男なのにピンクのマスクではいじめられてしまう
コロナ禍の初期段階に、台湾ではすべての人にマスクの配給を行った。そのとき、ある男の子が、台湾防疫相談センターに電話をかけてきたという。
「同じクラスの男の子全員には、ブルーのマスクが配給されているのに、僕にはピンクのマスクしか配給されなかった」
そして、男の子は、続けてこう言ったという。
「僕は男だから、ピンクのマスクは嫌だ。ピンクのマスクを着けていったら、友だちにいじめられてしまう。学校に行きたくない」
こうした課題が生まれたときに、あなたならどうするだろうか。
代わりにブルーのマスクを届けることにするのか、それとも家にある違うマスクを着用して学校にいってもらうか。しかし、まだマスクの量が逼迫している時期であり、どちらの案も現実的ではない。いじめが起きないように学校に要請をするのも手かもしれない。しかし、トップダウン型の強制は現場の問題解決にはつながりにくいのも事実だ。
速さ、公平さ、楽しさによって解決
台湾デジタル大臣であるオードリー・タン氏は、こんな手を打った。
衛生大臣などが出席する翌日の記者会見で、大臣をはじめとする参加者全員がピンクのマスクを着用。衛生大臣は、「私が子供のとき、ピンクパンサーがヒーローだった」と発言したという。そして、記者会見のあとには、台湾のすべての一流ブランドがソーシャルメディアのアイコンをピンクに変えて連帯感を示したという。
男の子は、翌朝、ピンク色のマスクを着用して登校。ピンク色のマスク着けていた唯一の男子生徒となった彼は、クラスで最もクールな生徒になったという。
タン氏は、「公平性に、楽しさが加わることで、マスクの配給をもっと面白いものにできた事例」としながら、「大切なのは、この対応が24日後ではなく、24時間後であったということだ」とする。
NECがオンラインで開催した「NEC Visionary Week 2021」に、台湾デジタル大臣ソーシャル・イノベーション担当のオードリー・タン氏が登場。NECの遠藤信博取締役会長と、「Well-beingな未来の実現 ~デジタル活用の課題と展望~」と題して対談を行った。
冒頭のエピソードは、「課題発見から解決に向けた道筋」というテーマに話題が及んだときに、タン氏が紹介したものだ。
タン氏は、「アイデアを、社会全体に広げるために3つの柱を築いた。それは、速さ(ファースト)、公平さ(フェア)、楽しさ(ファン)の3つのFである」とし、「速さとは、人々が、すばやく課題の周りに集まり、新しい突然の変化や、新しいバリエーションを示唆できる環境を指す。公正さとは、人や社会が、共通の利益を達成していることを意味し、これによって、価値を増幅していくことができることを指す。楽しさとは、興味のあるハッシュタグやムーブメントに参加したり、リミックスしたりすることで、アイデアが大きくなり、人々が満足できるようになることを意味する。この3つが揃うと、新しいアイデアがどんどん広がっていく」とする。
ピンクのマスクのエピソードも、速さ、公正さ、楽しさによって、アイデアが広がり、課題を解決した事例だといえる。
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