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超音速旅客機を手がけるブームCEOも登壇 スタートアップとAWSのシナジー

信頼される機械学習サービスを目指すAWS QuickSight Qでは自然言語で検索も

2020年12月07日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 グローバルカンファレンス「AWS re:Invent 2020」の目玉とも言えるAWS CEOのアンディ・ジャシー氏の基調講演では、近年注力する機械学習に関するサービスも数多く投入された。今回は超音速旅客機を手がけるブームの登壇とともに、機械学習関連のサービスを中心に紹介したジャシー氏のセッションを振り返る。

AWS CEOのアンディ・ジャシー氏

超音速旅客機の夢をもう一度 ブームの再発明

 AWS re:Inventの基調講演では、毎年紹介するテクノロジーにあわせてさまざまなユーザー企業がゲストとして登壇する。最近はエンタープライズと呼ばれる大手企業も増えたが、やはり黎明期からクラウドを支持してきたスタートアップの事例は事業含めて面白い。そんな観点で、今回ひときわ注目を集めたのは、Boom Technology(以下、ブーム)のCEOであるブレイク・ショール氏だ。

 米国デンバーに本社を置くブームは、超音速旅客機の開発を手がけるスタートアップ。コンコルドを最後に世界の空から引退した超音速旅客機を、今のテクノロジーで作り直し、世界をもっと身近にするのがブームの目指すイノベーションだ。同社が開発中の超音速旅客機「Overture」は、9時間半かかっていた東京-シアトル間の旅を4時間半にまで短縮する。ニューヨークからロンドンまでもたった3時間半。コロナ禍で航空産業が停滞している中だが、なんとも夢のある話だ。

ブーム CEOのブレイク・ショール氏

 実はブレイク・ショール氏はアマゾン・ドットコムの出身で、初めての仕事はソフトウェアエンジニアだった。当時、ボーイングで航空機の訓練を受け、AWSの前進を目の当たりにしたショール氏だが、その後モバイル決済の会社を経て、ブームを起業。現在は設計に必要なHPC環境をすべてAWSに移しているという。「AWSのクラウドによって、ブームはイノベーションに専念できる。これまで大企業や政府にしかできなかったことを可能にしてくれる」とショール氏は語る。

 古典的な航空機開発では、人が紙と定規を使って機体を設計し、風洞を使ったテストを繰り返す。しかし、コンピューター化された現在は、クラウドで利用できるHPCの計算量が開発スピードに直結する。実際、先頃ロールアウトした技術検証機「XB-1」の開発においては、500コアを超えるEC2のクラスターを使い、何百ものデザインを試し、テストを繰り返しという。「AWSによって生産性は6倍も上がった。AWSがなければ、コンセプト止まりで、製造までは進めなかった」とショール氏は語る。

 AWSがコンピューティングを再発明しているように、ブームは旅行を再発明しているという。「2030年までにフライト時間は半分になる。オーストラリアはハワイのようになる。でも、これはまだ一歩でしかない。世界中どこでも4時間、しかも100ドルでいけるようにしたい。AWSはこの道のりを支援してくれている」(ショール氏)。イノベーションを目指すスタートアップとイノベーションを支援するAWSとのシナジーを感じた熱い瞬間だった。

機械学習の重荷「データの準備」に手を付けたAWS

 さて、AWSを用いて先進的なAIプラットフォームを構築したインテュイットの講演を皮切りに、ジャシーCEOのセッションは機械学習(ML:Machine Learning)に話を移す。「機械学習はクラウドでさらに実践的になっており、多くの企業が活用し始めている。しかし、機械学習はまだ初期の段階でしかなく、すべてが継続的に再開発されている」とジャシー氏は語る。

 まずジャシー氏が明確にしたのが、あらゆるMLフレームワークを積極的にサポートするという姿勢だ。機械学習の活用がスタートした5年前、MLフレームワークとして利用されていたのはほぼTensorFlowだけだったが、最近はPyTorchが台頭し、新しいフレームワークも出てきた。これに対して、AWSはTensorFlowのみならず、PyTorchやMXNetのサポートし、AWS上での動作に最適化しているという。ジャシー氏は、「これからもわれわれはすべてのメジャーなMLフレームワークをサポートしていく」とコミットした。

 MLフレームワークはプロフェッショナルのMLエンジニアが高度なツールを用いて利用するものだが、より広範なエンジニアやデータサイエンティストに機械学習を扱えるようにするのが2017年に発表された「Amazon SageMaker」だ。「非常にひきが強く、フィードバックも多い」というSageMakerには1年に50以上の新機能が追加されており、昨年はNotebook、Debugger、Monitor、AutoPilotなどの機能を統合したML開発環境「SageMaker Studio」が発表されている。

 そんなSage Makerの顧客から得られたフィードバックは、データの準備の負荷が重いというものだった。いろいろなソースからのデータが、多種多様なフォーマットで集まってくるし、トレーニングや推論のために用いる「フィーチャー(特徴量)」と呼ばれる属性やプロパティも正規化しなければならない。

 こうした課題を解決するのが新発表された「Amazon SageMaker Data Wrangler」だ。列タイプの変換、平均・中央値など欠落データの補完、データ/時間の埋め込みなど300以上の組み込み変換ロジックを用いることで、コード記述なしに容易にデータを正規化できる。ソースも多彩でAmazon S3、Athena、Redshift、LakeFormationなどから選択できるほか、CSVやParquitファイル、データベースなどのファイルをインポートすることも可能だ。

 また、フィーチャーの保存、更新、取得、共有を可能にする統合管理するリポジトリ「Amazon SageMaker Feature Store」もあわせて発表された。ジャシー氏は、「Sage Maker Studioの中から使えるので、整理したり、共有も簡単で、トレーニングや推論の遅延もほとんどない」とアピールする。

フィーチャーを統合管理するリポジトリ「Amazon SageMaker Feature Store」

 さらに「機械学習にはCI/CDがない」という課題に対して新たに発表されたのが機械学習向けのCI/CDツール「Amazon SageMaker Pipelines」だ。データのロード、学習処理、モデルの最適化など、機械学習のワークフローの各ステップの依存性を統合管理。ステップを自動化することができ、処理結果はSageMaker Experimentsに記録される。ワークフロー自体を再利用したり、共有することも可能だという。

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