クリエイターだって働き方改革で理想的な仕事環境を手に入れたい!

『ソードアート・オンライン』川原礫先生×abec先生対談「クリエイターは沖縄ワーケーションやメタバースで仕事できる!?」

文●村野晃一/編集 ASCII

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「『アクセル・ワールド』で舞台にした沖縄には行っておきたい」
クリエイターとワーケーション

アニメ『アクセル・ワールド』で沖縄が舞台となった回の一コマ

abec コロナ禍といえば、普通の会社員の方も在宅勤務とかワーケーションとか新しい働き方をされていると聞きますけど、川原先生は、ワーケーションみたいに、普段と違う環境で仕事するのって、やっぱりストレスですか?

川原 昔、昭和の文豪がどこか温泉宿に缶詰めになるみたいな話しがありましたけど、もし温泉宿に一年住めるなら……ちょっとやってみたい(笑)。環境に慣れるのには結構時間がかかると思うんですよ。でも、いつでも温泉入れるっていうのは魅力的だなぁ(笑)。さらに周りに自然がいっぱいあって散歩とかできますし。

 まあ、高速ネット環境は必須ですけど、そこだけクリアできるなら、一回やってみたいとちょっとだけは思ってます。

 最近よく言われるワーケーションというのは、ビーチとかリゾートホテルとか、そういうものなのかも知れないですけどね。

 小説家の仕事道具はノートパソコン1台で済むし、イラストレーターさんも今後もっとiPadみたいな環境が熟成して、それひとつで完結するっていうことになったら、クリエイターでもワーケーションみたいなものを試してみたいって人は増えるんじゃないかなと思います。

abec 僕みたいに、PCに液晶タブレットと、ちゃんと環境を整えたいタイプのイラストレーターであっても、もちろんiPadでラフとかアイディア出しとかはどこでもできるんですよね。仕事用の絵をガチガチに描き込むみたいなのは、正直、僕の描き方ではちょっとしんどいんですけど。

 それより、何かを作るときって、やればやるほど引き出しが減っていくので、僕的には、そういうもののインプットに利用するかなって感じですね。

 今ってインターネットで、いろんな人の経験とか、写真とか、情報とか、気軽に手に入るじゃないですか。でも、それってGoogleとかSNSなんかの検索システムに則って、誰が入力しても基本的には同じものが出てくるんですよね。要するにインターネットで検索したものって、だいたいみんなアイデアとしては被ってくると思うんです。

 その中で独自性みたいなものを出すには、常に意図的に自分でいろんな体験をしていかなきゃいけない。その体験がすぐにクリエイティブに繋がることはなくても、全然関係ない数年後とかに繋がったりするので。気分転換以外の意味でも、何かワーケーションという名の、遊んでるようだけど仕事みたいなとこがあるんではないかと。

川原 abecさん、イベントで海外に行ったときも資料写真めちゃくちゃ撮ってましたもんね。

abec 何か使えるんじゃないかって思っちゃうんですよね。

川原 幸いなことに、今までいろんなイベントに招待してもらって、海外に行く機会がいっぱいありましたけど、毎回ノートパソコン持っていって、向こうで原稿を書くぞって思うんですが書けたためしがない(笑)。

 だからクリエイター目線で言うと、実際の成果物を作るぞっ! ていう意気込みでのワーケーションだとちょっと辛いので、モチーフ探しとか資料集めとか取材とか、そっちに軸足を置いた話だったら相当成立するなとは思いますね。

abec そうですね。

川原 取材旅行にもちょこちょこ行きはするんですが、実在する街の描写って、7、8割はネットからの情報で書いているんですね。でも、やっぱり理想は、どこかの街を書くぞってなったときに、ちゃんと自分で見て、この建物はこんな感じで書きたいなとか、何でもないような神社だけど、ここちょっと書きたいなとか、そういうディティールを感じたいですよね。

 アニメ版の『ソードアート・オンライン』(以下、SAO)の第1話で、キリトがログインする前に、川越の街の風景が点描的にパパッて流れるカットがあるんですけど、そこがいわゆる観光名所じゃなくて、ちょっとした街並みだったりとか、うら寂しい神社だったりとかだったんですけど、あれはもうスタッフの皆さんでロケハンに行ったからこそ見つけられたものなんですよね。あんなのネットで探したって見つからないですから。

 やっぱり取材とかロケハンって、行けば行っただけその描写の解像度を上げられるんですよ。まあ、分かってはいてもなかなか行けないですけど。

 私の例で言うと、『アクセル・ワールド』という作品で、行ったこともないのに沖縄を舞台にしたことがあって。もう想像とGoogleを駆使して書いたんですけど、やっぱりどうしてもちょっと自分で描いたものにいまいち解像度が足りないなって思ったんですよね。

 キャラクターに、自分が調べたものすごくいい加減なウチナーグチを散々しゃべらせて。それがその後アニメになったとき、台本も原作の小説のままだったんですけど、演じてくださったのが沖縄出身の声優さんで、今時こんなこという沖縄の子供はいないと(笑)。

abec (笑)。

川原 それでもその声優さんが一生懸命調整しつつ演じてくださったんですけど、あれもやっぱり現地に行って取材してたらもうちょっとどうにかできたなって思うんですよね。

 あのアニメ版『アクセル・ワールド』の沖縄回は、ちょっとキャラが何を言ってるか分からなかったという感想をたくさんいただいてしまって、それが心残りだったんですよね。

川原先生が心残りと話す『アクセル・ワールド』の沖縄回より

川原 ほかにもいろいろなものを想像で書いてそのままにしちゃってるんですけど、あの『アクセル・ワールド』の沖縄回だけはなんとなくずっと心の中に引っかかっていて。やっぱちゃんと一回沖縄に行っておかないとなっていう気持ちはずっとありますね。

abec 僕、実は修学旅行が沖縄だったんですよ。

川原 えええーっ!? 京都の高校は修学旅行で沖縄いかはるんですか~!?

abec ……って感じ悪いですよ(笑)。でもそうなんです。だから10代の頃に一度だけ行ったことがあって。でもあれから20年近くも経ってるし、大人になって見方も変わってくるから、また行ってみたいですね、沖縄。でも一番行ってみたいのは美ら海水族館なので、クリエイター的に言うと、すごい浅い感じが出てしまいますけど(笑)。

 さっきの話に戻ってしまいますけど、例えば海のイラストを描く際に”波打ち際”とかで検索すると、出てくるのは、やっぱり誰かが意図を持って切り取ったシーンなんですよね。不要なものが消されていたり、加工されてるものも多いですし。そうではなくて、素材として、やっぱりその場にいないと分からないもの、注目しないと見えないものがあるじゃないですか。

 例えば、同じ海でも場所や環境でどう見えるのか絶対に違うでしょうし、砂や海底がどうなっているのかとか、ゴミはどんな風に落ちてるのか、そもそも海岸の反対側は、みたいな。

 その上で絵を描く際に取捨選択をしていくんですけど、これを描くと本物っぽいし、知ってる人は共感できるとか、これを描くと嘘っぽいなとか。そこらへんの基準みたいなものが作りやすいですよね。そこにどう足していくか、何を引いていくかみたいな感じの選択が、やっぱり自分で行かないと分からない。そうじゃないとやっぱりメディアから受けてる印象で描いちゃいがちですよね。それはそれで伝わりやすいというメリットはあるんですけど。

 共感という部分で言うと、僕も昔、別の作家さんのコラムで北海道の小樽が舞台設定の作品に関わったことがあって。その時は写真を撮りに行って、それを基に描いたら、やっぱり地元の人が「ここかぁ」って分かってくれたりとかね。それだけでやっぱり価値を感じてくれる人は多いし。そういうの積み重ねとかディティールみたいなものは大事かなと思いますね。

 でも、さっきも川原先生も言った通り、なかなかできないんですよね。必要になったときにすぐ飛行機で飛んでいくなんてのは難しいから。やっぱり、無駄になるかもしれないけど、普段からいろんなことをするって、クリエイターにとってすごい大事で、常に引き出しの中にいろんな情報とか記号とかを詰め込んでおいて、9割9分で使わないんですけど、いざ必要なときに自分だけのとっておきのアイテムがある、みたいな状況にしておくのがベストかなと。

 もしワーケーションするんだったら、2日、3日よりは、1週間とか2週間とか、連泊して作業環境を整えた上でって感じですかね。やっぱり旅行に行ったら、1日、2日はちょっと楽しんじゃおう、ってなると思うので(笑)。

川原 同じホテルに泊まって、そこで仕事できる環境になるまでに、2、3日か、あるいはもっとかかる気がしますから、私もワーケーションとなったら、最低2週間ぐらいはないと、仕事する環境というのを作れないかなっていう気はしますね。

abec 川原先生は現地にファミレスがあったらできそうな感じもしますけど(笑)。

川原 いやいやいや。ファミレスだって、どこのファミレスでもいいというわけではないんですよ。

 まず大前提として、”いい感じの席”がないとダメなんです。隅っこの、ちっちゃいテーブルで、死角になっていればなおよし。以前私が通っていたファミレスには、フロアの端っこに巨大な柱と壁に囲まれた、厳密には2人用ですけど、実質1人用のちっちゃいテーブルがあって、そこがもうすべての条件においてベストだったんです。この店、一生通える! と思ってたんですけど……まさかの閉店で(笑)。

abec (笑)

川原 実際のワーケーション施設がどんなものかいまいち分かっていないんですけど、東京にあるコワーキングスペースみたいなものに近いものなのだとしたら、私の場合、半個室みたいなパーティションは欲しいかな。

 あとそういう施設って、デスクが壁に向いて設置してあるところ多いじゃないですか。自分も壁に向く。ということは、その後ろを人が通るでしょ。私、それがダメなんですよ。ファミレスのいいところって、壁に背中を向けて座れる席があることなんですよ。

abec あー、なるほど。

川原 ファミレスでいい席に座れなくて、仕方なく壁の方を向いて作業をしていると、子供が覗きに来るから。絶対、来る。

abec イラストなんか描いてたら一発ですよ(笑)。

川原 ああ! すぐ子供の餌食ですよ。もう、今イラストレーターさんがそんな状況で作業しようものなら、「鬼滅描いて~!」でしょ(笑)。

abec 海外のイベントに呼んでもらったときに、飛行機の中で眠れなかったので液晶タブレットでイラストを描いてて、ふっと後ろを向いたら、上からアメリカ人のキャビンアテンドさんに覗き見られていたことがありましたね。

川原 確か、イタリアのイベントに行った時の、そこそこおじさんのCAさんでしょ?

abec え? そんなことありました?

川原 おじさんCAさんがものすご嬉しそうな顔をして後ろから見ていて、「あ、abecさん、気づいてない!」って。あれはいい光景だったなぁ(笑)。

abec 僕の記憶にあるのは女性の方だったので。

川原 じゃあ、結構あちこちで見られてるんだ(笑)。

abec 絵って、一発で何をしているのか分かっちゃうんで。やっぱり僕も個室じゃないんだったら、どうしても通路側の席では仕事できないなっていうのはありますよね。中には機密情報みたいな仕事もあるので。

川原 ゲーム関係とか守秘契約ガチガチですもんね。

abec 個人的には、ワーケーションで泊まるホテルにも、何かのサブモニターとして使えるテレビ兼モニターみたいなのが自分の部屋にあって欲しいですかね。それで、ワーケーション施設には、泊まる部屋よりもうちょっと広いデスクがあって、ちゃんと腰を労ってくれる椅子があれば……。

川原 重要(笑)。

abec さらに言うと、イラストレーター的にはペンタブ貸し出してくれたら最高ですね(笑)。

川原 私が最初にワーケーションって言葉を聞いたときのイメージって、完全にホテルのプールサイドで仕事する、みたいなのを想像してましたよ。デッキチェアに腰かけて、トロピカルドリンク片手に仕事みたいな(笑)。

abec プールサイドで仕事なんて、貴族じゃないと無理じゃないですか(笑)。

川原 せっかくホテルに泊まるんだから、設備が整ったワーケーション施設があれば使うでしょうし、もちろん機密性の高い仕事は自分の部屋でやりたいってときもあるでしょうしね。できれば、ホテルのレストランとかバーの、壁を背にして座れる席で数時間仕事するのを許してもらえたら、とても嬉しいなと思いますけどね(笑)。

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