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<ビルの建材を作れる3Dプリンターを見てきた [ビル✕ 3Dプリンター]>
ビルのような建物を3Dプリンターで作る「3Dプリンター建設」は日本でも始まっている。清水建設が手がける大規模オフィスビル「メブクス豊洲」のデッキを支える柱に使われた型枠は、3Dプリンターで出力されたもの。外構のベンチも3Dプリンター製だ。「そう言われると作ってるところを見たくなりますよね」と言うのはアスキー総研の遠藤諭。3Dプリンターの研究開発を進める清水建設技術研究所へ行き、特殊なモルタルで実際に立体物をプリントしてもらった。
取材班が聞いた話から、動画におさめきれなかったのが以下のインタビュー。3Dプリンターで作られた建材を使うことで、建設の姿は一体どう変わっていくのだろうか。(話者:清水建設技術研究所 小倉大季氏)
「ガッツンガッツン」がなめらかに
──そもそも3Dプリンターで柱やベンチのような建材を作るメリットというのはどこにあるんでしょう?
従来のコンクリート構造物は木や鉄の型枠の中にコンクリートを流し込んでつくりますが、その場合、曲線の形状を作るのが大変です。建設3Dプリンターを使う場合、データさえあれば比較的簡単に複雑な形ができるところが技術のメリットだと感じています。地震国日本では法律の制約はありますが、意匠性が求められる部材で適用が広がっていくと考えています。
──なるほど。日本は地震国で基準が厳しいということもあるかもしれないけど、まずこれを活かすのは造形かもしれないと。
それから、建設業界では技能労働者不足、高齢化が進んでいまして、施工技術の自動化はより一層求められています。省人化や生産性向上という点でのメリットも期待できます。
──「単品を作れる」とかもありそうです。
そうですね、多品種小ロット生産でもコストを上げずに作れるということはあると思います。
──個人的には試作品の傘立てとか、建物とインテリアのあいだくらいにあるものも面白いな、という印象があるんですけど。
ファサード(建物の正面デザイン)など、高い意匠性が求められるところは色々あるので、そこはねらいとしてあるかなと思います。
──建物とインテリアは分かれているようで連続性があるから、そういうところにも入ってくると。(3Dプリントされた)ベンチはブルーだったと思うんですが、色も自由度があるんですか?
通常の型枠で打ち込む場合はカラーコンクリートというものを使い、一色で部材を作りますが、3Dプリンティングは途中で色を変えられるという自由度がありますね。
──なるほど。(モルタルを)送る側がじょうごみたいになっていると。そこに色を入れてしまえばいいと?
はい。メブクス豊洲の外構に設置した「みなもベンチ」はその方法で、足元は薄い青、上にいくほど濃い青というグラデーションをつけています。
──使ってはじめてわかることというのはあると思うんですよ。3Dプリンターを使ってみて「予想と違った」とか「こんな発見があった」ということはありましたか。
もともとは省人化や自動化でメリットが出ると考えていましたが、思ったよりも意匠性が求められる部分での需要がありました。メブクス豊洲の柱もそうでしたが、「こういう技術があるならぜひ使いたい」ということで、意匠設計さんを含めて新しい形に挑戦できました。
──他にはどういう発見がありました?
従来の型枠を使わなくてよく無駄が省けるな、という発見もありました。物流的にも型枠の搬入や廃棄の手間を省けるので、今後この技術が現場で使われ始めると、環境負荷を低減する効果も期待でき、よりスマートな施工ができるんじゃないかと感じます。
──普通、建設現場には型枠がありますよね。
木製の型枠は何回か使った後に捨ててしまいますね。
──なるほど。型枠もいらないから環境にもいいし、みたいな。今、建設現場には型枠が置かれて、そこにトラックが通ってたりしていますが、将来的には「完全に3Dプリンターだけで建物を建てる」という話になったりするんでしょうか。ラボに「2050年の建設」みたいな絵もありましたけど。
あの絵はちょっと夢物語的ですが……たとえばいまは別の場所で作った部品を現場に運んでいるのですが、将来的には現場で直接印刷して建築物を作るといったことが増えていくんじゃないかなと思っています。
──3Dプリンターが巨大ロボット的に現場にあり、ケーキ屋さんみたいにウニュウニュとモルタルを出し、建物を作っていくと。
そのとおりです。ロボットを使った施工なので夜に自動で動かすということもできますよね。
──なるほど。プリンターなら静かですしね。
従来のようにコンクリートを型枠に打ち込む施工よりも静かにできると思います。
──そもそも、形1つをとっても従来の建築よりなめらかな感じがしますよね。焼き物とか彫塑というか、そういうアートっぽいものに近い。建築というのはそういうアートの側面があると思いますが、建築工程そのものが大きく変わっていく感じがします。
3Dモデルさえあればすぐに製造が始められるので、設計と製造の距離がすごく近づいた、ということもありますね。設計者にこうしたいというイメージがあるとき、従来は型枠を作るという工程がありましたが、3Dプリンターなら翌日に印刷してみよう、ということができる。設計と製造がデジタルを介してシームレスにつながるというのも、3Dプリンターの面白さだなと感じます。
──作っている途中で変えていくこともできるし。
そうですね。印刷してるときに「ちょっと違うなぁ」と思ったら、データを直してまたプリントしなおすとか。従来は型枠を作らないといけないのでそんな試行錯誤はできなかったんです。
──なるほど。これまで建設現場はガッツンガッツンどっかんどっかんやっていたのが、3Dプリンターが入ることでなめらかになっていく……そんな感じなのかもしれないですね。
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遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『ジェネラルパーパス・テクノロジー―日本の停滞を打破する究極手段 』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667Facebook:https://www.facebook.com/satoshi.endo.773
(提供:清水建設株式会社)
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