セリプスキー新CEOが見せた"パーパスビルト"なサービスへのこだわり
Graviton3、プライベート5G、デジタルツイン AWS re:Invent 2021で発表されたアップデート
2021年12月03日 10時00分更新
2年ぶりに米ラスベガスでのリアル開催となったAmazon Web Services(AWS)の年次プライベートカンファレンス「AWS re:Invent 2021」が米国時間11月29日からスタートした。本稿ではAWSのCEOとして初のre:Inventを迎えたアダム・セリプスキー(Adam Selipsky)氏による11月30日のオープニングキーノートで発表された新サービスの概要を紹介する。
前CEOのアンディ・ジャシー氏からAWSのトップを引き継いだアダム・セリプスキーCEOはAWSの初期メンバーとして主要サービスのローンチをリードしたのちにTableauのCEOに就任。そして今年5月からAWSにカムバックしている。
Graviton 3とC7gインスタンス
セリプスキーCEOが最初に紹介したアップデートは「Graviton3」。AWSが独自に設計するArmベースのプロセッサー「Graviton」の最新プロセッサーだ。DDR5メモリのサポートなどによる徹底した高速化が図られており、前世代の「Graviton2」と比較すると
・一般的なワークロード実行時のパフォーマンスが25%アップ
・最大2倍の浮動小数点および暗号化パフォーマンス
・bfloat16において3倍高速
・電力消費量を約60%削減
・新しいポインタ認証機能によるセキュリティ向上
といった特徴を備えている。
このGraviton3の発表にともない、Graviton3を採用した「Amazon EC2 C7g」インスタンスのプレビュー提供が開始した。その名の通り、Graviton2を採用したC6gインスタンスの後継インスタンスで、C6gインスタンスと同様にハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)や高性能ゲーム、機械学習推論などコンピューティングパワーを多用するワークロードに最適なコストパフォーマンスを提供するインスタンスとして位置づけられている。Graviton3を搭載したことで、ネットワーク帯域幅が20%アップしているほか、HPCアプリケーションなどを対象にした30Gbpsの「Elastic Fabric Adapter(EFA)」もサポートする。DDR5をサポートする「クラウド初のインスタンス」(AWSジャパン パブリックセクター技術本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏)として、HPC分野での導入拡大が期待される。
Trn1インスタンス
セリプスキーCEOからアナウンスされたもうひとつのインスタンスが「Amazon EC2 Trn1」だ。昨年のre:Invent 2020で発表された機械学習トレーニング用のカスタムチップ「AWS Trainium」を採用したインスタンスで、画像認識や自然言語処理、不正検知などの機械学習モデルをトレーニングするのに適したインスタンスとなっている。1万以上のTrainiumチップを並べて大規模クラスターを構成することも可能で、分散マルチノード構成および分散トレーニングを実現できる。
2019年のre:Inventで発表された機械学習推論に特化した「Amazon EC2 Inf1」インスタンス(推論専用プロセッサ「AWS Inferentia」採用)とペアで使うことで、推論/トレーニングともに最適なコストパフォーマンスのディープラーニング環境をクラウド上に構築できるようになる。
AWS Mainframe Modernization
AWSはオンプレミスからクラウドへのワークロード移行を支援するサービスをいくつか展開しているが、セリプスキー氏が今回発表したのは、おもにメインフレームの移行に特化したマネージドプラットフォーム「AWS Mainframe Modernization」だ。
レガシーワークロードの中でもハードウェアやプログラミング言語の特殊性からクラウド移行が進まないとされるメインフレームだが、AWS Mainframe ModernizationにはメインフレームアプリケーションがAWSクラウドの環境(EC2、コンテナ、Lambdaなど)で実行できるよう、COBOLコードをJavaに変換するなど、メインフレームにおける開発/テスト/デプロイをモダナイズするツールやランタイムが含まれている。COBOL以外にも、PL/1、JCL(Job Control Language)、CICS(Customer Information Control System)などレガシーの資産を幅広くサポートしている点も特徴のひとつだ。
AWS Mainframe Modernizationのもうひとつの特徴は、単にレガシーワークロードをクラウドに移行するだけではなく、モダンなCI/CDパイプラインに対応したワークロードに変換できる点だ。マイグレーションからモダナイゼーションを実現し、その後に運用改善、さらにはイノベーションのプラットフォームとしてメインフレームがあらたに生まれ変わるまでをサポートしていく。現在は米国東部リージョンのみの提供だが、メインフレームがいまも1万台以上稼働しているといわれる日本でもニーズが高そうだ。