ支援「La French Tech」の日本版として「J-Startup」がスタートしていること、岸田内閣が2022年を「スタートアップ創出元年」としてプッシュしていることなどを紹介した。
3分間のピッチを行ったのは日本からファーメンステーション、ストリーモ(Striemo)、RUN.EDGE(ラン.エッジ)、フランスからYnsect、Flying Whales、BySTAMPの合計6社。日本の3社はVIVA Techのジャパンパビリオンに申請した30のスタートアップから選ばれ(ジャパンパビリオンには10社が参加)、フランスの3社はジェトロが主催したJapan Challengeに応募した300社から選ばれた。テーマは持続可能性(Ynsectとファーメンステーション)、モビリティ(Flying Whalesとストリーモ)、未来のテクノロジー(BySTAMPとRUN.EDGE)の3つ。
審査員は、みずほ銀行のManaging Director Head of France Hiratsuka Junichi氏。楽天ヨーロッパ Strategy&Operatinos Director EMEA Fukuya Rio氏。Dassault Systemsの3DEXPERIENCE LABでイノベーショントップを務めるFrederic Vacher氏。OneRagtimeのベンチャーキャピタリスト、Oscar Perivere氏の4人が務めた。
ファイナリストは日仏ともにサステナビリティ系ベンチャー
ファイナリストに選ばれたのは、日本からはファーメンステーション、フランスからYnsect――ともに共に持続可能性カテゴリのスタートアップとなった。
ファーメンステーションは未利用資源を発酵・蒸留してエタノールを製造し、残った発酵粕から化粧品を製造する。「食品廃棄、化粧品のサステナビリティ、双方の課題を解決する」と代表取締役の酒井里奈氏は説明する。
日本の酒から着想を得た独自の発酵技術を持ち、休耕田を耕して育てた無農薬・無化学肥料米から製造したライスエタノールが主力製品。酒井氏は「良い匂いで、肌にも優しい」と、「革命的」であることをアピールする。製造の過程で代替エネルギーを使っており、水の消費も少ない。
ビジネスモデルはBtoB、BtoCで、ファーメンステーションの材料は200以上のアイテムに使われているとのこと。化粧品、雑貨などの商品開発も行っている。JR東日本とのアップサイクルによるりんごエタノール配合の除菌ウェットティッシュ開発など、コラボレーションにも積極的だ。今後は独自ブランドにもフォーカスしたいとしている。フランスにはサステナブルな材料へのニーズがあると見込んで今回のピッチに参加したそうだ。
Ynsectは、ミールワーム(ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫、飼育動物の生餌とするために飼育・増殖されている)の飼育と、ミールワームを人、ペット、家畜動物などの食材にする農業・フードテックベンチャー。2011年にフランスで創業、オランダ、米国に進出。東アジアに拡大を図っているという。
ミルクプロテインとの比較では、栄養価は同等で、コレステロールは60%少なく、プレバイオティクスの効果も高い。植物・土壌への肥料としては、無機質肥料と比較して小麦などの収穫が20%改善。微生物の活動は180%も増加するという。
同社は現在、ディジョンに完全自動化された工場を持つが、アミアンに年20万トンの製造能力がある、4万5000平方メートル規模の大規模な製造拠点を建築中。年内に完成を見込むという。
モビリティ、スポーツテック、セキュリティのスタートアップたち
<安定性のある電動マイクロモビリティを開発するストリーモ>ファイナリストには選ばれなかったが、残る日本とフランスの4社のスタートアップを簡単に紹介する。
モビリティ分野のストリーモは、社名と同じ電動マイクロモビリティ「Striemo」を製造する日本のベンチャー企業。
ピッチを行った共同創業者で取締役・執行責任者を務める橋本英梨加氏は、電動スクーターの事故は自転車の18倍という数字を最初に示し、「電動スクーターなどのマイクロモビリティは脱炭素社会の乗り物として期待されているものの、安全性が課題になっている。Striemoはこれを解決する」とミッションを紹介した。
起立、歩行、走行の3モードがあり、最大の特徴は、3輪と独自のバランスアシストシステムによる安定性。重量は20キロだが、折りたたみも可能。重量について聞かれた橋下氏は、「これが安定性につながっている」と紹介する。共同創業者でCEO/CTOを務める森庸太朗氏は、ホンダの自立二輪車などの開発を手掛けた人物だ。
日本で先行販売をスタートしたところ、最初の48時間で1200台の注文があった。今後の計画としては、日本で2022年中に販売を開始し、2023年にはフランス市場でも販売する。BtoCに加え、BtoB、対政府のBtoGでも展開を予定しているそうだ。
<産業用飛行船を開発する、Flying Whales>
Flying Whalesは、鯨(Whales)のような形状の産業用飛行船を開発するベンチャー企業で、2012年に創業。地上のインフラを必要とせず、アクセスが難しいエリアでの空輸を実現するため「インフラのない内陸の経済発展」「環境へのインパクトをおさえた空輸」と2つの課題を解決する、とピッチを行ったFLYING CAREのプロジェクトマネージャ、Octave Jolimoy氏は話す。
LCA60T(Large Capacity Airship 60t)として、長さ96メートル×幅8メートル×高さ7メールペイロード重量60トンの飛行船を製造。、燃料のヘリウムを非加圧セル14基に保存し、、32のプロペラによる制御性、大型のカーゴベイなどを特徴とする。速度は時速100キロを実現した。重量物運搬ヘリコプターと比較すると、ペイロードは12倍、CO2排出量は20分の1になったという。
森林における建築資材の搬送などの利用を想定し、今後さらに用途を増やしていく。物流コストを最大70%削減できるという。
現在LCA60Tは最終エンジニアリング段階にあり、2024年以降に飛行テストに入る。2032年までにLCA60Tの拠点を152に増やす計画で、アジア市場の開拓拠点として日本への進出を図っているという。日本とアジア地区での新しい用途の開拓や製造ラインでのパートナーも模索したいという。
<拡大が続く、スポーツテックのRUN.EDGE>「未来のテクノロジー」では、日本からはスポーツテックのRUN.EDGE(ラン.エッジ)のピッチを行った。
RUN.EDGEはスポーツの映像分析を提供するスタートアップだ。CEOの小口淳氏によると、野球の映像分析「Pitch Base」は、すでに日本のプロ野球の75%が導入、米国のプロリーグ(MLB)でも20%が利用しているという。ARR(年間経常収益)は360万ドルに達しているとのこと。
野球でスタートした同社はサッカー、ラグビー、バスケットなどのフィールドスポーツに拡大した「FL-UX」を展開、開始から1年で125のクラブ(そのうち10クラブがプロ)、1471のユーザーを抱える。また、スポーツアナリティクスのSaaSサービスも好調だという。
2016年に提供を開始以来、事業は右肩上がりで成長しており、2022年4月時点で全体のARRは420万ドルに。「ビデオシーン映像プラットフォーム企業になっている」と小口氏。
小口氏は、オンラインビデオプラットフォームの市場規模は2027年に200億ドルと予想されていることに触れ、「この市場で大きな部分を獲得し、ビデオの再生から、シーンの再生へと世界のビデオ文化を変えたい」と述べた。
<CES Innovation Award 2020に選ばれたBYSTAMP>フランスのBYSTAMPは、物理スタンプの「KEYMO」と専用アプリケーションにより、デジタルスタンプを開発するベンチャー。CES Innovation Award 2020にも選ばれた。
印鑑のようにハードウェアのKEYMOで押印すると、AIとブロックチェーン技術により認証と追跡を行う。事前に、スタンプのアクティベーションを行い、ソフトウェア側はBYSTAMP モジュールを組み込んでおく必要がある。これにより、スマートフォンやタブレット上に、KEYMOを押すことで署名ができる。
「これまでの印鑑(スタンプ)や手書きの署名をデジタル的に1クリックで行うことができ、ハードウェアベース・オフラインによる安全性も特徴」とピッチを行ったセールス担当バイスプレジデントのBertrand Jomard氏は述べる。
現在プロトタイプの段階だが、9月には提供を開始する。紙とハンコ文化の日本にチャンスを感じており、実際に日本からも関心が寄せられているそうだ。