リアルオンリー開催のCybozu Days 2021基調講演レポート
北國銀行、日清食品が語るkintone、そして「カオス」との付き合い方
2021年11月02日 09時00分更新
テレワークの障害となる紙の決済・申請をkintoneで一掃
後半二人目のゲストとして登壇したのは、日清食品ホールディングス CIO グループ情報責任者の成田敏博氏。青野氏は自身が大ファンだという「カレーメシ」をステージに並べて成田氏を出迎える。
成田氏はアクセンチュアからキャリアをスタートし、DeNAやメルカリといったWebサービス事業者を経て、2年前に日清食品HDにジョイン。現在はグループのCIOとしてIT全般を取り仕切る。そんな成田氏が入社した日清食品の設立は今から約70年前で、従業員数は約1万5000人、連結グループ会社は60社強という規模。「カップヌードル」や「チキンラーメン」、青野氏も一押しの「カレーメシ」などを主力製品として持つほか、冷凍チルド食品、飲料、菓子など幅広く事業を手がける食品メーカーだ。
同社がDXに進んだのは、今から3年前の2018年で、トップダウンでデジタル化や働き方改革への強いコミットが示されたという。当時、社内で公開された「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルで武装せよ)」と名付けられたイメージビジュアルには、紙文化からの脱却、どこでもテレワークなどのマイルストーンが絵が描かれている。その後、2019年のコロナ禍を経て、これら一連の改革が一気に加速。2023年に向けてはルーティンワークの半減、2025年は完全無人ラインを実現する予定となっており、今も着実にその歩みを進めている。
成田氏が入社した2年前、DXに向けて先進的な会社だっただけに、紙はかなりなくなっていたが、それでも決済や申請で紙の書類が残っていた。テレワークの障害ともなるこれらの紙を一掃したのがkintone。「ペーパーレスを進める上では、コロナ禍は完全に追い風でした」と成田氏は振り返る(関連記事:ペーパーレス化の過程で内製化へ舵を切る 日清食品のDX戦略)。
成田氏が製品選定のポイントとして挙げたのは、①レスポンスを含めたユーザビリティ、②モバイルの利用に適していること、③クラウドネイティブなサービスであること、④自社メンバーのみによるシステム開発が可能であることの4点だ。これら元に21社にヒアリングし、6社のプロトタイプ検証を行ない、選定されたのがkintoneだ。成田氏自身も「一時期は社内で一番アプリを作っていた(笑)」というくらい試用を重ね、自社で内製化可能なプラットフォームとしてkintoneによるアプリ化を進めた。
日清食品がkintoneをゆるく管理する理由 伴走というSIの形
日清食品のDX戦略であるNBX(Nissin Business Xransformation)では、IT活用や開発の主体はあくまで業務部門だ。業務を知り尽くす業務部門が要件を定義し、システム開発やユーザーのコミュニケーションまで担当する。一方、成田氏が率いるIT部門はサポートに徹し、環境の提供や開発のアドバイス、ガバナンスのコントロールを手がける。そして、そのIT部門を外部ベンダーや人材が支えるという体制だ。
興味深かったのは、kintoneアプリのガバナンスだ。現場による内製化を進めると、当然kintoneアプリの試作は増え、まさにカオスという状態が発生しかねない。普通のエンタープライズ企業であれば、厳格なガバナンスと管理に進みそうだが、日清食品ではある程度のカオスを許容している。この方針に至ったのは、kintoneのコミュニティでの星野リゾートの事例を聞いた成田氏が、「厳格な管理より、ゆるい管理の方が現場の浸透が進みそう」という確信を得たことだ。
もちろん、現場に任せて、kintoneアプリが乱立すると、いわゆる「野良アプリ」が増えてくる。また、似たようなアプリが複数できると、マスターテーブルがいくつも存在してしまうことになる。これに関しては、本番利用するアプリは承認を得るシステムとし、アプリの管理もkintoneで行なうことで解決している。なにより現状は把握できる程度の規模だという。
もう1つ興味深かったのは、自社開発を前提としたパートナーとの付き合い方。同社のkintoneパートナーであるアールスリーインスティテュートは、自社開発のためのサポートや技術提供に徹しており、日清食品グループの開発アカウントすら持っていない。さまざまなkintone SIの実績を持つアールスリーに開発ではなく、伴走型SIを依頼するのはなんとも新鮮な付き合い方と言える。
かといってもちろん楽な仕事内容ではなく、アールスリーとしては日清食品側からのkintoneの問い合わせに対して即答できる体制、スキルの高いエンジニアが求められる。持ち帰っても翌日までのレスポンスという条件だが、だいたいは即日に対応できているという。
逆に日清食品側としては、「いざとなったらプロに聞ける」という安心感が得られるという。「おおむね30分調べて、わからなかったらアールスリーさんに聞くので、なにより時間が削減できる。われわれとしては、できることより、できないことを教えてくれるのがありがたい」と成田氏は語る。課題解決に対するアールスリーの提案も、あくまで内製化を目的にしたプランが中心。しかも、メリットとデメリットとともに複数提示されるところが「しびれるポイント」(成田氏)とのこと。伴走型SIは業務部門の自走を仕掛ける日清食品グループにはうまくフィットしたようだ。
Cybozu Days 2021は2日も幕張メッセで開催される。