【後編】KLKTN代表 岩瀬大輔氏、ヤングマガジン鈴木一司編集長ロングインタビュー
NFTはマンガファンの「推し度」や「圧」を数値化する試みである!?
2022年04月17日 18時00分更新
出版社の「連載初期からのファン」への感謝度合いは凄まじい!?
鈴木 そうした変化を購入したみんなで楽しむところも、僕らがヤンマガで目指している「新連載に注目して欲しい」という目的と合致してるんです。「この作品は当たるかどうか?」を議論されるようになったら成功だなと思っているので。
岩瀬 マンガをNFTにするときに「過去作品」をまず販売するやり方もありますが、僕は「連載中」の作品が一番、価値の変動を追いかける面白さが出ると思うんですよ。
過去作品は、すでに「名作」という価値が決まっています。しかし連載中の作品は物語がどう展開していくかわからないので予測ができません。読者は全員、同じ知識しかないのでスタートラインも同じところからゲームに参加することができます。
鈴木 僕らとしては投機的に儲かってほしいわけではありませんし、それによって収益を得たいわけでもないんです。新連載のNFTを買ってくれた人は、昔で言う「初版本を持っているファン」という感覚なんです。
たとえば村上春樹さんの『ノルウェイの森』の初版本を持ってる人は、やっぱり相当な目利きだし、情熱がある方だと思うんですよね。「俺はこの作家の名作の初版本を持っている」、それを誇りに思ってくれるファンの方がいる。そういうファンの方の熱意をデジタルでも再現したかったんです。そして、実際に再現するには、やはり新連載が適しているだろうなと。
―― ああ、新連載は「この作品を推して行くぞ!」っていうファンの意気込みが出るということですね。
鈴木 はい。先にお話ししたように、今マンガ誌に掲載される新連載は、8割方無視されてしまうという現状があります。だから、こちらとしてはNFTを通して「このマンガが当たるかどうか?」的な議論が起きるだけでもありがたいし、新連載としては成功だと思っています。
そうした意味でも、新連載を初期の頃から応援してくれる方へのリターンを何かしら考えたいんです。初期に支えてくれた読者さんに対する僕らの感謝の度合いというのは、すごく高いんです。マンガって、初期から売れる作品はあまりないんですよ。
―― そうなんですか!?
鈴木 たとえば今、ヤンマガで一番売れている『ザ・ファブル』も、初期はそんなに部数が伸びませんでした。現在はブレイクして押しも押されぬ大部数作品ですけれども。週刊少年マガジンで連載している『東京卍リベンジャーズ』も、ブレイクするまでに時間がかかっています。
だから、困難な時期を支えてくれた初期からの読者に対して、何かしらの恩返しできる場を設けてくださるというのは、僕らにとってもありがたいことなんです。そして、作家さんの収益になることも同様にうれしいことです。
―― 作家さんの収益にもなるというあたりは、前回伺った「マンガ誌が作家さんに選ばれる」ために価値を磨いていく、というお話とも通じそうです。
鈴木 販売価格を安く設定しているので、全部売れたとしてもお小遣い程度にしかならないとは思うのですが……。ただ、将来的に市場が大きくなって、二次取引、三次取引という動きが起き始めると、また変わって来るかなとは思っています。もしかしたら将来はこういった形で収入を得る作家さんが出てくるかもしれないと思っています。
岩瀬 今はお試し価格的なところもあるので、今後は単価を少し上げるかもしれませんね。
これまでのお話からもわかるように、NFT販売の特徴として「二次取引」があります。購入したNFTを自分で売りに出すことができて、また別の誰かが購入すると。その二次取引でも何%かのロイヤリティーが発生して、それは作家さんにも入るという仕組みになっています。
作家さんにとっては、これがメイン収入にはならないとしても、購入者が「クリエイターさんへの応援」と感じていただくことが大事ですし、駆け出しの新人作家さんであれば、意味がある金額になるかもしれません。
NFTで買ったマンガはどこにある?
―― あらためて基本的な仕様をお聞きします。NFTは、個人のパソコンやスマホ内に保有するのではなく、クラウド上に置いてあるものですか? そして、もしサービスの形が変わって、これまで購入した人が閲覧できなくなることはありますか?
岩瀬 まずNFTはクラウド上に保管されています。そのうえで、一般的にNFTをはじめとするブロックチェーンを利用したものは、どこかの業者のプラットフォームに属するものではなく、購入した人には固有のアドレスが割り振られて、自分のウォレットに入っているという状況になります。
今回、ヤングマガジンさんのマンガは、まだプライベートチェーンという形で、我々が提供しています。マンガについてはやはり権利がセンシティブなものなので、いったんは閉じた中で動かしている状態です。
しかし長期的には、1つのプラットフォームに依存しない、どのようなサービスになっても、本人が保有できるという形がNFTのあるべき姿だと思っています。
ウォレットを「自分のアルバム」にして
ファン同士のコミュニケーションを促す
岩瀬 NFTを買ったあと、どう見るかと言えば……たとえばK-POPのブロマイドの場合、各自のウォレットの中で閲覧できるようになっています。
現時点ではK-POPもマンガも混在している状態ですが、これからジャンルや並べ替えができるように整理して、購入者それぞれが「自分のアルバムを持つ」という形にしようと思っています。
そしてゆくゆくは「これが自分のコレクションです」と他人にも見せられるようにしたいなと。
―― SNSのトップ画面みたいな感じでしょうか。自分のプロフィールがあってコレクションが見える。そして他のコレクターさんのトップ画面にも行ける、というような。
岩瀬 そうですね。SNSのように個人がコレクションを披露する場ができて、みんなでコミュニケーションしていくことができたらいいなと。
各コミュニティーのなかで「誰がどういうものを持っているか?」、たとえば「登場人物の○○くんを一番たくさん持っているのはこの人」といったものを可視化できるようにしたいんです。コレクターズランキング的なものも作ってみたいと思ってます。
―― マンガなら、キャラクターが笑顔のシーンばかり集める人とかいたら面白いですね。
岩瀬 いろんな楽しみ方ができますよね。これはバスケットボール選手カードのNFTにもある遊び方なんですが、運営側が「主人公とライバルのシーンを5枚集めましょう。集まったら別のシーンをプレゼントします」といった企画も可能です。こういったゲームのようなやり取りができたらいいなと。
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