リアルオンリー開催のCybozu Days 2021基調講演レポート
北國銀行、日清食品が語るkintone、そして「カオス」との付き合い方
2021年11月02日 09時00分更新
銀行の役割はもはや金貸しではない 北國銀行のkintone活用
プロダクトの最新動向を20分間で切り上げた青野氏は、ゲストとして北國銀行の代表取締役頭取である杖村 修司氏を壇上に迎える。
石川県金沢市に本拠地を構える北國銀行は、勘定系システムのフルクラウド化やキャッシュレスなど先進的なDXの導入をいち早く進める地方銀行の風雲児だ(関連記事:金融サービスをアジャイル開発できる内部組織を作る、北國銀行の取り組み)。また、自社のみならず顧客に対しても積極的にDXを提案していく立場でもある。杖村氏は、フルクラウド化に進んだ理由として、「お客さまにもクラウドを提供していくなら、銀行も『同じ船』に乗る必要があります」と説明する。
同社のkintone導入事例としては、まずマネープラザ業務の効率化が挙げられる。これまで住宅ローンを組むためには、多くのハウスメーカーと銀行が個別にやりとりする必要があった。しかし、北國銀行ではkintoneを活用することで、マネープラザの行員が100社400名のハウスメーカーと顧客や進捗情報を共有することが可能になっている。なにより、利用されているアプリもIT部門のサポートの元、行員が自ら作ったもの。「ノーコード、ローコードと言われていますが、昨日までWordやExcelしか使えなかった現場のメンバーがアプリを作っています。われわれにとっても驚き」と杖村氏は語る。
また、地元の中小企業である山中漆器との取り組みでは、北國銀行は工程管理のプロジェクトをkintoneで構築した。同社のICTグループが漆器屋13店舗と職人40名、開発パートナーのプロジェクトを管理し、ツール選定や要件定義、アプリ設計支援まで行なった。ステークホルダーが増えて難易度の上がった自治体とのコラボレーションでは、地域の医療連携まで手がけている。
こうした大胆なDXが実現した背景には、徹底した顧客起点のサービス設計が挙げられる。「20年前の時点で、銀行の仕事はお金を貸すことだけではないことに気づいた。実際、中小企業の3割以上は無借金。だから、最近のお客さまとの会話はほとんどはお金の相談ではなく、システムの相談。基幹システムのリプレースやパッケージの買い換えの話ばかりなんです」と杖村氏は語る。
アジャイル開発のセミナーに600人が応募する地方銀行になるまで
最近注目を浴びる北國銀行のDXだが、ここまでの道のりは長かった。「最初の10年は自分たちのデジタルをやってきたが、自分たちだけではダメなことに気がついた。お客さまといっしょにやらなければ」とのことで、顧客とともにクラウドサービス導入を始めた。しかもIaaS、PaaS、SaaSの全展開だ。「銀行の頭取が最新のITについてここまで話しているのが不思議」と青野氏は驚きを隠さない。
長い期間をかけてデジタルに舵を切って結果、社内のマインドセットはリセットされた。社員のみならず、経営陣も、つねに自身をバージョンアップさせるためにリカレント教育に取り組み、この2~3年で一気にアクセルがかかってきた。「アジャイル開発のセミナーには社員600人が応募してくる。トップダウンと言われがちだが、そういうわけではない。最近は案件がどんどん挙がってきて、経営側の方がむしろ押され気味(笑)」と杖村氏は自嘲気味に語る。
もちろん抵抗もあったが、これに対しては「とにかく対話」と杖村氏は語る。不満はどこにあるのか? なにがいけないのか? 目的はなにか?などを当事者同士で徹底的に話し合う。ここに近道はないという。「抵抗勢力といって切り捨てたら、先に進まない。日本人は自ら信じたものに一生懸命で、ちょっとだけお互いの方向性がずれているだけ。だから、価値感を共有していかなければならない」(杖村氏)。ITリテラシに関しても、全員にアーキテクトレベルを求めているのではなく、キャリアに合わせたスキルを提供している。そして、kintoneとの出会いも、サイボウズとこの先の業界や社会の未来を共有できたから先に進めたという。
今後はさらに抜本的な改革を進める。同行は、今年10月に持ち株会社制に移行しており、来年は北國銀行の社員すべてがホールディングスからの出向となるとのこと。まさにカオスだ。「もはや銀行は機能の1つにすぎない。われわれは新しい企業体に移行する。この形態も5年間ずっと議論してきた」と杖村氏は語る。こうしたカオスな状況に対しても、ひたすら対話を繰り返していくというのは1つの大きなヒントと言えるかもしれない。
そして、「バンキングはデジタル化できるというビル・ゲイツの話は本当だと思っている」と杖村氏が語るとおり、現在同行は銀行のデジタル化に邁進している。勘定系システムのフルクラウド化やMicrosoft Azureをベースにした個人向けのバンキングサービスはすでに展開済みだが、新春には法人向けの新たなバンキングサービスを立ち上げる。「企業の方々も銀行に足を運ばずに100%の処理が実現できる。一方で、行員はより付加価値の高い業務に移行できる」(杖村氏)と語る。とにかく一貫しているのは「顧客中心主義」。顧客の業務プロセスとシステムを理解できる強みを持つ銀行ならではの強みを活かし、今後も人とシステムへの投資を続けていくという。