クリエイターは「なぜ自分に発注したのか?」を知りたい
まつもと このあたりはなかなか理解が浸透していませんが、それでも繰り返し伝えていくことで理解が広がるといいなと思います。この本の中では、ほかにもいくつか大事なポイントが示されていまして、僕が準備段階で大事だなと思ったのは「クリエイターを指名したときの理由をちゃんと伝える」こと。これは業者入札とは異なるロジックです。
アニメ『SHIROBAKO』作中で、主人公が庵野秀明さん風のクリエイターに依頼するとき、まさにこれを言われるんですよ。「あなたじゃないとダメなんだ」という理由をちゃんと言ってほしい、と。これはすごく大事ですよね。
福原 優秀なクリエイターほど言ってきますよ。僕が前に、すごく有名な男性声優さんにお願いして「こういう作品なんです」と説明するときに、「なんで僕を指名したんですか? どうせ僕がフォロワーがたくさんいるから、僕を指名したら人気が出ると思ったんでしょ?」って言われたんです。
ビックリはしましたが、「もちろんそれはありますけれど、でもそのほかにいくつも理由があって、それを全部満たす人が一番良いに決まってる。だからフォロワーが多いことも含めてあなたを指名しましたよ」と言ったら、「なるほどね! わかった!」と。
まつもと その人のそれまでの仕事をちゃんと理解しているうえで、「あなたが持っているこの部分を今回の仕事では発揮してほしいんだ」というところをスタート時点から共通項として握れているのは大切ですよね。後々まで影響するところなので。
福原 会社で仕事やってるときに、「なんかお前ヒマそうだから頼んでいい?」って言われたらムカつくじゃないですか。「君は手先が器用だからお願いしたいんだよ」って言われたほうが気持ち良く働けますよね。人とお金をコントロールするプロデューサーとして、これはマナーでもあるし、そもそも本当に『この人にこれをやってもらったらきっと面白いだろうな』と思って言っているんです。
まつもと 時代の変わり目でもあるので、そういった部分はより重要になりますし、意外とそれができない人が増えているのかなという気もします。
〈後編はこちら〉
■Amazon.co.jpで購入
-
クリエイターとクライアントはなぜ不毛な争いを繰り広げてしまうのか? (星海社 e-SHINSHO)福原慶匡、やしろあずき講談社
この連載の記事
-
第106回
ビジネス
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる? -
第105回
ビジネス
AI生成アニメに挑戦する名古屋発「AIアニメプロジェクト」とは? -
第104回
ビジネス
日本アニメの輸出産業化には“品質の向上よりも安定”が必要だ -
第103回
ビジネス
『第七王子』のEDクレジットを見ると、なぜ日本アニメの未来がわかるのか -
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる - この連載の一覧へ