データ保護ソフトウェア市場でシェア1位タイを獲得、次なる成長のカギは3つ
Veeamの新CEOが語る成長戦略、「VeeamOn 2022」基調講演レポート
2022年05月20日 13時00分更新
米Veeam Softwareが2022年5月16日と17日、年次イベント「VeeamOn 2022」を開催した。16日の基調講演では、2021年12月に同社CEOに就任したアナンド・エスワラン氏が登壇し、顧客やパートナーを前にVeeamが目指す方向性を明らかにした。
CEO就任直後のインタビューで「Veeamを次のレベルに引き上げる」と語り、年間収益10億ドルの現状からさらなる成長を目指すとしていたエスワラン氏は何を語ったのか。基調講演の内容をレポートする。
バックアップ/リカバリからの領域拡大、フォーカスする3つの柱
今回で8回目となるVeeamONだが、今年は初のハイブリッド開催となった。米国ネバダ州ラスベガスのイベント会場とオンラインの合計で、4万5000人近くが参加登録したという。
初めてのVeeamON基調講演に挑んだエスワラン氏はまず、世界中で進むDXを加速させるのは「データ」だと切り出した。「すべての企業や組織にとって、データは最も重要な資産。そのデータを安全にし、保護するのがVeeamの役割だ。顧客はデータを安全にし、所有し、管理できる」(エスワラン氏)。
企業においてデータの価値や重要性に対する認識が深まる中で、そのデータを保護するVeeamへの期待も高まっている。エスワラン氏はいくつかの数字を紹介した。
まずは市場シェア。IDCによるデータレプリケーション&プロテクションソフトウェア市場シェア調査(2021年下半期)では、Dell Technologiesと並ぶ1位タイになった。業績についても、2021会計年度はARR(年間経常収益)の成長が27%、SaaSデータ保護の「Veeam Backup for Microsoft 365」単体では前年同期比73%以上の成長を見せたという。
Veeamに対する顧客のロイヤルティを示す指標、NPS(ネットプロモータースコア)も80以上で、これは「Appleよりも高いスコア」だと胸を張る。
Veeamのミッションは、ハイブリッド/マルチクラウド環境におけるデータのバックアップ/リカバリの支援、さらにデータの安全と管理を支援することだ。具体的には、次の3つの方法で支援すると語る。
1)ランサムウェア攻撃からの保護
2)クラウド移行の加速支援
3)バックアップのモダナイズ
まず1)ランサムウェア攻撃について、エスワラン氏は「1日8000回、11秒に1回、ランサムウェア攻撃が仕掛けられている」と、世界的に収まることのない攻撃の激しさを指摘する。
今回のVeeamONにあわせて、Veeamでは「2022 Ransomware Trends Report」を発表している。同レポートによると、ランサムウェア攻撃を受けた企業の平均47%が実際にデータが暗号化されてしまい、平均69%のデータしか復旧できなかったという。さらに、被害企業がバックアップからデータを復旧するのを妨害するため、攻撃者の94%はバックアップリポジトリを破壊の標的にしようと試みていることもわかった。
エスワラン氏は「攻撃者に身代金を支払うことなく自社のデータを復旧できた企業は19%にとどまる」と述べ、さらに身代金を支払っても復旧できるかどうかは保証されていないことを指摘したうえで、「身代金を支払うことなくデータを保護できるように、Veeamが最後の砦を提供する」と語った。
2)は、Veeamが数年がかりで進めてきたクラウド環境への対応によって、顧客企業は安心してクラウドに移行できるというメッセージだ。「シングル/マルチ/ハイブリッドクラウド環境へ、自社のペース、自社の手法で、安心して移行できる」(エスワラン氏)。
利用の本格化が進む「コンテナ」も重要なキーワードだ。調査によると、企業の半分以上が「コンテナを本番環境で動かしている/今後12か月以内に動かす予定」だとしている。一方で、5分の1の企業は「クラウドワークロードのバックアップすらしていない」ともいう。「クラウドの受け入れとデータ保護が同じペースで進んでいない」とエスワラン氏は警告する。
コンテナバックアップのKastenも傘下に置くVeeamは、クラウドやコンテナ環境のデータ保護に対応するだけでなく、それらを単一のプラットフォームで管理できるように統合を進めている。これにより、さまざまなインフラに散在するデータの保護やコントロールが一元的に実現すると説明する。
3)バックアップのモダナイズでは、マルチクラウド/コンテナなどの追加で複雑化が進む環境においても、SLAを守りながらリカバリができるように、技術革新を進めていると説明した。
全世界的なリモートワークの浸透もあり、データの増加ペースは加速している。エスワラン氏は、データ量は2021年に28%も増加したという451 Groupの調査を紹介しつつ、その一方で企業の90%が「データを効果的に保護できていない」という現状に懸念を抱いていると語る。
「Veeamのバックアップ技術は、企業が保護したいと考える環境向けに構築されている。最初は仮想化されたワークロードの保護からスタートしたが、現在はAWS、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウド、Kubernetes、SaaS、物理サーバーも保護対象だ。Veeamがあることで、安心してクラウドの受け入れを加速できる」(エスワラン氏)
提携関係にある技術パートナーも3万5000社以上を数え、顧客のインフラや資産管理戦略がどんなものであれ、Veeamのソリューションでカバーできるようにしてきたと説明した。
クラウド環境に完全移行したHBCが感じるVeeamのメリットは「一貫性」
基調講演では、「クラウドへの移行を完了したばかり」というカナダの小売大手、Hudson's Bay Company(HBC)でCTOを務めるオペ・バカレ氏、Amazon Web Services(AWS)の北米担当 ISVパートナーシップ・ディレクターのエイドリアン・デ・ルカ氏をまじえた対談も行われた。
以前のHBCではクラウドとデータセンターの両方を用いるハイブリッドクラウド戦略をとっていたが、コロナ禍の前に「クラウドファースト」戦略へと舵を切った。当時は小売チャネルのデジタル改革を進めており、フロントエンドはSaaS、バックエンドはKafkaストリーム経由で運用するため、AWS上にKubernetesクラスタを構築したと語る。
同社はコロナ禍の中でもAWSとのタッグでクラウド移行を推し進め、先月、最後に残っていたデータセンターを閉じたという。バカレ氏は「コロナ禍で消費者の購買パターンが確実に変化した。クラウドプラットフォームが持つ柔軟性により、顧客がどこにいようとも素晴らしい購買体験を提供できるようになった」と述べる。
バカレ氏は、クラウド環境におけるVeeamのメリットを最も感じるのが「一貫性のあるオペレーション」だと語った。「仮想マシン、Kubernetesクラスター、FaaS(Function-as-a-Service)があり、これらのデータをすべて、一貫性のある方法で保護できることで、開発者は本来の作業に集中できる」(バカレ氏)。
AWSのデ・ルカ氏は、企業のクラウド移行にとって大きな転機になったのは2016年のVMwareとAWSの提携だったと振り返る。さらに、コロナ禍を通じて顧客のクラウド移行はさらに加速しており、AWSも「AWS Outposts」などのソリューションでその動きを支援していると説明する。
最新トレンドの1つが「エッジ」だが、ここでは「AWS Snowファミリー(Snowball、Snowcone、Snowmobile)」を提供しており、クラウドで慣れ親しんだツールでエッジ環境も利用できるとした。もう1つのトレンド「コンテナ」については、「Amazon EKS Anywhere」で対応している。
またVeeamとの関係については、「クラウドは進化しており、VeeamとはVMware環境に始まり18ものインテグレーションがある。クラウドを活用してもらうために、共同で幅広いレベルの機能を提供していく」と述べた。