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アフターコロナの需要回復と“強みづくり”を見据えた航空機組立工場でのAI映像分析による事例

三菱重工、Google Cloud「Vertex AI」で工場の生産性改善に取り組む

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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生産性指標をWebカメラ映像でリアルタイム分析、“匠の技”の可視化も

 もう1つの「WebカメラによるOPEの自動取得」は、生産性指標であるOPEをWebカメラ映像とAIによってリアルタイム分析するという取り組みだ。従来、現場観測者による現場での作業確認や分析が必須だったが、観測者の人員リソースが限られるなかですべての作業、すべての号機(現場)を観測し、分析するのは困難だと松田氏は説明する。

 「そもそも航空機製造の現場は『月産1~2機』と生産数が少ない。したがって現場観測者がすべての作業を観測しようとすると、1カ月間付きっきりで観測しなければならない。(有人による作業の観測と分析は)継続するのが難しい」(松田氏)

 また、分析結果を現場作業の改善に生かすうえでも、有人での現場観測には制約があったと指摘する。「生産性改善にはリアルタイムな情報(分析結果)が価値を持つが、人による分析では、これも継続的に実施するのは困難」(松田氏)。

 こうした課題を解決するべく、江波工場ではWebカメラ映像とAIによる無人化(自動化)の仕組みを構築した。具体的には、Vertex AIに含まれる「AutoML Vision」を活用して作業エリア内の作業員を検知するMLモデルを作成するとともに、「AutoML Video Intelligence: Object Tracking」によって作業者の動きも追跡するという。

 「この写真(以下のスライド参照)のように、映像で作業者の上半身のみ映っていても検知ができ、一方で作業者ではない人物が映り込んでも検知しない。加えて作業者が作業場所を離れ、また戻ってくるといった動きも一貫して追跡できる。これらを使ってOPEを自動取得し、生産性改善を加速させている」(松田氏)

WebカメラによるOPE自動取得の概要。Vertex AIの「AutoML Vision」を使って作業員を検知するMLモデルを作成。「誰が」作業をしているかということまで分析できるという

 さらに松田氏は、熟練作業者の持つ「暗黙知の可視化」にもAIを活用して取り組んでいると紹介した。熟練作業者の作業中映像に骨格分析や音声分析を行った結果、作業音には初心者との間に顕著な違いが見られたという。「われわれ自身も熟練者特有の音(作業音)があると感じてはいたが、Vertex AIによって可視化、つまり形式知化することができたのは大きな成果だ」(松田氏)。

Webカメラ映像から「付加価値を与える作業」が行われているかどうかを分析しているという。また熟練作業者の暗黙知を形式知に変える(可視化する)取り組みも行っている

Google CloudやVertex AIを選んだ理由は「少ないサンプルでも学習可能」

 松田氏は、なぜGoogle Cloud、Vertex AIを採用したのかについても説明した。同社ではおよそ1年ほど前からGoogle Cloudを採用し、取り組みを進めてきたという。

江波工場の生産性改善活動でGoogle Cloud/Vertex AIを採用した理由

 まずは「少ないサンプル数でも高精度なMLモデルが実装できる」点だ。前述のとおり、航空機は自動車など一般的な製品と比べて圧倒的に生産数が少ない(月産1~2機)。そのため、収集できるサンプルデータ(機械学習のための教師データ)も非常に少ない。「この少ないサンプルからでも短期間でモデルを作成できる点がメリットだと考えた」(松田氏)。

 これに加えて、工場に設置したエッジデバイス上でもエクスポートしたMLモデルを利用できる点、「Google Cloud SQL」や「BigQuery」といったGoogle Cloudのサービスとシームレス連携したデータクラウドのソリューションが利用できる点、データ収集から運用までのワークフローを効率化する“MLOps”も実現できる点などを挙げた。

 テクノロジーだけでなく“カルチャー(企業文化)”の側面でも、Google Cloudからの支援を受けたという。Googleが提供する「re:Workプログラム」を通じて、今回の取り組みについてGoogle Cloudとのディスカッション、「CSI:Lab(Creative Skills for Innovation Lab)」でのデザイン思考プロセス実践などを通じて、「Googleの持つイノベーションプロセスを体感した」(松田氏)と語った。このプログラムには、社内から組織横断的に集まったメンバーが参加したという。

 「われわれ自身でも2018年から風土改革に取り組んできたが、これとGoogle Cloudから提供いただける文化面での支援がうまくかみ合った。(Google Cloudと組むことで)『面白いことができるのでは』と思った。この1年間、Googleの『Fail Well(賢く失敗する)』という考え方や心理的安全性、データの民主化など、さまざまなテーマでディスカッションを行った」(松田氏)

 具体的な変化として、たとえばこれまでは「個々人がデータを抱えている」ことが多かったものが、「データはシェアして、皆でより良くしていくもの」というGoogleの考えを取り入れ、Google Workspaceを使った共同作業などもより積極的に行われていると説明した。

 今後の取り組みについて松田氏は、Google CloudやVertex AIを江波工場のデータ分析基盤として活用し、「人」にまつわる作業工程管理や作業動画、教育記録などのデータ、「匠(熟練者)の暗黙知」を形式知化するデータ、「設備」から出てくるカメラやセンサーのデータに対する分析や機械学習を通じて、「生産性改善の“フィードバックループ”」をさらに加速させていきたいと語った。「この取り組みを通じて、日本の製造メーカーの強みである“匠の技”を最大化させていく」(松田氏)。

 さらに、このデータ分析基盤を「Eva Production System(EPS:江波工場プロダクションシステム)」と位置づけ、EPSを主軸に「人とテクノロジーを掛け合わせてパフォーマンスを最大化させることに主眼を置いて活動していきたい」と抱負を述べた。

Google Cloudによるデータ分析基盤を中核に据えた「EPS」を構築していく方針

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