PoCの前に現場のメンバーがPoCを実施
IoT.kyotoスターターパックの成功体験は圧倒的だった。中井さんは、「今までこの手のシステム導入は、期間とお金がかかっていました。しかも、今まで試験的に持ってくるものは、だいたいうまくいかなかったので、1回目でここまで成功してしまったことにみんな驚いていました」と振り返る。さらに続くフェーズ2では工場からの依頼で、次は工場全体ではなく、フィーダー(設備が繋がる分電盤)で電力を見える化したという。
関連記事:工場の電力デマンドを監視して契約電力を削減<フェーズ2>(KYOSO)
https://iot.kyoto/usecase/2017/05/30/2547/
面白かったのは、中井さんがこのプロジェクトの話を社内ミーティングで5分間披露したところ、参加していた多くの経営者や幹部の関心を惹き、さっそく別の工場への横展開が始まったことだ。
続いて手がけたのは山口県にあるファインケミカル系の工場で、今度は反応窯内の温度監視の用途だった。四日市工場の例があったので、中井さんは辻さんとまずは現場に行ったのだが、センサーはあるが、古すぎてアウトプットがなかった。結局、機器にロガーを取り付け、PLCやロガーに標準対応したゲートウェイでクラウドにデータを送るという方法で解決できたという。「四日市の事例で変な自信がついていたのですが、行ってみたらびっくりですよ(笑)」と、なんだかトラブル話も楽しそうだ。
大手メーカーが手がける製造業のIoTシステムは工場全体が対象だが、IoT.kyotoのアプローチは既存の設備にアドオンする形のスモールスタートする。二人のアプローチは現地を見学しながら要件に落とし込み、導入先の工場に機器一式を送ってしまうというもの。「僕らがPoCする前に、現場でPoCしてもらうんです。機器自体はもともとFA機器なので、現場でも使い慣れています。説明しないでも、勝手にいじっていいところまでやってくれます」(中井さん)。
もともとあったFA機器の延長として扱えるので、現場のエンジニアの協力も得られやすい。「すでにあるケーパビリティを最大限に活用するという考え方はトーア紡さんから学ばせてもらった。高圧電力を引き回したり、盤に収めたりするのは、われわれでは無理なので、工場側にお願いしています。現場の人が汗をかいてくれるって、とても重要です」(辻さん)。
なにより、スモールスタートのアプローチのメリットは工場全体を止めなくてよいこと。「レガシーな機械がいっぱい動いているので、電力計をいじくろうものなら、いったん止めなくてはいけない。でも、われわれのやり方の場合、既存設備の出力を収集するだけなので、設備はほとんど止めないで済みます」と中井氏は語る。工場側で設置や配線を終えたら、中井さんと辻さんが最終調整を行なって、プロジェクトは完了。おおむね2~3回程度の訪問で電力の見える化が実現できたという。
電力の可視化に加え、紡績で有用な温湿度のグラフ化も
そして、2019年にチャレンジしたのが、グループ会社である東亜紡織の宮崎工場。ここでは毛糸製造を行なっているが、データを自由に取り出せるPLCがなかった。電力はアナログメーターを目視で監視し、手書きで記録。設備の警報装置での電力監視という状態だった。「ここは僕の押し売り(笑)。思い切りレガシーなマシンがあるの知っていたので、やりたかったんです。行ってみたら、本当に口(アウトプット)がなかった」と中井氏は語る。そこで、四日市や山口ですでに実績のあるデマンド管理を導入した。
ここでは工場の協力も大きかった。たとえば、宮崎工場の電力計は本来240Vまでしか計測できず、高圧電力を測るには高価な電力計やパルスを出力できるスマートメーターを用いるしかなかった。しかし、新たに電力計を設置し、VT(Voltage Transrer)という方法で変圧器を間にはさむことで、高い電圧のモニタリングまで可能になる。このモニタリングは、実は四日市工場のメンバーが経験済みで、部長が回路図を書いて、宮崎工場に送ってくれ、実装にこぎつけたというエピソードもあったという。中井さんは「技術者同士のつながりができた。IoTって人をつなぐんだよね」というコメントには私もぐっと来た。
また、宮崎工場では工場内での温湿度管理も実施した。毛糸製造には工場内の温湿度の最適化がきわめて重要だが、いままでは4箇所に設置された温湿度記録計と空調機器を管理する熟練作業員によるアナログな空調だった。「工場に見学に行った日がとても天気がよくて、湿度が一気に下がった日だったんです。目視監視での苦労を目の当たりにし、これはやらないとあかんと思いました」(中井さん)
そこで導入されたのが太陽光で自家発電する電源不要の「EnOceanセンサー」だ。工場内に10箇所以上に設置されたEnOceanセンサーは収集した温湿度データをサブギガ帯の通信で、IoTゲートウェイに送信する。そこからはSORACOM経由でクラウドにデータが送られ、ユーザーは温湿度をダッシュボードから確認できる。しきい値を超えた場合は画面に色が付いたり、アラートメールが飛ぶ。こちらもEnOceanセンサーとゲートウェイの位置決めを工場の現場メンバーに任せた。
宮崎工場では、電力量を初投入されたIoT.kyotoのMORAT GWで収集している。初号機が過電流で壊れてしまうというハプニングはあったが、もちろん導入は成功。Modbus RTU規格のプロトコルをクラウドに適したAPIに変換し、ダッシュボードで可視化されているという。
関連記事:現場業務や設備を変えずに老舗紡績工場の電力使用量をデジタル化し、電力ピークを抑制(SORACOM)
https://iot-usecase.com/toabo/
工場内の電力デマンドや環境データを可視化・監視する(インタビュー)
https://iot.kyoto/usecase/2020/03/24/8072/
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