古市社長「日本におけるDX実現の『はじめの一歩』として、Boxの利用促進を目指す1年になる」
「絶好調」のBox Japanが新年度事業戦略を説明
2022年05月06日 07時00分更新
Box Japanは2022年4月21日、同社の2023会計年度(2022年2月~2023年1月期)事業戦略に関する記者説明会を開催した。
同社 社長の古市克典氏は「日本におけるDX実現の『はじめの一歩』として、Boxの利用促進を目指す1年になる」と語り、金融や官公庁、自治体といった、これまでBoxの導入が遅れていた領域への展開を強化する姿勢を示した。“PPAP”廃止やランサムウェア対策にBoxが適していることを提案する。
さらに、コロナ禍による在宅勤務/テレワークの増加で注目を集めた“脱ハンコ”ソリューション提案、1月に施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)にも最適化した提案ができることを強調。現在、グローバル売上の18%を占めるBox Japanの構成比をさらに高めていく考えを示した。
「Box Japanは絶好調」
古市氏は「Box Japanは絶好調だ」と笑顔を見せる。2013年8月のBox Japan創業以来、同社の業績は8年連続でARR(新規+アップセルの年間受注高)で成長を続けている。しかも、これまでは前年比10~30%増だったものが、昨年度の2022年度は58%増と大幅な成長を記録したという。
「キャズムを超えるのはもう少し先だと思っていたが、今回の業績を見ると、大多数の保守的なユーザーにもBoxのメッセージが届き始めたのではないかといえる」。古市氏はそう自己分析する。
既存ユーザーがサービスを追加購入するアップセルが増加し、2022年度は53%と半数を超えた。「これは高い顧客満足度の表れだと評価している。収益基盤を築くことができた」と語る。
また、昨年度は日本郵政や文部科学省がBoxを新規導入したほか、キヤノンやアイシンをはじめとする大手企業への導入も相次いでいる。日本国内のBox導入企業は1万1000社以上となり、1年前(2021年5月時点)の9000社から22%も増加した。日経225銘柄企業における導入比率も63%まで増えた。Boxとの連携ソリューションもグローバルで1500社以上、日本独自で128社/202件が提供されており、さまざまな利用シーンへの提案が可能になっているという。
業績のなかでも特筆されるのは、Boxコンサルティングが前年比2.5倍と大幅に成長している点だ。古市氏は「受注後の導入コンサルに加えて、受注前の活用ケース開拓や文書管理コンサルが伸長している。こうした取り組みが、新規導入の促進だけでなく高い継続率を維持していることにつながっている」と説明する。国内300社以上の販売パートナーにおいても「販売後のケア」の重要性が共通認識となっているという。
グローバル平均を超える日本市場での成長
好調な業績に関してもうひとつ注目しておきたいのは、グローバルでの成長率よりも日本市場が高い成長率を示しているという点だ。
グローバルの2022年度売上高は、前年比13%増の8億7000万ドルだった。そのうちBox Japanの構成比率は18%を占めている。2020年度は10%、2021年度は14%と、継続的に構成比率を伸ばしており、ここからもグローバル平均を超える成長率となっていることがわかる。
「Box Japanの売上構成比は今後も高まりそうだ。Box本社は日本のお客様を重視しており、ユーザーの要望にも敏感なので、それをしっかり満たすことで日本での売上が伸びる好循環を生んでいる」(古市氏)
その最たる事例が、2021年11月に日本でもサービスを開始した「Box Sign」だという。Boxに統合された電子署名ソリューションで、法人向けエディション(Business以上)のユーザーならば無料で利用できる。
「コロナ禍でもハンコを押すためだけに出社しなければならないことが話題になったが、Box Signはこうした課題を解決できる。通常のハンコを押すことが無料であるのと同じように、Boxユーザーならば法的に有効な電子署名を追加料金なしで、無制限で利用できるようにした。これは、Box Japanから本社に要望して実現してもらった仕組みであり、日本のユーザーの要望を優先して実現したもの」(古市氏)
説明会に出席した米Box 会長 兼 CEOのアーロン・レヴィ氏も、「日本市場の成長は著しい。日本の働き方や仕事の仕方が変わる転換点を支援することができた。今後も日本の市場には力を入れ、さらに投資もしていく」と述べ、日本市場に強くコミットする姿勢を示した。
社内/社外、定型業務/非定型業務をシームレスにつなぐ
今年度、2023年度の取り組みについて、古市氏はいくつかのポイントを挙げる。まず最初に挙げたのが、「すべてのコンテンツをデジタル化し、それを活用しつくせる提案を行う」という点だ。
なかでも古市氏が強調したのが、企業内にある非構造化データを「組織として」活用可能にすることだ。企業が保持するデータの8割は文書や画像といった非構造化データだが、その保存場所は分散しており、多くが個人利用の範囲にとどまっている。この分散した大量のコンテンツをBoxに集約し、組織単位で活用できるようにすることが「DX実現に向けた第一歩になる」と強調する。
ここでは、Boxが持つ3つの特徴が生かせるという。
1つめは、容量無制限を実現するコンテンツクラウドの提供だ。従来のファイルサーバーに代わる全社横断的なファイル基盤だけでなく、文書の機密保管、プロジェクトワークスペースの提供、社外とのコンテンツ共有といったものが実現する。複合機で紙書類をスキャンしてペーパーレス化を図ったり、リモートワークの際にBoxにあるコンテンツをコンビニでプリントアウトしたりできる点も特徴だとする。
2つめの特徴はAPI連携だ。これにより、アプリケーションごとに保管場所が分散しがちなコンテンツを、アプリとは切り離して一元管理できる。
「DX推進のためには、社内業務に適した新たなアプリを次々と使ってみる必要があるが、新たなアプリを使うときにはセキュリティが気になる。このとき守るべきなのは、アプリではなく自社のコンテンツだ。Boxを使えば、コンテンツをアプリと切り離して同一のポリシーでしっかりと守ることができる。そのため、コンテンツのセキュリティを気にすることなく新たなアプリを試したり、切り替えたりできる」(古市氏)
加えて、さまざまなアプリでコンテンツを利用しても、Box上に保管することで一元的に検索が可能となり、どこに保存したか、どれが最新版かといった悩みからも解放される。
そして3つめが、社内/社外、定型業務(構造化データ)/非定型業務(コンテンツ)の4象限で分類される各領域の間で、保有データをシームレスに活用できる環境の実現である。Boxによって、これまで分断されがちだったそれぞれの領域をつなぐことができるとする。
「Box Platformを活用することで、定型業務から発生する構造化データもBoxで管理できるようになる。その結果、4つの領域のデータやコンテンツを関連づけて分析することが容易になり、DXにも生かすことができる。個人ごとに管理していたコンテンツや、一部の組織で利用していたデータが、組織単位で共有できるようになり、コンテンツやデータを徹底的に活用できるようになる」(古市氏)
“脱・PPAP”やランサムウェアへの対策も強化
Boxでは“脱・PPAP”やランサムウェア攻撃への対策も強化していることも強調した。
まずPPAPについて、古市氏は「日本独自の仕組みであり、米国本社に説明しても理解が得られるまでが大変だった。『なぜこんなことをしているのか、意味がない』というのが正直な感想だ」と切り捨てる。データの復号を防ぐセキュリティが脆弱なだけでなく、反対に暗号化されたマルウェアが社内に侵入して感染する温床にもなっている。
ランサムウェアについても「先頃トヨタ自動車では、取引会社に対するランサムウェアの被害により、国内すべての工場が操業を停止する事態になった。仮にBoxを使っていれば、こうした被害は起こらなかった」と語る。Boxではランサムウェアを検知し、感染したコンテンツをダウンロードさせない仕組みを持っている。さらに、すべてのコンテンツについて過去のバージョンを自動保存しているので、前のバージョンに戻すことで被害を取り消すことができる。機密ファイルを外部に流出させ、公開すると脅す「二重脅迫」についても、オプションサービスの「Box Shield」を利用し、コンテンツに「社外秘」ラベルを付けることで、外部流出そのものを防げる。
「Boxでは日々高度化する脅威の手口の先を走り、コンテンツを守っている。そのセキュリティ対策は、個別の企業で対処できるレベルを超えており、Boxのような専門家集団こそが対策の役に立てる」(古市氏)
なお、日本政府のISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)には2021年9月に登録済みで、これにより官公庁/自治体への導入が促進されているとする。同様に、金融機関向けのFISCにも準拠済みのほか、近いうちに医療機関向け3省2ガイドラインへの対応も発表できるとした。古市氏によると、米国では金融、官公庁/自治体が最大の顧客となっており、そのノウハウを日本にも提供していくという。
ゲスト出席したBox導入企業の1社、かんぽ生命保険 常務執行役員 兼 かんぽシステムソリューションズ 取締役副社長、最高技術責任者の酒井則行氏は、Boxの導入効果について次のようにコメントした。
「従来はファイルサーバーやメールサーバーをオンプレミスで運用していたため、一人ひとりのファイル保存容量が限定され、またメールでも一通あたりの容量制限で社内外のコミュニケーション効率が阻害されていた。Boxが最適だと判断した理由は、容量無制限で社内外での共有ができること、リモートワークにも対応できること、マルウェア/ランサムウェア対策などのセキュリティ対応、改竄防止などのガバナンス対応、さらに各種ツールやSaaSとの連携といったもの。2021年8月から社内共有向けにBox活用を開始し、2022年3月からは社外とも共有できるようにした。日本郵政グループ全体として、PPAP対策にBoxを採用している」(かんぽ生命 酒井氏)
なおBoxでは、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法についても、同法が定める保存要件を満たしているとした。
“3つのメガトレンド”にフォーカス、顧客からの評価を得る
米Box 会長 兼 CEOのレヴィ氏は、グローバルの最新ビジネス状況について説明した。
現在のBoxはグローバルで11万社以上の顧客を持ち、Fortune 500企業の67%がBoxユーザーだ。これらの顧客においては、Boxが“3つのメガトレンド”に準拠していることが評価されているとレヴィ氏は説明する。その3つとは、いつでもどこからでも働ける「Anywhere」、あらゆる場面でデジタルを最優先で考える「Digital-first」、ランサムウェアやサイバーセキュリティ対策などの「Secure」であり、Boxがこの3点にフォーカスして製品やサービスを進化させていることが評価されている要因だと自己分析した。
「“未来の仕事”の中心にあるのは、エンタープライズのコンテンツだ。財務部門や営業部門、人事部門、マーケティング部門と、あらゆる部門でデータやコンテンツの活用が大切だ。しかし現在は、さまざまな環境に分散したかたちでコンテンツが利用されており、セキュリティ対策も不十分で、なおかつコストのかかるかたちで管理、運用されている。コンテンツ管理が機能していない現状が、このままでよいわけがない。多くの企業がコンテンツ管理の仕組みを変えていかなくてはならない」(レヴィ氏)
Boxでは、「クラウドストレージ」のような一般的な呼称ではなく「コンテンツクラウド」という表現を用いている。レヴィ氏は、コンテンツクラウドとは「ひとつのプラットフォーム」で、データの取り込みから共有、自動化、電子署名、パブリッシング、分析、保管、再利用など「コンテンツのライフサイクル全体を管理するもの」だと説明する。
「これによって営業部門や研究開発部門、人事部門も、さまざまなコンテンツを有効に利用し、管理することができる。また、内外の脅威からコンテンツを守り、法令を遵守しながら運用することもできる。コンテンツをうまく管理することで、新たな形の働き方を実現できる」(レヴィ氏)
今年4月に発表した「Box Canvas」も紹介した。今秋から提供予定のBox Canvasは、ハイブリッドワークにおける利用を想定した「仮想的なホワイトボードツール」であり、どこにいても他のチームメンバーと一緒にブレインストリーミングやアイデア出しを行うことが可能になるという。レヴィ氏は「クリエイティブな発想につなげることができるビジュアルコラボレーションツール」だと語る。
古市氏も「PowerPointを使った会議では説明口調になりがちだが、ホワイトボードを使う会議では喧々諤々(けんけんごうごう)の議論ができる」としたうえで、Box Canvasは手書きで自由に書き込んだり、意見を貼り付けたりすることで、そのような「リアルに近い会議」を実現すると説明した。
さらに、新たに発表した「Box Enterprise Plus」エディションについてレヴィ氏は、「Box ShieldやBox Governance、Box Relay、Box Platform、Box Signなどを、エンタープライズユーザーに対して提供するもの」だと説明した。