紡績機の生産量をIoTで測ってみる 宮崎工場のチャレンジ
電力のデマンド管理、温湿度の管理を成功させた宮崎工場では、さらに精紡機の生産量の把握というチャレンジにまで踏み込んだ。
精紡機は、紡績の最終工程で用いられる機械で、前工程で作られた粗糸を引き延ばし、撚りをかけて糸にした後、ボビンやチーズに巻きとる。そのため生産量を知るためには、機械の回転数を計測すればよい。宮崎工場では現場の工夫で1回転ごとにパルスを送出するリードスイッチと電卓を組み合わせた簡易生産量計を作っていた。「この段階で8割方IoTはできているんです。ただ、今までは電卓の数値を手書きしていたので、これを自動化することにしました」と辻さんは説明する。
具体的には、34台の機械からパルス信号として送出される回転情報を無線ノードでカウントし、一定時間でアクセスポイントに送り、MORAT GWでクラウドに送る構成にした。コロナ禍ということもあり、現地にモノを送っただけなのですが、1週間くらいでデータ収集まで実現したという。
苦労したのは、簡易生産量計で利用していたパルス信号がそのままでは今回導入する無線ノードで正確にカウントできなかったことだ。物理的な接点の動作をカウントする場合、チャタリングという現象が起こり、パルス値がうまくとれないことも多い。本番導入前に設備担当の方にチャタリング解消に関する簡単なレクチャーを行なったところ、回路を改修し、見事解決。34台の設備から正しい回転情報を取得できるようになった。現場力はやはり偉大なのである。
ここらへんはまさにIoTならではのポイントだ。「基幹システムってインプットとアウトプットって決まっていますが、IoTってそうじゃない。インプットもよくわからないので、作ろうという世界。だから、不確からしさを許容する勇気はすごく必要。『成功するの?』と言われても、『よう分かりまへんわ』と言う世界なんで、現場の人と一歩ずつ進んでいかないと難しいんです」と辻さんは語る。
最終的には精紡機の生産量から、原価をリアルタイムに算出し、基幹システムとも連携したいという。「現時点では今あるプロセスをデジタル化するという意味では、デジタイゼーションです。でも、プロジェクトの成果をいくつか集めて、デジタライゼーション、DXまで持っていこうと考えているのが中井さんのうまいところです」と辻さんは語る。
関連記事:MORAT GW(無線接続)で工場設備の生産量記録作業をデジタル化(インタビュー)
https://iot.kyoto/usecase/2021/10/22/11159/
どの現場も、工場の現状をビジュアルでどこでも見られるという点は、大きなインパクトだった。「見える化によって、みなさん対応も早くなっていますし、意識も高まっています。IoTで効果を出していることを社員が認識してくれると、DXにつながっていきそうです」と中井氏は語る。
SORACOMのメリットは立ち上がりの早さと開発者へのやさしさ
SORACOMのメリットはやはり立ち上げの早さだ。「工場ってWiFiやら、回線引くだけでもコストも期間もかかるので大変。その点、ソラコムを使えば、ネットワークの工事をしなくていいし、使いたかったらすぐに使えます。他のキャリアみたいに、免許証や登記、社長の印鑑なんて必要ありません」と中井さんは語る。
辻さんからすると、デバイスを開発する側にやさしいという点だ。「デバイスからクラウドまで一気通貫でセキュアな通信が用意されている点。しかも、クラウドにデータを送るプロキシサービスも揃っている。とにかく平文でJSONフォーマットのデータを投げておけば、あとはSORACOMがよしなにやっておいてくれます」(辻さん)。
製造業の場合、利用するマイコンも長寿命が要求されるが、セキュリティ技術や暗号強度が上がると、デバイスはどんどん陳腐化してしまう。しかし、SORACOMを使っておけば、プラットフォームとしてセキュリティを担保してくれるので、デバイスはシンプルに保っておけるという。
そして、二人のIoTジャーニーを掘り起こすと、製造業IoTの成功につながるポイントをいくつも得ることができる。
たとえば、現場を巻き込むコツ。辻さんは、「やはり、成功体験を持ってもらうこと。中井さんも電力の見える化で成功したから、次に行ったんだと思います。『謎の小箱がなんかしよる』ではなく、現場の方がなにをするのか理解したうえで成功体験をもってもらうのが重要だと思う」とコメントする。
一方の中井さんは、「現場は動いているので、そこに割って入って、プロジェクトをやらせろなんてそもそも無理です。IoTって機械を制御するのではなく、データさえもらえばいいんです。だから極力遠慮がちに、『ちょっとこのデータ欲しいんです』『これ取り付けたいんです』と説明して、デバイスを送るんです」とアドバイスする。
情シスの経験が長い中井さんは、「現場に行って、『なにやりたいですか?』なんて聞いたら、絶対ダメですよ(笑)。僕たち情シスの仕事のやり方がそうだったんです。でも、今やろうとしていることって、現場の人たちの持っている知識の範囲外のことなんです。だから、聞いたところでダメです。でも、今では現場からやりたいことがでてきました」と語る。
その点、今回の事例でうれしかったのは、なにより現場が喜んでいること。イメージ通りにIoTが動き、きちんと効果が出て、現場から声が上がる。「結局、僕たちも喜んでいるんですけどね」と中井さんは語る。
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