企業、地域と大学が融合 東北仙台で進む共創プラットフォーム
TOHOKU STARTUP NIGHT 2022~未来につながる、奥羽の種火~
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腸内デザインで病気ゼロ社会を目指すメタジェン
株式会社メタジェンは、慶應義塾大学と東京工業大学の研究者によるジョイントベンチャーとして2015年に設立。山形県鶴岡市に本社を置き、腸内環境の研究成果を活用したヘルスケア事業に取り組んでいる。人の体には約1キロの腸内細菌があり、腸内細菌が作り出す物質が様々な病気に関係していることがわかってきている。したがって、腸内環境を適切にコントロールできれば、病気の予防や健康維持につながると考えられる。しかし、腸内細菌のバランスは1人1人異なるため、個々人の腸内環境のパターンに合わせたヘルスケアや、治療・投薬が必要である。
メタジェンでは、独自の腸内環境評価手法「メタボロゲノミクス」を確立。腸内細菌と腸内細菌が作り出す代謝物質を分析してパターン化し、それに基づいて予防、診断、治療を提案するヘルスケアプラットフォームの構築に取り組んでいる。
会社の強みを置き石として守る、数に頼らない特許の押さえ方
パネルディスカッションのテーマは、「地方発スタートアップが知財戦略をうまく進めるコツ」。 株式会社メタジェンの村上氏、内山務知財戦略事務所 所長 弁理士・薬学博士 内山 務氏、特許庁の比留川氏の3名が参加。テーマにトークセッションを実施した。以下、ダイジェストでお届けする。
比留川氏(以下、敬称略) 村上さん、IPASに応募する前の知財の状況はどうでしたか?
村上氏(以下、敬称略) 当社は慶應大学と東京工業大学のジョイントベンチャーで、大学の研究成果を世の中に出すために会社を設立しました。しかし、大学で取得した特許をシーズとしてビジネスにつなげる、というざっくりとしたイメージで、IPASのメンタリングを受けるまでは特許戦略という概念自体がありませんでした。特許をどう使っていけばいいのかわからず悩んでいたところ、CIPO Nightというイベントで特許庁の方のお話を聞いたのがIPASに応募したきっかけです。
比留川 実際のIPASの支援内容を教えていただけますか。
内山氏(以下、敬称略) 2019年度はコロナ前だったので、基本的には月1回、対面でミーティングをしていました。まず、ホワイトボードの前に顔を突き合わせて、それぞれの考えを書きながらビジネス上の優先順位を決めることから始めました。知財はビジネスツールにしか過ぎないので、ビジネスを守るために特許を出す、という意識を持つことが肝心。そこから何を開示して、どんな権利範囲で、いつ、どの国に出すか、という戦略を立てていきます。特許を出すことでビジネスをつぶしてしまう可能性もあります。ビジネスの観点から、自社で特許出願するか、他社からライセンスを得るかを含めて、みんなでディスカッションをしていきました。
比留川 支援の回数と、議論の回数はどのようなバランスですか?
村上 直接会って議論するのは月1回ですが、それ以外に準備や各自宿題を持ち帰っていたので、それなりに時間をかけていました。最初は会社としてやりたいことが多すぎたので、優先順位を整理するように言われました。それが知財戦略のみならず、会社の事業全体の整理にもつながったように思います。
内山 特許はお金がかかるので、スタートアップは無駄な特許を取らないようにすることが大事。最初に特許調査をして、できるだけ競合の少ない領域を選ぶのもひとつの手です。ビジネスの方向性が定まったら、自社の独占したいエリアとライセンスをもらうものを決めて、他社の特許侵害をしないようにします。
村上 大学からライセンスをしてもらう予定の特許がいくつかありましたが、本当に全部が必要なのか、という整理もしました。全部を知財で守る必要はなくて、重要な1点を押さえれば参入障壁になることを教えてもらい、競合他社の持っている知財を見ながら、我々の強みを活かせる置き石はどこかを意識できるようになったように思います。
比留川 普通に弁護士に相談すると、「権利範囲を広く取りましょう」とか「数を多く取りましょう」となりがちです。会社の強みを置き石として守っていくとは?
村上 数よりも本質的にビジネスを加速し、守ってくれる特許や商標を押さえることが重要だと思っています。ただし、VCや金融機関が1つ1つの知財の価値を見抜けるかどうかも課題。価値を適切に評価してもらえないと、数に頼らないといけなくなってしまいますから。
内山 ハードウェアの特許は1つの製品を何百個の特許で守っているので、数が重要になってきますが、バイオや医薬の世界では数が重要ではありません。大手製薬企業で1つの薬を守るための特許も1桁台です。自分たちが独占したいものは特許出願して権利化しますが、使えればいいものは非独占のライセンスを安くもらえればいい。IPOのデューデリジェンスでは特許出願しているかどうかよりも、他社特許の侵害していないかをVCは気にします。であれば、特許がなくてもライセンスがあればいいという話になる。
比留川 ゴールをどこに設定するかによっても知財戦略は違ってきますか?
村上 我々は将来的にはプラットフォームをつくっていきたいので、市場を広げるためにも闇雲に多くの特許を取るという戦略ではありません。細かい周辺特許だけを取ってもビジネス上の価値があるとは限らない。もっと先の世界を見据えて、こういう世界を作りたい、という概念をイメージしながら特許戦略を考えるようにしています。
比留川 大学とメタジェン社の知財のすみわけは?
村上 創業当初から大学でやるべきこと、会社でやるべきことは明確に切り分けてしており、シーズに近い部分は大学との共同研究で特許を取り、ビジネスに近いところは自ら研究開発をして自社で特許出願しています。
内山 切り分けておかないと利益相反が起こって後々大変になりますからね。大学はお金がないので、企業との共同出願なら稟議が通りやすいですし、企業側にしっかりとした弁理士や知財・法務部があるので、結果的にいい特許になりやすい。知財体制の弱い大学は、企業と組んで共同出願するのがいい方法です。
村上 スタートアップコミュニティの知財リテラシーが低いのは自身を振り返っても実感します。大学の中にビジネスのわかる知財専門家がいてくれたら、大学発スタートアップはもっと成長できるように思います。
比留川 大学や地方発のスタートアップが知財戦略を構築するには、優れた専門家との出会いがカギになりそうですね。
村上 スタートアップコミュニティの中に知財戦略を見てくれる専門家がいれば、口コミで広がると思います。IPASのような制度やアクセラレーションプログラムを利用するのも手。情報を得るために、こうしたミートアップイベントに参加することも重要です。
内山 今はリモートが発達して距離的な制約がなくなったので、地方だからといっていい専門家に出会えないことはありません。私のクライアントも全国に散らばっていますし、沖縄の離島に住んでいる弁理士さんと一緒に札幌の会社と仕事をしたりしています。 出会いは、やはりコミュニティーからの口コミによる紹介が多いですね。こうしたイベントに参加してつながりを持ったり、知り合いの弁護士、公認会計士などに紹介してもらうといいと思います。
比留川 オンラインだけでは信頼関係の構築が難しいようにも思います。心がけていることはありますか?
内山 今はZoomでやり取りしていますが、ミーティングだけではどういう人かわからないので、オンライン飲み会のような気楽に話せる場を作ったりはしています。コロナが明けたら、1年に何回かは対面で会いたいですよね。
村上 内山さんもそうですが、ビジネスそのものに興味を持ってくださっていることを感じられるから信頼できるように思います。面白がってもらえるように工夫をすることが大事。最初は弁理士の先生と話すのは気構えてしまうかもしれませんが、普段のピッチのように熱意を伝えるといいと思います。
比留川 最後に、地方のスタートアップや専門家に対してメッセージを。
村上 地方に本社があることのメリットもたくさんあります。例えば、研究には分析装置などが置ける広い場所が必要なので家賃が安いのは助かります。生活環境もいいので研究界隈の方には地方都市が合っているのではないでしょうか。ただ東京のようにどんどん情報が入ってこないので、自分から積極的に情報を取りに行く、出会いを求めに行くことが大事です。
内山 今は住んでいる地域は関係ないですよね。僕らの仕事はPCと通信環境があればどこでもできるので、むしろ家賃の安い地方のほうがいい。地方に住む専門家が東京のクライアントの仕事をする時代。オンラインのイベント等を活用して、いい専門家との出会いを見つけてください。
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