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クラウドシフトの「死の谷」を抜けて見えたビジネスとは?

過去最高の売上を達成したサイボウズが2020年に目指す情報共有のプラットフォーム

2020年02月26日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

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 2020年2月25日、サイボウズは2020年の事業説明会を開催。青野慶久社長は、過去最高の売り上げと営業利益を実現した2019年度の実績とグループウェア事業の進捗について説明。2020年も情報共有プラットフォームの実現のためにさまざまな活動を継続する。なお、今回の事業戦略説明会は、東京・日本橋の同社本社で開催されたが、新型コロナウイルスの拡大に伴い、ウェビナーでも動画配信することを決定。ウェビナーから参加した記者からも質問を受け付けた。

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

クラウドビジネスが7割を超え、売上高・利益ともに過去最高を記録

 まず2019年度の連結業績は、売上高が前年比18.7%増の134億1700万円、営業利益は57.0%増の17億3200万円、経常利益は51.0%増の18億400万円、当期純利益は54.9%増の10億1200万円となった。

連結業績の推移

 自社クラウド基盤である「cybozu.com」上で提供するクラウドサービスの売り上げが積み上がったことで増収となった。クラウド関連事業の売上高は前期比28.6%増の95億6000万円。cyobozu.comの契約数は3万6000社を超え、契約ユーザーライセンス数は140万人を突破。クラウドビジネスは、連結売上高の71.3%を占めている。

 サイボウズの青野慶久社長は、「事業の中心をクラウドにシフトして、その実績があがってきた段階にある。だが、おもしろいのは、むしろこれから。グループウェアの本格的普及期が始まった。当社自身も、クラウドシフトによる『死の谷』を抜けて、2019年度は、売上高、利益ともに過去最高となった。サイボウズの経営は、利益を出すことが目的ではない。低価格で多くの人に使ってもらうことを優先したり、必要があれば投資をしていく。2019年度は、人への投資をさらに拡大してきた。グループウェアを活用して、チームワークあふれる社会を創りたい」など述べた。

売上高・営業利益含め過去最高を記録

 2020年度の連結業績見通しは、売上高が前年比12.9~15.2%増となる151億5100万円~154億5100万円、営業利益は23.6%減~22.6%増となる13億2400万円~21億2400万円、経常利益は23.2%減~21.2%増となる13億8600万円~21億8600万円、当期純利益は35.8%減~42.2%増となる6億4000万円~14億4000万円とした。

 業績見通しにレンジを設けている点については、「パートナーの活動が推進されれば、売上高は上限にまでいく。また、クラウドの売上げが想定を上回っている例が続いたり、Garoonではパッケージが想定以上に売れたりといった場合もある。また、サーバーに一気に投資をすることになれば、一時的に利益に影響する。それらを想定している」と語った。

 青野社長は、「実は、2019年度の当初見通しに対しては、着地が大きく離れている。数値を積み上げ、現時点では正しい情報として開示をしているが、環境は大きく変化している。変更があった場合には、速やかに情報を開示していくことで対応していく」と述べた。

kintoneの導入数は1万4000社超え

 2020年度は、1つのプラットフォームで情報共有を実現することを目指して、そのプラットフォームとなりうるサービスの開発、運用、エコシステムづくりを強化する方針を示した。

 青野氏は「情報共有が叫ばれてから10年以上を経過しているが、それができていないと実感している。メールで1対1のやりとりをしているのは、企業内におけるヒソヒソ話と同じ。グループウェアを活用して、オープンな形で情報を共有することで、情報格差がない組織を作ることができる。サイボウズでは、今日入社した人も、私のスケジュールがわかり、誰と会食して、タクシーに何回乗ったのかもわかる。情報共有のプラットフォームとは、なにかということを改めて提案したい」と述べた。

 業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」は、積極的な広告展開を継続。業務改善に役立つクラウドサービスとして認知度を向上させることに成功。導入数は1万4000社以上となり、新規導入は、月間平均400社に達しているという。様々な業種や規模の企業が導入しているのが特徴で、kintone導入の担当者の82%が非IT部門だという。

kintone導入の担当者の8割以上が非IT部門

「kintoneの売上げは前年比1.4倍、契約者数は1.3倍になっている。kintoneパートナーは約400社に増加。連携サービスは約300社から提供されている。また、ユーザー同士がノウハウやアイデアを交換するリアルイベントのkintone hiveでは108社が登壇し、8061人が参加。kintone認定資格取得者は累計で650人。2020年は500人の取得を目指す」(青野氏)。

 また、kintoneの機能強化についても触れ、2020年1月には、計算式にIF関数とAND/OR/NOT関数を追加。モバイルアプリではシングルサインオンの利用を可能としたほか、2月にはレコード一括でテーブルの更新を可能としたり、ROUND関数、ROWNDDOWN関数、ROUNDUP関数の追加を行った。また、3月にはレコード一覧の列幅をアプリ設定に保存する機能を追加し、ルックアップフィールドを関連レコード一覧の表示条件として指定可能にした。「kintoneは、毎月、目を引くようなアップデートができている。これからも進化を続けていく」と語った。

 2019年5月にはモバイル向けアプリのデザインを大幅リニューアル。2019年7月には自治体専用閉域ネットワークLGWANに対応し、官公庁でもkintoneを活用できるようになり、すでに千葉県市川市が導入。教育現場での校務支援ツールとしての導入や、京都府南丹市では児童虐待防止のための地域連携ツールにkintoneを活用するといった事例も生まれている。

伸び続けるサイボウズOffice、Garoonは1万ユーザー規模の導入がスタート

 また、中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」は4年連続で過去最高売上げを更新。現在、6万6000社以上の企業に導入されているという。阪急ウェディングではサイボウズOfficeの導入によりデジタル化を推進。電話処理時間を3分の1に短縮したほか、複数の保育園を経営する社会福祉法人みやびでは、業務の効率化により、保育士の働きやすさと、保育の質の向上を両立したという。

クラウドの利用増加で伸び続けるサイボウズOffice

 中堅・大規模組織向けグループウェア「Garoon」は、パッケージ製品とクラウドサービスを合わせて5400社以上が導入している。「Garoonでは、当初の見通しでは2019年度にはクラウドサービスが半分を超えると想定していたが、パッケージも売れており、逆転するのは2020年度以降に持ち越した」と述べた。阪急阪神ホールディングスでは1万2000ユーザーがGaroonを導入。2020年2月には茨城県に1万ユーザー規模の新規導入が決定している。「茨城県への導入はクラウドサービスでの導入であり、自治体が大規模にクラウドを導入する時代が訪れた」とした。メール共有システム「メールワイズ」は、8800社に導入されており、そのうちの約80%がクラウドで利用されているという。

 そのほかNPO法人、任意団体、非営利型一般社団法人を対象にした「チーム応援ライセンス」は、2018年4月に提供を開始して以来、約2000団体で利用したという。また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国、香港において、サイボウズクラウド製品の無償提供を開始しており、2020年5月末まで提供するという。

国内の拠点活動、信頼性への投資、グローバル展開

 青野氏国内外の拠点活動を強化することも掲げた。仙台オフィスを移転し、サイボウズ初となる路面店を出店したのに加えて、東京オフィスを増床し、セミナールームや導入相談ブースを増設。さらに、オーストラリアおよび台湾での販促活動を強化する一方、国外における事業ノウハウを職能組織で効率よく吸収したり、連携をしたりする組織として、組織戦略室や事業戦略室を新設するという。

 「世界各国にエコシステムを広げるために、これまで各国ごとに展開していたノウハウを一度集約し、グローバルに横展開できるモデルを作る。これをWinning Fomulaと呼び、今後3年をかけて取り組んでいく」とも語った。

Winning Forumura

 一方、信頼性強化への取り組みとして、「cybozu.com」ではセキュリティ向上に対して投資を継続。2019年9月にはISMSクラウドセキュリティ認証を取得した。また、脆弱性報奨金制度では、バグハンターからの報告件数が過去最高となる年間498件となり、製品がより堅牢な状態に改善されていることを示した。

 グローバル展開では、米国における導入社数が350社に拡大。米国内では、AWSのデータセンターからサービス提供することで、現地のユーザーのセキュリティニーズを満たしているという。kintoneは、配車サービス会社の米Lyftにも導入されている。また、中国での導入数は1037社に拡大。東南アジアでの導入社数は前期比40.7%の595社になった。そのほか、タイやインドネシア、シンガポールなどでビジネスが拡大。今後は、新たにインドやマレーシアなどへの販路拡大の乗り出す計画だという。

シリコンバレーの企業にもkintoneの認知度が上がっている

 なお、投資フェーズにある米国事業において、一時的に損失が積み上がったことから関係会社株式評価損として、10億7900万円を特別損失に計上した。同社では、「米国市場は長期的に成長の可能性があると考えており、投資に対する回収見込は十分あると判断している。引き続き米国への投資を行っていく」としている。

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