PPPoEだけではなく案4に決まった理由 VNEはなぜ3社だったのか?
IPoEの10周年記念イベントが開催! 今だからこそ語れるIPoE誕生秘話
アドレス枯渇からIPv6移行が本格スタート 目の前にフォールバックの壁
続いて行なわれた「IPoE黎明期を振り返る~案4からIPoEへの進化~」というセッションでは、フレッツサービス主管としてNGNのIPv6対応に関わっていたNTT東日本の岩佐功氏とIPoE協議会の副理事長であるインターネットマルチフィードの外山勝保氏がIPoE誕生に至る経緯について振り返った。
まず外山氏から改めてIPoEのおさらい。IPoEはNTT東西のNGN(フレッツ網)を用いたフレッツ光ネクストでIPv6のパケットを通すための技術で、IP over Ethernetの略称になる。フレッツ網でIPv6パケットを直接転送するため伝送が速いという特徴があるほか、IPoE事業者(VNE)のサービスによってIPv4の通信も利用できる。過去10年で一気に利用者が増え、直近では1500万回線を突破したという。
NGNの登場当初、IPv4アドレスの枯渇はすでに大きな課題だった。岩佐氏は、「インターネットはこの20~30年で社会の基盤になっており、これを持続可能にするためにアドレス枯渇に対する対応は業界で必須だった。しかし、エンドユーザーから見ればIPv4とIPv6で受けられるサービスに大きな違いはない。そして、IPv6を提供するためにコストがかかる。これに対して、業界としてどう対応すればよいか悩んでいた時期だった」と振り返る。儲からないのに、今後のインターネットを考えれば投資しなければならないIPv6の導入は長らく大きな課題だったわけだ。
NTT東西のBフレッツの基盤だった地域IP網と異なり、NGNは当初からIPv6インターネット対応で構築される前提となっていた。総務省によるNGNの認可条件にも「IPv4からIPv6への移行に関する諸問題について、ISP事業者との積極的な協議を行なうもの」とされており、業界を巻き込むことで、IPv6への移行を一気に加速させようという意図を感じたという。「積極的にという表現に思いがこもっている」と岩佐氏は指摘する。
しかし、ここで問題になったのが、井上氏が2つめの問題として挙げたIPv6のフォールバック問題だ。岩佐氏が「暗い過去」と表現するフォールバック問題は、IPv6/IPv4デュアルスタックの環境で名前解決を行なうとIPv4よりIPv6の通信が優先され、接続が失敗した場合にIPv4で接続を試みるという現象。IPv6を試してからIPv4での通信になるため、遅延が発生し、通信をあきらめてしまうこともある。特にNGNでは割り当てられるアドレスがあくまでNGNに閉じてインターネットにつながらないIPv6アドレスになるため、接続失敗までのタイムアウトを待たなければならなかった。
これに対してNTT東西は閉域網宛でないIPv6アドレスへのTCPの通信に対して、RST(リセット)パケットを戻すという装置を導入し、IPv6のTCP接続を早々に失敗させ、フォールバック速度を短縮するという方法をとった。「40秒の遅延が2秒にまで短縮できた」(岩佐氏)という。
3つの事業者に絞られなければならなかった理由
2008年3月にNGNの提供が開始され、翌4月にはIPv6の移行が本格的に議論されるようになる。「インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会」でJAIPAから3つの接続方式が提案され、さらに12月に案4が追加された。これらは大きくどこがIPアドレスを払い出すかという点で異なっており、認可されたのが、案2のPPPoE方式と案4のIPoE方式だった。
案2のPPPoE方式はIPv4のISP接続と同じで、NTT東西とISPが2つのIPアドレスを払い出し、トンネリングするという方法。そして案4のIPoE方式はNGNとVNEがL3接続し、VNE側のIPアドレスを払い出したユーザーの通信を該当するVNEへルーティングする方式になる。従来型のPPPoEの方が管理は簡単だが、IPoEに比べて技術的、性能的な制約が大きいという弱点があった。
案3も仕組みとしては案4と同じIPv6ネイティブ方式だが、インターネット接続を行なうためのIPアドレスをNTT東西のものを使用する方式になっていた。「これだとISPが自身のIPアドレスを払いだせないし、NTT東西が自身でDNSサービスを運用する必要があった。この2点はISPのアイデンティティに関わっていた」と岩佐氏は指摘。IPoEネイティブ方式のメリットとISPのアイデンティティを並立させる方式として、あとから案4が提出されたという。
しかし、NGN内に案4の仕組みを実装するのは技術的にハードルが高く、岩佐氏も「まあ無理でしょうと思っていた」とのこと。ただ、ネットワーク機器ベンダーとの相談や研究所を含めてNTT東西で検討を繰り返し、とある条件を満たせば実現できることがわかった。これは「IPoEの事業者(VNE)が3社に限定される」という制約だ。
ISPのIPアドレスの払い出しをNGN内で展開すべく、VNEのルーティングドメインを共有すると、網に障害が発生してトポロジが変化した際に経路の収束に時間がかかり、ひかり電話のようなNGNのサービスに影響が出てしまう。NTT東西の本業はやはり電話会社なので、これは大きな問題だ。「インターネットのようなIPパケットを転送するサービスと比べて、電話というサービスは実時間処理の許容度が極めて低い」とのことで影響を最小限に抑えるためには、IPoE事業者を3社に抑えなければならなかったというのが実情だったという。ここで生まれたのが、VNEと呼ばれるIPoEのローミング事業者だ。