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バーチャルYouTuberも盛り上げる:

沖縄の観光が攻めている「リゾテックおきなわ」レポ

2020年11月02日 16時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 リゾートとITをテーマとした国際展示会「ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市 2020」(リゾテックおきなわ)が、10月29日から沖縄コンベンションセンター展示棟で開催。事業のデジタル化や感染症対策など、観光周辺企業が抱える課題の解決策をIT企業が提案します。オンライン展示会も同時開催。オフラインの会期は11月1日で終わりましたが、オンラインは11月30日まで開催です。

会場の様子。「ツーリズムEXPOジャパン」も併載された

 Go Toトラベルで出かける人も増えてきた昨今。観光に最先端のテクノロジーを使うとどんなことができるようになるんでしょう。10月31日に現地を取材したところ「新しい!」「攻めてる!」と驚かされる提案がたくさんありました。

当日の最高気温は26℃。半袖で十分な陽気だった

●ドラレコの映像を旅の思い出に

 まず面白かったのは、「スマートレンタカー」とでもいうべきサービス。沖縄ツーリストなどが奈良先端科学技術大学院大学などと共同で、レンタカーの受付から返却まですべてをアプリで完結させるサービスを開発しています。

 利用者はレンタカーをウェブで予約する際に、免許証の画像をアップロード。店舗に置かれたタブレットで顔認証して、予約情報と注意事項の確認を終えれば受付完了。アプリに示されたレンタカーの写真を参考にレンタカーを見つけて、スマホアプリの「解錠」ボタンを押し、車の鍵を開けたら運転開始です。

申し込みで顔写真入りの免許証を登録すると、顔認証だけで受付完了

写真を見ながら自分の借りるレンタカーを見つける

アプリの「開錠」ボタンから車の鍵を開ける

 乗車をしたら今度はアプリで観光ルート案内。時間・料金・体力の条件を設定すると、適した観光ルートが自動的にマップ上に表示されます。観光が終わってレンタカー返却時間が近づくと今度はリマインダーを通知。車を降りて「施錠」ボタンを押せば、レンタカー会社に返却完了の連絡が行きます。

時間、料金、体力を入力すると観光ルートを提案する

全部盛りにしたら沖縄本島縦断デラックスツアーになった

レンタカー店舗に戻って「施錠」ボタンを押せば返却完了

 店舗から空港までのシャトルバスもアプリから予約可能で、バスを待っている時間に行ける店もアプリで案内。さらに自宅に帰った後にはドラレコが撮影した動画の中から見どころを自動編集した映像を観られます。顔や車のナンバーには自動でボカシが入り、SNSなどで共有しやすくしてあります。

バスの待ち時間に寄れるカフェやショップもアプリで案内

帰宅後には通ったルートが地図上に表示される

ドラレコの動画が自動的にハイライトになり、ナンバーなどにボカシが入れられる

 レンタカーの受付をするアプリなどは他にもありますが、旅行に行く前から行った後まで、旅程のすべてに関わるのが新鮮でした。現在は実証実験中で来年からサービス開始予定とのこと。一度使ってみたいですね。

●リゾートホテルに5G、遠隔運転車

 複合型リゾートのカヌチャリゾートでは、5G実証実験として施設内ゴルフ場にドコモの5G受信アンテナを設置。遅延の少ない5Gの特性を生かして、遠隔ゴルフレッスンや、リアルタイムドラコン競争などを実施しています。

5Gでゴルフの遠隔レッスンなど実証実験を実施した

 ソニーとヤマハが共同開発した遠隔操作カート「SC-1」を使ったMR体験も実施しています。今冬は実際にあった沖縄の怖い話をドラマ化するテレビ番組「琉球トラウマナイト」との共同企画だそうです。絶対乗れない……。

ソニーとヤマハのエンタメ車両「SC-1」が恐怖のバスに

 今年オープンしたコワーキングスペースには、スタッフの代わりにコミュニケーションロボットのオリヒメを配置。コワーキングスペースの入退出等はスマートロックのアケルンで記録します。内勤スタッフはスマートバンドを着けて健康状態を管理し、感染症対策を万全にしているということでした。

スタッフの代わりにコミュニケーションロボット「オリヒメ」を配置

現地のスタッフはスマートバンドで健康管理

 県内のIT企業オキコム(Okicom)は、360度カメラやドローンを使ってダイビングスポットなどを紹介する観光用コンテンツを作っています。

オキコムは360度カメラやドローンを使ったコンテンツ制作を手がける

沖縄の美しいダイビングスポット案内

 観光以外では、ドローンを使った工事現場の測量や、水産業、農業にも使われています。たとえばドローンでもずく養殖場を撮影し、網の状況や、生育状況を把握するのに使われているそうです。海の写真を大量に撮影し、写真から作った「海の地図」に水温や収穫情報をのせたデータベースも作るということ。

もずく網がどうなっているか把握できる

 沖縄のリゾートも、もずくの養殖も、ハイテクと真逆のアナログな世界を想像していたので「そんなに進化しているのか!」と驚かされるところがありました。確かに沖縄のように地方は実証実験の場所に選ばれることも多く、むしろ新しいことができるのは都市より地方なんじゃないかとも感じさせられます。

●沖縄に「また来たくなる」テクノロジー

 リゾテックおきなわは今回で2回目。沖縄にはリゾテックが必要な理由があります。リゾテックおきなわを運営する沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)稲垣純一理事長と、専務理事の永井義人さんに開催の背景を聞きました。

沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)稲垣純一理事長

 リゾテックはテクノロジーであらゆる産業の生産性を上げることをテーマとしてISCOが2年前に作ったコンセプト。沖縄の主要産業である観光とITをきっかけに物流や農林水産業にもハイテク化の波を広げることを狙いとしています。中でも収入をひっぱる観光産業の浮き沈みは、沖縄にとって死活問題です。

 稲垣理事長はリゾテックのコンセプトで沖縄県の観光をIT化することにより、沖縄を「また来たくなる場所」にしたいと考えています。

 「リゾートの語源は『レ・ソルティ(re-sortir)』、何度も行きたくなる先のこと。観光でもビジネスでも、医療でもスポーツのトレーニングでも同じです。沖縄を何度も行きたくなる場所にするには最新のIT技術の活用が不可欠。利便性のみならず安全・安心という意味でも、二重に重要になります」(稲垣理事長)

 稲垣理事長が例にあげたのが、先ほど見た「5Gゴルフ場」のカヌチャリゾート。カヌチャリゾートでは新たに施設内に診療所をオープンし、医師がいない日でもLINEで遠隔診療ができるようにしています。リゾートを訪れる客や、その家族が安心して旅行を楽しめるようにしようという工夫です。

カヌチャリゾートではLINEを使った遠隔診療も提供する

 「これは非常に重要です。ぎりぎり旅行ができる程の慢性疾患を抱えた家族と心配せず沖縄に来られるようになります。あるいは学校の旅行で少し体の弱い生徒がいた場合、安全を考えれば欠席させたいが、一生に一度の機会なので連れていきたい。そんなときに安心できる旅行先になります。そういうことが沖縄の観光を下支えしていくんじゃないかと」(同)

 これを広くとれば、テクノロジーによって一人ひとりの事情にあわせた配慮ができる、新しい観光地の姿が見えてきます。

 「大げさに言えば、生きがいを見つけられる沖縄ということですね。SDGsにあるように(観光の未来が)多様性を保証する未来でないといけない。デジタル化はややもすると社会を均一化に向かわせる危険もはらんでいます。コストダウンであるとかスケールメリットであるとか。そうではなく、本当に多様性を支えるITというところまで一気に持っていかなければならないと思います」(同)

 多様性への目配りは、ビジネス的なメリットにもつながります。通常の観光旅行は一度行ったらそれで終わり。季節や旅行のトレンドによって客数が左右されますが、繰り返し沖縄を訪れるための動機を作り、リピート客を増やせれば、トレンドによる客数の増減にも対応しやすくなります。リゾテックは沖縄、ひいては日本の観光業の持続可能性を高めるために必要な取り組みと言えるかもしれません。

会場の近くにあるトロピカルビーチからのぞんだ夕焼け

●これから旅行はもっと楽しくなる

 新型コロナウイルス感染拡大以降、観光業界は暗いニュースが目立っています。展示会もさぞやと思っていましたが、いざ会場を歩けば「これから旅行はもっと楽しくなる」という期待感に満ちていて、気分がぱっと明るくなりました。

 確かに感染症対策という意味では、スマホを使って直接ホテルのチェックインをするようなサービスなども目立ちました。一方、デジタル技術で観光地と観光客の距離を近づける楽しいサービスも同じだけ多く見られました。

 リゾテックおきなわを取材した10月31日は6年前、首里城が火災にあった日。沖縄美ら島財団では、CGで再現した首里城をVRで見られる「首里城VRゴー」を展示していました。失ったものが元に戻るまでは時間がかかりますが、その間にテクノロジーは人の気持ちを慰め、また新たなものを生み出していきます。新型コロナ時代の観光にも同じことが言えるのかもしれないと感じました。

CGで再現した首里城をVRで見られる「首里城VRゴー」

 リゾテックおきなわは11月30日までオンラインで開催中。オンライン展示会は公式サイトから必要な情報を登録すれば無料で参加可能です。

ResorTech Okinawa
https://www.resortech.okinawa

<開催概要>
名称:ResorTech Okinawa おきなわ国際IT見本市 2020
   (略称:リゾテックおきなわ2020、ResorTech Okinawa 2020)
主催:ResorTech Okinawa  おきなわ国際IT見本市実行委員会(実行委員長:稲垣純一)
後援:台北駐日経済文化代表処那覇分処
会期:2020年10月29日(木)~11月1日(日)
会場:沖縄コンベンションセンター 展示棟(ツーリズムEXPOジャパン2020 旅の祭典 in 沖縄 会場内)
展開内容:展示商談会、事前アポイントメント型商談会(バイヤーブース訪問型)、IT、観光等に関する講演等(予定)
対象分野:観光、飲食、小売、農業、水産業、製造、医療など産業全体に係るテクノロジー全般
主な来場者:ホテル、飲食、小売、サービス業、製造、交通事業者、農業、水産業、医療、福祉等・国内外の観光産業、観光関連産業事業者・国内外IT事業者、VC、DMO、自治体等・TEJ参加バイヤー及びTEJ出展者・一般参加者(※10月31日(土)、11月1日(日)は一般客の来場可能日)
主な出展者:ResorTechや関連テクノロジー・サービスを提供する事業者
同時開催 ツーリズムEXPOジャパン2020 旅の祭典 in 沖縄

 

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