まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第75回
〈後編〉アニメの門DUO 福原慶匡×まつもとあつし対談
モンスタークライアントを増長させないためにできること
2022年05月29日 18時00分更新
〈前編はこちら〉
「じつはコンペです」とは言いづらいけれど……
まつもと 引き続き、クリエイターとクライアントがすれ違ってしまう箇所とその対策を福原慶匡さんとやしろあずきさんの共著『クリエイターとクライアントはなぜ不毛な争いを繰り広げてしまうのか?』を元に語っていきたいと思います。
クリエイター側が仕事に入る前に準備すべき項目としてその通りだなと思ったのが、「ポートフォリオの充実」と「SNSをちゃんとしておきましょう」。Twitterでちょっとエロいネタをバンバンつぶやいているのは、受けたい仕事とマッチしていれば良いけど、そうじゃなければ別アカでやったほうが良いよとか、かなり実践的な内容ですね。
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クリエイターとクライアントはなぜ不毛な争いを繰り広げてしまうのか? (星海社 e-SHINSHO)福原慶匡、やしろあずき講談社
福原 これは食べログを思い起こすとわかりやすいと思います。写真もメニューもない、名前しか書いていないお店に行く人はいませんよね。そもそも「ディナー/接待/予算8000円」などと条件検索してヒットしたお店のなかから選択するわけですし。ですから、まずはお互いがそれなりの情報をオモテに出していないと、マッチするまで余計な手間が増えますよ、と。
まつもと クリエイターが意外と気付きにくいポイントなのかなと思いました。
福原 このあたりは、事務所に所属しているとマネージャーさんが気を利かして「所属クリエイターの代表作が見られるページ」を作りますからね。個人だとそこまで気が回りません。
まつもと そして個人的に身につまされたのが、クライアント側が起こすトラブルとして「コンペであることを隠してオファーする」という項目です。じつは私、広告代理店にいたこともあるので……言いにくいんですよねえ「じつはコンペです」って。
福原 好きな女の子に、「俺、君以外にも2人好きな子がいるんだけどさ」って絶対に言わないじゃないですか(笑) 「指名以外は受け付けません。コンペはNG」というクリエイターもいますから、やはり伝えるのがマナーですね。
まつもと 前編で仰った「『なぜあなたに発注したのか?』をクリエイターに伝える」という話と鏡の裏表になる箇所だと思います。コンペではそこが希薄で、どちらかと言えば「こういうものを作ってほしいなあ」というクライアント側のエゴを優先しているわけだから、前提が変わってくるんですよね。
福原 そうなんですよ。「コンペであることを隠す」とホントに関係値が悪くなるので、僕は基本「この案件は同時にほかの方にもお声がけさせてもらっていて、ご興味持っていただいた方のなかから決定します」という言い方をしていますね。
でないと、その気になって頑張ってくれたのに結局ごめんなさいってなったら二度と受けてくれないと思うんですよね。あと、ラフ代を払ってごめんなさいを言うパターンもありますね。
まつもと それは必要ですね。いわゆる制作会社さんならそのコストを吸収できるかもしれないけれど、個人クリエイターは割いた時間がまったく無駄になっちゃう。逆に言うと、いくばくかでも出してもらえると「今後またご縁があれば」という気分になれますよね。
福原 フリーランスのクリエイターは、たとえば月に30万必要だとしたら、月に20日働くとして1日あたり1万5000円を稼がないと食べていけません。だからコンペに1日費やすなら1万5000円を無駄にする覚悟が要ります。本人がそれをわかった上で挑むなら良いと思いますが、隠してしまうとそれは騙したことになるので。
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