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遠藤諭のプログラミング+日記 第142回

本来ならこの時期COMTEX TAIPEIで台北を堪能していたはずの方々へ

台湾への移住まで視野(?) 実践的《台湾ラブ本》で癒される

2022年06月01日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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コンピューター関係者なら恋しい『台湾の日々』をお届けしよう

 台湾在住のライターでコーディネーター、「你好我好」の店主でもある青木由香さんの本が届いた。《暮らしの図鑑》というシリーズの1冊として『台湾の日々』(翔泳社)という本である。このシリーズ、布、お茶の時間、薬膳、ガラス、漢方薬、調味料の味わいといったテーマでいままで出てきたようだが、いきなり「台湾の日々」という具体的な地名がブチこまれた!?

 ちなみに、本の背中にシリーズのコンセプトらしい「マネしたい生活のあれこれ A to Z」×「基礎知識」×「実践アイデア」という言葉が書かれている。台湾の日々を、マネする。そのための基礎知識やハウツゥまで書かれているというものらしい。「台湾、いいよね~」と味わっているところから一歩踏みだそうという本のようだ。

 さっそく開いてみると、これが青木さんならでばのトピックと切り抜き画像がどんどん飛び出してきて楽しい。Part.1が「台湾にまつわるモノ・コト・人のA to Z」となっていて、まず「古いもの、昔ながらのものを使い続ける」とある。ご存じ《大同電鍋》が登場。コンピューター業界的には、日本でAXパソコンを売っていたこともある大同が1960年代に東芝と提携して作った電鍋をいまだに売っているというお話。台湾人は電鍋がないと死んでしまう。国花ならぬ、台湾の国鍋━━だそうだ。

我が家でも大同電鍋は活躍しているがこれは1200万台出荷記念の同社のコマーシャルソングのオルゴールになっている大同電鍋の灰皿。

 「獨立書店などが豊かな書店文化」では、台湾の年間出版数は、年々減少傾向にあるとはいえ、2019年で世界2位。自由で柔軟な台湾で作られた本は、国内ばかりか、中国語圏や世界中の華僑がいる国にわたり、読まれている━━とある。日本橋にできた誠品生活は、私も大好きで何度も出かけているのだが、日本の出版人はもっとまじめに台湾の出版文化自体を研究すべきかもしれない。

 これは知らなかったと思いつつそうかもと思ったのは「掃除は箒とモップでこまめにする」とある。掃除機なんか使わず、そのかわり気楽にササっとこまめにやる。ピカピカにするより、まあまあな状態をキープして良しとする━━だそうだ。そういえば、はじめて台湾に行ったとき「台湾の犬って寝てばかりいるな」と思ったら、犬のくせに歩道橋を渡っていて驚いた。似ているようで犬ですら文化が違う台湾だ。

 これはもう買って読んでもらうのがいちばん早いのだが、こんな調子のPart.1「台湾にまつわるモノ・コト・人のA to Z」に続いて、Part.2が「知っておくと楽しい台湾の基礎知識」、Part.3がPart.1の続き、Part.4が「台湾的暮らし方・実践編」となっている。とくに、Part.4は、これ読んで本当に台湾に移住を試みる人が大量発生するんじゃないかと思えてしまう。

明日からマネできる! 「人間の自然現象に抗わない」生活習慣

 青木由香さんといえば、2006年に『奇怪ね/一個日本女生眼中的台湾』(布克文化刊)という本が台湾で出版。その日本語版である『奇怪ねー台湾』(黄碧君訳、東洋出版)が2011年に出版された。日本語版の表紙には、「グッバイ、気苦労!!」と書かれていたのがなんともはじけている感じでよかった。

『奇怪ねー台湾』。採血に行ったら血と尿の試験管が1本おきに並んでいたくだりを思い出す。

 コンピューター業界にいる方には、毎年6月に開催されるCOMPTEX TAIPEIに通っていたから台湾はよく知っているという人が少なくないはず。台北は、東京よりも緯度的に約10度も南にあるので亜熱帯の気候である。COMPUTEXにでかけてスコールにあうのはごく当たり前のできごと(しかも30分もするとさっきまでの大雨を忘れたようにカラリと太陽が顔をのぞかせる)。日差しは強いがビルの前は直射日光を避けるアーケードになっていて大きな通りも裏通りもとにかく緑が多い。

 台湾に住む人々は、まさにこの温暖でゆるりと優しい気候にシンクロした感じで、この本によれば、「良くも悪くも忘れっぽい」とか、「風変わりな人でも受け容れる」とか、「熱しやすく冷めやすいけど、熱意溢れる人々」とか、「人間の自然現象に抗わない」などといった感じになる。こうした台湾人の性癖のなかで、「人間の自然現象に抗わない」とはなにか?

 お腹が空いたら仕事中でも、小学校でもちょっとなんか食べてもいい。誰かがゲップやおならをしちゃったら、優しく反応してあげる。台湾では、ヨガレッスン中にお腹を圧迫したポーズでお姉さんがプーしても(そもそも無理に我慢もしてない)、優しい声で「自然現象ね」と軽く流してあげる。青木さんは、自分だってやれるし、楽になる、体にもよいと書いている。この暮らしの図鑑シリーズのコンセプトは「マネしたい生活のあれこれ A to Z」である。念のため。

『台湾の日々』より。こういう文字が並ぶだけでヨダレが出る。

 ところで、『台湾の日々』の巻末には、青木由香さんの年譜のようなものがついていて、そこに私も登場している。「2003年 遠藤さんに知り合う」となっていて、ちゃんと当時のことを覚えていたんだと感心。「台湾生活をメルマガのように書いて知り合いに送っていたのを遠藤さんが面白がり、出版社へ売り込む指導を受ける」などと書いてある。そうなのだ、彼女が知り合いに送っていたメールの内容が楽しかった。その断片が残っているので以下に紹介しよう。

Date: Mon, 29 Sep 2003 04:46:35 +0000
Subject: 日記です、えんどうさん

 最近始めた言語交換の男子は「珍さん」といった感じ(あくまでもイメージで、名前は珍ではないです)の 髪型七三(ちょっと薄い)ナマズひげ、めがね、小指の爪が伸びている、 最近台湾でもなかなか珍しいタイプ。 びっくりしたけど結構いい人です。 彼ら(もう一人医大生もいるがキャラ薄い)の日本語のテキストがかなり問題があるので、 コピーさせてもらいました。

【ダイアログ】
別府:先生! 僕、緊張するとオナラが出ちゃうんです!
カウンセラー:あら……。緊張のためにオナラやゲップが出やすくなる人は結構いらっしゃいますけど、生理現象ですから、そんなに気にされなくても……。
別府:ですが、この前! 好きな子と二人できれいな夜景を見ていて、いいムードになったので、彼女にキ、キスをしようとしたら、緊張してて、思わず……。
カウンセラー:「プッ」と出てしまったんですね。
別府:いえ。「プッ」というより、「ブリッ!」と出ちゃいまして、その場でフラれてしまったんです! それだけじゃなくて、会社の面接もオナラで失敗してますし……何とか治す方法はありませんか?
(※以下略)

【おぼえましょう】
「普通体+というより、~」
[「・・・という表現もできるが、~という表現の方がより適切である」とうい意味を表す表現] 以「Aというより、B」的方法来説明、表達「A的情況也可以、但B的情況曾更為貼切」的意思。
(※遠藤注:つまり、“「プッ」というより、「ブリッ!」”の部分が上記例文の最重要センテンスということになる)

【語句】
1.おなら(オナラ)=(名)屁 2.出物腫れ物(出もの腫れもの)所嫌わず、=(句)放屁生?不挑地方 3.(ご)当人(御当人)=(名)當事者 4.げっぷ(ゲップ)=(名)打隔 5.いらっしゃる=(自)有;在(いる的尊敬語) 6.ムード=(名)気分 7.思わず=(副)不自由主地

 またまた台湾人は「人間の自然現象に抗わない」に関係する内容になってしまいました失礼しました。

『台湾の日々』より。屋根の上に元気な木々が育ってるって台湾ではある!

 台湾で『奇怪ね』が発売されたときには、『本の雑誌』(2006年4月号)で「台湾で日本人女子の書いた本がベストセラーになっている」と題して“今月の一冊”のコーナーで紹介させてもらった。本の雑誌の今月の一冊なら書店員さんがチェック入れたはずともと思うのだが、なにしろ台湾でしか売っていない本なのであまり売り上げには貢献しなかったと思う。以下、その一部を引用する。

『本の雑誌』(2006年4月号)28・29ページより

 「ずっとばかで、良かった。と思ってる今日この頃」という便りが届いたのは、昨年の一二月下旬のことだった。

 その一週間くらい前、『奇怪ね/一個日本女生眼中的台湾』(布克文化刊)という本を台湾で出した青木由香さんからのメールである。彼女の本を紹介した台湾の新聞記事が添付されていて、誠品書店という台湾中に四○店もある書店で売上げ一位になったとある。毎日のように新聞、雑誌やラジオ、テレビの取材が入っていて、ウンコをする暇もないとも書いてある。

 (※中略)

 年が明けて一月初旬、ふたたび青木さんからのメールが届く。「今週は、三位。ネット書店で四位。鼻くその本が出て来たら負けた」とある。鼻くその本? このメールと前後して、『奇怪ね』が、私の手元に届いた。

 (※遠藤注:鼻くその本=『Nosepicking for Pleasure』“鼻ほじの快楽”Roland Flicket著、Time Warner Books UKの翻訳)

 (※中略)

 一月下旬、またまた青木さんからのメールが届く。『奇怪ね』をネタに、テレビの一時間番組をやって、本人も出演したとある。つまり、台湾の世論をちょっぴり騒がせている。「台湾をバカにしている」という意見もあるが、「外国しか見ない若者を台湾に振り向かせた」など、好意的な反応のほうが断然多い。別のテレビ番組には、私に青木さんを紹介してくれたLさんも一緒に出演したと書いてある。

 Lさんは、私が、仕事で台湾に行くと通訳をお願いする人で、ナイジェリアにも工場があるトイレットペーパー会社の社長の娘。通訳の仕事もどこまで本気なのか、N製粉の会長さんや日本を代表する作曲家のH氏が台湾に来るとアテンドする。そんなLさんに、二年くらい前、“ヘンタイ同士で気が合うのでは?”(たぶん)と語学留学生の青木さんを紹介されたのだ。そのLさんが、テレビ局に付き添って行ったら、一緒にトーク番組に出ることになった。話が、トイレットペーパーにおよんだら、めちゃくちゃ詳しい話をしてくれて楽しかったそうだ。

 (※中略)

 台湾は、食べ物は旨いしめちゃ楽しいところである。しかし、そのちょっと先にある誰もが知っていて、台湾人自身もあまり語らない“魅力の核心”に触れたところに、この本のヒミツがあると思う。そして、著者は、こうも書いている。「日本人たちよ。もしも人生つらいなら、台湾へおいでなさい。私たちに笑顔をもたらす素敵な島、台湾へ」と。

 たぶん、台湾の魅力を語った本は多いと思うけど、青木さんの『奇怪ねー台湾』は、いまでもベスト台湾本の1冊ではないかと思っている。今回の『台湾の日々』は、暮らしの図鑑というシリーズのフォーマットにのっとって、より広範な人々にわかりやすく伝えた最新の台湾ライフスタイルを学ぶマニュアル本といえる。

世界のコンピューター業界関係者は台湾ごはんが大好きだ

 青木さんの年譜に遠藤から「出版社へ売り込む指導を受ける」ってある部分は何を言ったのかあまり正確に覚えていないのだが。結果的に、私のいるアスキーの『MacPower』とかで台湾のアートやデジタルについて連載をすることになった。

 先にも触れたとおり、我々コンピューター業界は、台湾とは切ってもきれない関係にあるのだ。私が、はじめて台北で電脳ビルを訪れたのは1985年で、アスキーのジョイスティックを担当していた部門に情報を聞いて出かけた。そういえば、下北沢B&Bで行われたイベントに出かけたら『歩道橋の魔術師』(呉明益著、天野健太郎訳、 河出書房新社)の翻訳者の方から中華商場について聞かれた。

『台湾の日々』より。元気なおばちゃん気質のくだり。

 1990年代に入ると、台湾は《世界のコンピューター工場》の名をほしいままにする。Acerを筆頭に世界ブランドが登場してASUSなど世界のパソコンのマザボの半数を作るほどにまでなる。それらパソコンメーカーなどの企業トップたちが誠品書店に長く出資し続けて支えた(青木さんに知り合う直前の2003年にこんなことを書いている=「私が台北に行く理由」)。2000年代は、COMPUTEX TAIPEIという見本市が注目されるようになり毎年出かける人が多い。

 だからこれをここで読んでいる人にも、というか私の周りには《台湾は第二の故郷》だって感じの人が何人もいる。本来ならいまごろCOMUTEX TAIPEI(3年ぶりにリアル開催はされたのだが)のついでに夜市や林森北路、西門町あたりを歩きまわっていたと禁断症状の出ている人がたくさんいるはず! 鬍鬚張魯肉飯、阿宗麺線、虱目魚、ビブグルマンにも選ばれた十全排骨(私は30年来のファンなので納得)などのソウルフード、それから青木さんお勧めのお店がまたこれらにもまして旨かったりするんだが、早く台湾に出かけたいものです。


参考URL
青木由香の台湾一人観光局 http://www.aokiyuka.com/
你好我好 https://www.nihaowohao.net/

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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