位置情報ビッグデータが解決する地域課題

データを活用し、地域課題の解決や、従来の交通調査では得られなかった知見の取得を目指す

コロナ後のビッグデータ活用 位置情報による実証実験を国交省が進める理由

文●森嶋良子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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実用化とオールジャパンの展開が見込めるプロジェクトを採択

曽根原 今回の採択については、どのような点を評価して選ばれたのでしょうか。

【採択事業一覧】
・町の公共交通再活性化に向けたビッグデータ活用分析実証実験事業/日野町
・富士山周辺におけるビッグデータを活用したゼロゴミアクション/ふじさんゼロゴミアクション
・牡鹿半島における観光ビッグデータ活用の実証実験/一般社団法人おしかの学校
・ビッグデータ、自動運転バスを用いた地域経済活性化/境町
・山梨の観光地における群流解析実証実験/エリアポータル株式会社
・携帯基地局データをベースとした“新たな移動データ”の構築と、都市OSへの安定的なデータ供給および汎用性の高いシステム構築に向けた検討/パシフィックコンサルタンツ株式会社四国支社
・ウォーカブルな中心市街地を形成するための人流分析および購買・消費分析/須賀川南部地区エリアプラットフォーム
・大分県北部地域の連携によるデータドリブン滞在型観光の実証分析/おおいたノースエリア観光推進協議会
・ビッグデータで実現するEBPM観光まちづくり/岡崎スマートコミュニティ推進協議会

後藤 今回、日本全国から52件の応募をいただきました。そのうち9件の採択を決定しましたが、採択基準としては、実用化への道筋がはっきりしていることを重視しています。先ほどデスバレーと言いましたが、単なる実験で終わってしまっては税金の無駄遣いになるので、本当に行政の中で使う気があるのかというのがポイントになりました。

 もう1つは汎用性です。国としてやる以上は、その自治体だけでなく、オールジャパンでこのサービスが活用できるような、そういう標準サービスを支援していく必要があります。そして、社会的に大きな課題解決につながっているかどうかですね。例えばコロナ対策、環境問題、交通政策、少子高齢化などです。こういったところにきちんと立地した課題であるかどうか。これらについて評価の高かったものを今回採択させていただきました。

曽根原 各プロジェクトについての具体的な期待は、どのようなものですか。

後藤 いくつか紹介します。「富士山周辺におけるビッグデータを活用したゼロゴミアクション」は、登山客のゴミのポイ捨てによる環境課題の解決がテーマで、ゴミが捨てられやすいエリアや人流との関係を分析して将来的なごみの低減につなげようというものです。ゴミ問題はほかの観光地でも起きていますし、SDGsの視点からも重要です。

曽根原 ゴミがない、きれいというのは、観光地の資産価値を高めるうえでもとても大切なことです。これまでポイ捨てをしていた人がごみを片付けるという、行動変容の話にまでつながれば、これは世界標準につなげることができると思いますね。マナーが良いという大切な日本文化遺産の世界発信ですね。

後藤 ごみを捨てるという行為がどういうプロセスで起きているかの分析は、いままでできなかったことだと思いますが、ビッグデータを活用して解析できるのであれば、行政にとっても大きなプラスになると思います。

 また、愛知県岡崎市の「ビッグデータで実現する EBPM 観光まちづくり」は、NHK大河ドラマのロケ地になったことで観光客が増加した地域の人流解析です。大きなイベントに人がどういった交通手段でどういう集まり方をするのかを分析できるという意味で、汎用性は高いと考えています。コロナ禍で大きな痛手を受けている音楽イベントやフェスティバルの救済にもつながると思います。

曽根原 本プロジェクトの成功の判断はどのように考えていますか?

後藤 自治体やビジネスで使われてプロフィットを上げるということもありますが、数値的なものだけではなく、ベネフィットを上げることが大事だと思います。なんらかの形で社会課題の解決、行政サービスの改善が実績としてできたとしたら、それは大きな成果になります。

 例えば、ビッグデータの活用によってあるルートで観光客が増えていることが分かり、そこに臨時の駐輪場を作ることができたということがあれば、それも成果になると考えています。

社会実装を通して解決したい3つの課題

曽根原 今後、位置情報とビッグデータ活用を進めるには、突破しなければならない課題がいくつかあると思っています。 1つ目は、ビッグデータを高速に処理する技術、2つ目はパーソナルデータの位置情報に関するプライバシー保護の問題です。特に公共性の高いビッグデータ基盤を整備するにあたっては、データプライバシーの保護活用のバランスが難しいと思いますが。

後藤 技術的なハードルに関しては、プラットフォームを構築して提供することで、誰にでも安価に自由に使えるような環境を整備したいという目標を持っています。

 そしてプライバシーの問題は大きいですね。定められたガイドラインの範囲内で、通信業者の基地局から得たデータを個人情報がわからない形で提供してもらうようにしています。社会課題の解決には個人のデータではなくて、例えば半径300m以内の交通利用状況などがわかれば十分だとも聞いていますが、どれくらいのデータが実用として使い勝手がいいかということは検討していく必要があります。

曽根原 実証実験を行うことで、社会的なコンセンサスが得られていくことを期待しています。

 また3つ目の課題は、データ活用人材育成問題だと思います。データ駆動のサービスやシステム、ビジネス、運用や改善を考える人材をどう育成するかというのは大きな課題だと思いますが、いかがですか。

後藤 人材育成はものすごく大事だと思っています。 今回は自治体や企業から提案を募集しましたが、次のステップとして、来年ごろに学生や若年層を対象としたビッグデータ活用アイデアを募集するコンテストやアイデアソン、ハッカソンといった取り組みを考えています。コンテストを実施すると、意欲的な学生が集まってきてくれますので、それを人材育成につなげていけると面白いのではないかと考えています。

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