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スマートシティ/スマートコミュニティの取り組みを加速、観光集客における課題と対策を議論

来年の大河「どうする家康」で注目の岡崎市、携帯ビッグデータ活用で取り組む「3つの課題」

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 2023年(令和5年)1月スタートのNHK大河ドラマ「どうする家康」(主演:松本潤さん)の主要な舞台となる愛知県岡崎市。同市では、ドラマ放映をきっかけとした観光客増加による地域経済活性化への期待が高まるとともに、この好機を生かしたスマートシティ化のチャレンジも盛り上がりを見せている。

 国土交通省が昨年12月に発表した携帯電話の位置情報データを活用した実証実験事業では、全国9件の採択事業の1つとして、岡崎スマートコミュニティ推進協議会が提案した「ビッグデータ活用による旅客流動分析 実証実験事業」が採択された。観光客の大幅な増加に伴って発生が予想される地域課題について、徹底的なデータ分析に基づいて解消を目指すものだ。

 3月4日にオンライン開催された「岡崎スマートコミュニティ推進協議会 第10回 総会」では、岡崎市長の中根康浩氏、岡崎市 総合政策部企画課 係長の鈴木昌幸氏から、この実証実験を行う背景や狙いが詳しく説明された。岡崎市と同協議会がこれまで取り組んできた、さまざまなスマート化の取り組みもふまえつつ紹介したい。

岡崎市のWebサイト

岡崎市長の中根康浩氏、岡崎市 総合政策部企画課 係長の鈴木昌幸氏

「人流がなければ都市は再生しない」ウォーカブルなまちづくり

 「わたしは『岡崎力(おかざきりょく)』というようなものを信じている」――。総会であいさつに立った岡崎市長の中根氏は、このように切り出した。この「岡崎力」とは岡崎市の持つ魅力や強みのことであり、具体的には歴史、豊かな自然、伝統の力、さらに人と人との絆の強さなどを指すという。岡崎の街が持つそうしたポテンシャルを十分に生かせる街づくりを目指して、市では積極的な取り組みを進めてきた。

 たとえば市の中心部、岡崎公園のそばを流れる乙川沿いの「乙川リバーフロントエリア」では、国の支援も受けながら公共空間の再整備を行ってきた。これにより魅力的なスポットが生まれたが、「それだけでは都市再生は完成しない」と総合政策部企画課の鈴木氏は説明する。そこに「人流」が生まれなければ、さらなる公共/民間の投資が活性化することはないからだ。

 「この人流は、『まちなかウォーカブル』という思想のもとに広がっていくべきもの。『歩いてくつろげる、楽しめる空間』が成立していなければ、人の流れは起こらない。そして、人の流れがなければ都市再生は起こらない。ほとんどの場合、既存の人流があってはじめて(民間は)出店を考える」(鈴木氏)

 特に岡崎市のような地方都市では、日常生活における自動車への依存度が非常に高い。そのため、大規模商業施設などの目的地までの間にある街は“素通り”されて活性化しない、育たないという事態が起きている。歩いて楽しめる「ウォーカブルな」街づくりを進め、人流を創出することで公共/民間の投資を活性化させれば、さらに人が集まる好循環が期待できる。

岡崎市では中心部の「まちなかウォーカブル」実現による都市再生を目的に、さまざまなスマートシティ実証実験を展開してきた

 岡崎市におけるスマートシティ化の取り組み、さまざまなスマート技術の活用は、この「まちなかウォーカブル」を支え、推進することを目的としている。岡崎スマートコミュニティ推進協議会における議論をふまえながら、そうした街づくり推進のうえでの課題を8つ(安全、快適、健康、商業、観光、防災、環境、交通)に整理し、課題解消を目指す取り組みを続けてきた。

 その取り組みは2018年度(平成30年度)の電動サイクルシェア導入に始まり、花火大会開催時の3D-LiDAR活用による群衆事故防止、街なかに設置した人流分析カメラ映像を使ったリアルタイム人流密度管理、通行人属性推定、駐車場の満空情報発信など、取り組みの内容も年を重ねるごとに高度化している。現在は「公共の投資によって“下地”は整った。民間からの投資が期待できる時期が始まっている」フェーズだと、鈴木氏は説明する。

電動サイクルシェアについてもデータ分析に基づく運営の最適化を行い、採算性を高める戦略を練っている。岡崎市の1台あたり売上は国内トップだという

大河ドラマ放映というチャンス到来、ただし「負の影響」の懸念も

 そんな岡崎市に大きなチャンスがやってきた。冒頭で触れた来年の大河ドラマ放映だ。岡崎市は徳川家康生誕の地であり、全国からの注目度が一気に増すことは間違いない。岡崎城のある岡崎公園には、徳川家康の生涯などを解説する常設施設「三河武士のやかた家康館」があり、これを期間限定の「大河ドラマ館」に改修して撮影衣装や小道具なども展示し、観光の目玉とする計画だ。

 市長の中根氏も「この絶好の機会を最大限活用していきたい」と述べ、大河ドラマ館をはじめとする観光客向けの環境整備を行っていく方針だと語る。ただしその一方で「市民への配慮も忘れずに観光施策を進めていきたい」とも強調した。

 観光客の増加は地域にプラスの影響だけを与えるものと考えがちだが、場合によっては「負の影響」も生じうる。岡崎市における具体的な懸念点は、観光拠点となる岡崎公園周辺における交通渋滞の発生だ。岡崎公園には隣接する駐車場があるが、この駐車場は国道1号線と直結しており、大河ドラマ館オープン後に観光客が増えれば駐車待ちの車列が交通渋滞を引き起こすおそれがある。

 岡崎市では例年「岡崎の桜まつり」や「岡崎城下家康公夏まつり 花火大会」が開催され、市内を含む西三河地域(愛知県中部)から多くの人が訪れる。ただし大河ドラマ放映による観光集客は、規模も性質もそれとは異なるものだ。“経験と勘”では対策が取れない。

 観光集客効果を最大化し、同時に市民生活への負の影響を最小化するためには――。ここで岡崎スマートコミュニティ推進協議会では、ビッグデータを活用した旅客流動分析に取り組むことにした。これが冒頭で紹介した、国土交通省が採択した実証実験事業である。

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