「ESG経営」は儲かるのか? 因果分析で紐解く。
提供: 電通国際情報サービス
5年前のCO2排出量がPBRに影響していた
松山:今回の検証では、製造業500社について、2010年から2020年の10年間のデータを使い、ROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)に何が因果的に寄与しているかを分析しました。各項目に共通した結果は「従業員への教育投資が大きく影響を与えていた」ということです。他の研究でも従業員への教育投資の重要性は言及されていましたが、CALCでも同様の示唆が得られました。
また、PBRに着目したときには、二酸化炭素排出量とその裏にある効率性が影響を与えていることもわかりました。2020年から2021年へのPBRの成長率に、5年前の二酸化炭素の排出量が影響を与えていたことも分かりました。直観的にタイムラグの影響はありそうだと思っていたのですが、実際の分析結果も直観と整合的だったことが面白い結果だったと感じています。
排出量に関してはサプライチェーンマネジメントのScope 3※が影響していて、サプライチェーンマネジメントがしっかりできていることが二酸化炭素の排出量に影響していることと、有害物質、VOCの排出量の効率性が影響しているということもわかりました。
※ Scope 3:事業活動に関係する社外の排出を合計した排出量のこと。原材料、輸送・配送、製品の使用・廃棄などが含まれる
森田:ある程度は予想していましたが、けっこうタイムラグが大きいなぁ、という印象でしたね。
平瀬:「サプライチェーンマネジメントや人材教育の実施がPBRに好影響を与えている」と伝えると、これまでは「因果関係が逆でしょう」と指摘をいただくことがありました。つまり、儲かっているからこそサプライチェーンマネジメントや教育にお金をかけられるんでしょう、と。これまではこの答えがなかったわけですが、今回の検証で「非財務情報(サプライチェーンマネジメントや従業員教育)が財務情報(PBR)に影響を与えている」という因果関係を示せたことは、非常に意義深いことだったなと思っています。
森田:我々の初期仮説として、業績よりも株価への影響が大きいのでは、ということがありました。まずは世間の評判が上がり、株価が上がってから、業績は少し時間をおいてついてくるというイメージです。そういう意味では、PBRの関係性が強いというのは、もともと持っていた仮説に近かったです。本来なら業績が良くなって株価が上がるという流れなんでしょうが、今の時代はどちらかというとESGの取り組みへの情報発信によって将来ビジネスへの期待感が醸成され、それが株価に織り込まれていくイメージなんだと思います。
平瀬:私も同じ認識です。もしかしたら、「CO2排出量を減らしました、株式市場で評価されて株価が上がりました、資本効率が良くなって業績が上がりました」という因果関係も見てとれるかと思います。もうひとつ留意していただきたいのが、今回は2015年頃のCO2排出量が2020〜2021年のPBRに影響をおよぼしていたということ。当時のESGに対する世間的な見られ方は、今とはまったく異なっています。現在のほうが非財務情報も充実していますし、世の中のESGに対する機運も高まっています。この状況でデータを分析すると、影響が出るまでのタイムラグがもっと短くなっている可能性がありますよね。より即効性があるかもしれません。