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信頼できる外部パートナーと伴走した東急がkintone事例を振り返る

ダメなDXからの脱却は理想の共有とパートナーとの連携がカギ

2021年08月30日 12時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年8月27日、サイボウズはDXをテーマにしたメディアミートアップの第7弾を開催した。イベントでは、ダメなDX=ダメックスが多発してしまう理由を明らかにするとともに、東急ベルのkintone事例を元に、DXで重要な理想の共有とパートナーとの連携についての知見や体験談を披露した。

やらないと差は広がり、やっても成功が難しい それがDX

 冒頭、「理想なきDXは『ダメックス』?サイボウズが紐解くDXの3大失敗原因と解決法」というタイトルで講演したサイボウズ 事業戦略室 kintone ビジネスプロダクトマネージャー 相馬理人氏は、各調査を元に日本におけるDXの現状について説明する。

サイボウズ 事業戦略室 kintone ビジネスプロダクトマネージャー 相馬理人氏

 情報処理推進機構(IPA)の調査によると、日本でも約20%の企業がDXの取り組みをスタートしているという。中小企業での取り組みも増加しており、デジタルを活用して組織やプロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立しようとしているという。そして、この傾向は新型コロナウイルスという外的要因でさらに加速しており、特に業務効率化に高い優先度が置かれているようになった。

 しかし、電通デジタルの調査によると、成果は出ているかという質問に対しては、一部にとどまるという企業が3割を占める。実に8割がいまだに成果を感じておらず、DXが成功していると言える企業は全体の半数にも満たないという。

 とはいえ、DXの恩恵は大きい。IDC Japanの調査では、DXの実施による売上高の押し上げ効果は製造業で約23兆円、非製造業で約45兆円で、高い経済効果を生み出すという。DXの恩恵は、生産性やコスト削減、利益増加、新製品や新サービスによる売上などあらゆる数値に表れるが、リーダー企業とフォロワーの差も大きい。日本と米国で比べても、企業のDXの取り組み状況は大きく差が出ており、「やらないと差は広がり、やっても成功が難しい」(相馬氏)というのがDXの現状だという。

なぜレンガを積むのか? 理想の共有がDXで重要な理由

 では、DXはなぜ失敗するのか? サイボウズが考えるダメなDX(=「ダメックス」)は、「なぜDXを行なうのかが現場に伝わっておらず、知識やノウハウが不十分な状態にもかかわらず、大きなスコープで取り組みが行なわれ、単発的に終わる」(相馬氏)という特徴がある。そして、このダメックスは、「理想」「継続性」「人」の問題のいずれかで失敗している。どれか1つ欠けても、DXの成功は難しいという。

DXを失敗させてしまう「理想」「継続性」「人」の問題

 まずは理想の共有とは、「なぜDXをやるのか」が共通認識になっていること。会社の戦略やビジョンにDX化が結びついており、現場がそれを理解していることがなにより重要で、これらが共通認識がなっていないと、単にやらされているだけになる。「業務プロセスがなぜ変わったかが現場に伝わらないと、ストレスになり、結局以前のやり方に戻ってしまうことがある」と相馬氏は語る。

 企業のビジョンが現場に伝わっていることの重要さを、相馬氏はイソップ童話を例に説明する。大聖堂を建てるためのレンガ積みをしている職人に対して、「ここでいったいなにをしているのですか?」という質問を投げかけると、目の前のことを単にやらされているだけの職人は「見ればわかるだろ、レンガ積みに決まっている」と答える。この職人は作業が目的や目標にひも付いていないので、不平不満が生じやすく、10年後も同じように文句を言いながらレンガを積んでいると予想される。

企業のビジョンが現場に伝わっているか?で大きく違う

 しかし、個人にひも付いている職人は「家族を養うために、壁を作っている」と答え、業務で果たされることを一定レベルで理解しているという。そして、上位の理想を理解している職人は、「オレたちが歴史に残る偉大な大聖堂を作っているんだ」と答える。こうなると、必要なプロセス変更や業務の変更にもモチベーションをもって対応できるため、10年後は施工管理者に出世することが可能になるという。

 同じことがDXにも言える。現場のメンバーが「単なるデータ入力」とみなすのか、「家族を養うためのに顧客基盤を作っている」と考えるのか、はたまた「自社だから提供できるカスタマーサクセスを作っているのか」で、同じ行動でも将来明確に差が出るという。

 「成功している企業は「理想」を伝えているなと感じる」と語る相馬氏は、kintoneでの事例を紹介する。在庫の適正化とkintone導入により、繁忙期の売上を例年の1.5倍に拡大した京屋染物店は、時間をかけて「なんのために働くのか」を社員全員で話し合って共有した(関連記事:優勝は岩手の京屋染物店!今年もkintone AWARDが熱かった)。また、kintoneで業務のボトルネックを解消したアソビューは、「顧客に全力で向き合える環境を作る」というビジョンを設定した。さらにkintoneを活用した新規事業を立ち上げた矢内石油は、「なんのためにやるのか」「誰を幸せにするのか」に立ち返るという。

理想を共有した京屋染物店

 相馬氏は、本来トライ&エラーを重ねるべきDXが一時的・短期的な対応で終わっている「継続性」の課題について、小さい範囲から成功体験を積めるチャレンジが重要と指摘。ほとんどの人材がユーザー企業の外にいるという「人」の課題に対しては、理想を共有しながら伴走できる外部パートナーとの関係について解説した。

信頼できるパートナーであること 東急とミューチュアルグロースの事例

 イベントの後半は東急ベル事業においてkintone導入を進めた東急 リーテル事業部 東急ベル推進グループ シニアマネージャーの須田良昭氏と、kintone導入のサポートを担当したミューチュアル・グロース セールスプロモーション部 部長の澤田周五郎氏が登壇した。「相互成長」を意味する社名のミューチュアル・グロースは、月額課金型の業務改善支援サービス「Strut!on」でkintoneを採用している。

東急 リーテル事業部 東急ベル推進グループ シニアマネージャーの須田良昭氏、ミューチュアル・グロース セールスプロモーション部 部長 澤田周五郎氏

 東急ベルは、「SALUS」や「東急ネットストア」などのECサイト運営、東急線沿線向けの家事代行、ハウスクリーニング、リフォームなどを手がける「ホーム・コンビニエンスサービス」を展開している。kintoneの導入前、ECサイトのSALUS ONLINE MARKETはExcelをベースとした注文処理となっており、商品情報の登録や更新なども含めて、事務処理の負担が大きな問題となっていた。「Excelが悪いわけではないけど、ファイルが壊れてしまうと困るし、煩雑になっていた。現場からは勘弁してくれと言われた」と須田氏は振り返る。

 同社はミューチュアル・グロースとタッグを組み、受発注と商品登録の仕組みをkintoneで改善した。具体的にはトヨクモのkViewerやFormBridgeなどのプラグインを駆使し、各帳票の出力や取引先とのコミュニケーションを円滑に。また、転記や目視によるダブルチェックをkintoneで自動化し、作業の効率化とミスの低減を実現したという。

 導入効果としては、1日6時間かかっていた作業が4時間になり、作業の負荷や心理的な負荷が大きく低減。空いた時間で販売戦略の時間を確保できるようになった。また、ミューチュアル・グロースとのプロジェクトを通じて、構築や運営ノウハウを得ることができ、新たに生じた要望の対応が自社内で内製化できるようになった。約3倍増になったという売上増にはkintoneによる業務改善が大きく貢献したという。

 須田氏は、ミューチュアル・グロースを選定した理由として「信頼できるパートナーであることがなにより重要。各社のプレゼンを聞いた担当6名は満場一致でミューチュアル・グロースを選んだ。信頼できる関係が構築できると感じたんだと思う」と語る。また、澤田氏は、プロジェクトの進め方について「業務やオペレーションにフォーカスした打ち合わせを重点的にやった。対面式ではなく席をランダムにしたり、資料を説明するようなところはなるべくホワイトボードで多様するようにした」とのこと。

 最後、プロジェクトの感想について須田氏は、「一言、楽しかった。ミューチュアル・グロースのみなさんといっしょにプロジェクトをできて感謝している」とコメント。プロダクトはもちろん、理想を共有できる外部パートナーの選定が重要だと感じられた。

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