カーボンニュートラル・昆虫食・ICT・医薬・ロボ・素材……知財で成長を目指すスタートアップ20社がピッチ
「IPAS2021キックオフイベント」レポート
エコロギー:代替タンパク質のコオロギを養殖して食糧問題を解決
食品・環境分野の1社目には、株式会社エコロギー代表取締役CEOの葦苅晟矢(あしかり・せいや)氏が登壇した。代替タンパク質としてコオロギを養殖する昆虫食事業を展開する。世界的な人口増加とタンパク質の消費量増大で、既存の家畜による食料生産は環境負荷が高く持続的ではないという。このため代替タンパク質となる昆虫食を掲げ、食の問題解決を目指している。早稲田大学発のベンチャー企業で、コオロギを最適に飼育する方法や栄養価、機能性を研究してきた。
現在は、カンボジアで量産体制を作っている。「コオロギは暖かいところでよく生育する昆虫で、年中温暖なカンボジアが最適な環境。カンボジアにはコオロギを食べる文化が古くからあった」と葦苅氏は説明した。農業国のカンボジアには養殖農家が多く、農業の残査(残りかす)も有効活用ができる。現在、約50件の農家に生産を委託し、コオロギを買い取る農協のような生産を仕組み化した。コオロギ作りで農家の所得も向上する。農業残渣や食品工場から出る副産物を回収して、コオロギのエサとして有効活用している。さらに多くの農家と連携して、コオロギを活用した資源循環社会を作っていくという。
アルガルバイオ:“藻類プラットフォーマー”として機能性素材や代替タンパク質を開発
株式会社アルガルバイオの代表取締役社長CEOの木村周(あまね)氏は、藻類(そうるい)」から機能性素材や代替タンパク質、畜水産飼料、バイオ素材・エネルギーなどを開発する事業を説明した。2018年に創業した東京大学発のバイオテックスタートアップで、木村氏は「東大の20年以上の藻類研究でユニークな藻類株ライブラリーがある。ライブラリーから目的生産物に合った藻類株を選び、その株に合ったバイオ技術や遺伝子組み換えではない育種技術で生産性を高めることができる」と説明した。
独自の藻類開発を支えるプラットフォーム技術によって、要素技術を組み合わせて市場ニーズに対応した藻類を提供していく。将来は、幅広い用途に藻類を社会実装できるよう、多種多様な藻類ライブラリーを活用して最適な藻類のスクリーニング、育種、培養製法をパッケージで提供する「藻類プラットフォーマー」を目指している。自社の基盤技術をどのように強化していくのかの知財戦略を構築して、藻類プラットフォーマーとしてさらなる発展につなげる。
Symbiobe:光合成生物で二酸化炭素と窒素を固定する「バイオコンビナート」を開発
食品・環境分野の3社目、全20社の最後を務めたのは、環境バイオベンチャーのSymbiobe(シンビオーブ)株式会社の代表取締役、後(うしろ)圭介氏だ。微生物の「海洋性紅色(こうしょく)光合成細菌」による二酸化炭素固定と窒素固定の両能力をフル活用する。「カーボンリサイクル」と農業で必須肥料の窒素を確保する「窒素資源の供給」を同時に実現して、空気を資源化する「バイオコンビナート」を構想。温室効果ガスの削減と人類の食料危機の回避、さらに環境分解性物質の普及拡大という壮大なものだ。
2025年時点で温室効果ガス固定の最初のパイロットプラント稼働を予定し、現在はその実現に向けたスケールアップ技術開発を進めている。製品開発に向けて企業とのアライアンスを構築し、2025年以降は国内で本格量産するプラントを展開して各種マテリアルの生産・販売を進め、2030年頃から海外で大規模なプラント展開を計画するという。後氏は「特に温室効果ガスを固定化する前例の少ない新しいビジネスモデルを確実に展開していく」と話している。