5年後、10年後を見据えた業務の自動化を推進すべくAutoジョブ名人にリプレース
丸善のRPA導入成功はチーム戦が鍵だった
千葉の市川市を拠点に物流サービス業を展開する丸善は、増え続ける受注処理をユーザックシステムの「Autoジョブ名人」で自動化している。導入と定着を手がけた5人のメンバーにRPA導入までの苦労や成功の秘訣を聞いてみた。
受注業務を自動化し、人手のカスタマーサービスを充実させる
丸善は化学品向け倉庫を提供する物流サービス企業で、2019年に創業100年を迎えた老舗だ。東京湾に面した千葉県市川市の京葉油槽所は、タンカーからの荷受け、分析やサンプリング、さまざまな荷姿に対応する保管、コンテナからドラムへの充填、ドラムからローリーへの抜缶、出荷までをワンストップで提供する。2016年には大規模な化学品物流倉庫である柏事業所を開設しており、ますますキャパシティを拡げている。
京葉油槽所はオールステンレスのタンクターミナルやドラム缶換算で1万本分の危険物を扱える自動倉庫を備える。高速道路にも隣接しており、物流拠点としてきわめて優秀な立地。また、毒性や可燃性のある化学品を扱うため、さまざまな法令に準拠しているのも大きな特徴。システム管理室 室長 田中康文氏は、「当社と同じレベルで法令を遵守できるスペックの化学品倉庫は近隣にはほとんどありません。ですから、関西にプラントを持つお客さまが、化学品を関東圏に販売するための物流のストックポイントとして弊社の倉庫を利用してくれています」と語る。
同社が抱えるものは、受注するオーダーの量と複雑さという課題だ。新しい物流倉庫ができたことで、従来扱ってきたバルク品に加え、海外から輸入する倉庫品がほぼ3倍に増えた。また、サービスの付加価値を上げるための油槽所の作業がどんどん複雑になり、人手での処理が難しくなった。立地のよい敷地に倉庫を構えているとはいえ、大手メーカーが自前で倉庫を設置することも増えてきたため、より付加価値の高いサービスが必要になる。
そこで同社は、受注処理を可能な限り自動化し、人手によるカスタマーサービスを充実させていくという方針を立てた。経営とシステム部門をつないだ吉川誠一郎氏は、「ロボット化して人を減らすのではなく、空いた時間で人を育て、お客さまに向けたサービスを作っていこうというのがRPA導入の背景です」と語る。
安定度を欠いていたRPAからAutoジョブ名人へ乗り換え
今回のRPA導入チームは、荷主からのオーダーを受注するカスタマーサービス部のメンバーを中心に構成されている。田中氏、青木克之氏、鈴木洋輔氏の3人はシステム管理室を兼務しており、業務改善とシステム導入の両方を手がけている。また、業務改革の旗振り役である吉川氏は経営と現場の間に立って両者を仲立ちし、神田義幸氏は入出金や債権債務の管理、従業員の労務管理、部品の受発注などの業務管理を手がける立場でRPAを推進している。現場、経営、情シスという軸足を持ちつつ、相互が連携してRPAを成功に導いてきたいわばワンチームだ。
プロジェクトを主導した田中氏だったが、実は当初RPAには懐疑的だった。「私と青木はVBAのマクロを書ける人間なので、もともとプログラムによる自動化については肯定的です。ただ、RPAに関してはどうしても高額だし、使いこなせるのかも不安。属人化してしまうリスクも感じていました」と振り返る。しかし、RPAの機能が向上し、社会的に認知され、今や小学校のプログラミングではRPAに近いような開発手法を学んでいるのを見て、RPAを強く推進したいという考えに変わった。
システム管理室の青木氏も当初は田中氏と同じ意見だったが、調べていくうちにRPAに興味が沸いた。「VBAはExcel中心ですが、RPAはいろいろな処理を自動化できます。ルーティンワークは全部RPAに任せられるため、担当がいなくてもその業務が回り、引き継ぎも要らなくなる。そんな期待ができるRPAは魅力的でした」と語る。
こうして2年前に導入したのが国内でもメジャーなRPA製品だ。製品選定の理由は、PC操作ができる程度のスキルで扱える点、そしてオンラインのユーザーフォーラムも充実している点。しかし、実際に運用を始めると、途中で止まることがあったという。「処理が止まると、人がボタンを押しに行っていました。自動化するつもりだったのに、人手がかかってなんだかなあという不満がありました」(青木氏)。
そんな不満を抱えた中、ユーザックシステムのAutoジョブ名人を試用したところ、今まで止まっていた処理が安定して動いたという。ロボットの開発に携わった鈴木洋輔氏は、「最初に導入したRPA製品は、私のようにプログラムを知らない人でも作れるのですが、止まってしまう処理がありました。一方、Autoジョブ名人の場合、動作は安定していました」と語る。
多くのRPA製品では、一連の操作をまとめた部品をつなぎ合わせて自動化を指示するフロー型での開発が一般的だ。これに対してAutoジョブ名人は、操作対象のボタンや画面をタグ単位で指定して、操作を登録していくため、動作は安定している。丸善でも、今までは途中で止まってしまうことを見越して、RPAは昼間しか動かしていなかったが、Autoジョブ名人になってからは夜間も動かせるようになった。
Autoジョブ名人に乗り換えた理由は安定性だけではない。試用期間が長いため、じっくり試すことができる点は大きかった。また、専任のサポート担当がつくという点も魅力的だった。「レスポンスも速いし、RPA以外のこともきちんと答えてくれます。なにより物流業界に強いので、われわれが使う用語も理解してくれました」(鈴木氏)。こうして最初の導入から2年後、同社は利用するRPA製品をAutoジョブ名人に乗り換えた。
「今まで人手でやっていたのが信じられない」という現場のコメント
Autoジョブ名人の適用業務は多岐に渡っている。たとえば管理部の場合、入金の消し込み処理に使っている。オンラインバンキングからデータを取得し、入金されている金額と請求書の金額を突合するという処理だ。神田氏は「多いと一日150件ほどの処理が発生するので、まるまる1日かかってしまう人もいます。これを部下にお願いするのもやはり酷なので、青木からのRPAの提案にいち早くのりました」と語る。
とはいえ、神田氏も操作は初めてだったので、RPAの動作シナリオであるスクリプト作成もそれなりに苦労した。どうやったらファイルを開くのか、どこに置けば処理対象になるのか、Excelの特定のセルにどうやって値を入れればよいのか、イレギュラー処理をどのように扱えばよいのかなどを調べて試行錯誤したが、自己解決できない部分は専任サポートに聞くことで解決したという。
一方、鈴木氏は基幹システムから入手した在庫表の更新など現場の時短につながるスクリプトから手をつけた。そして周りのメンバーから「超大作」と呼ばれたスクリプトは、入荷した商品の写真を荷主ごとに分ける作業の自動化だ。「1日100枚くらい撮影して、90近い荷主のフォルダに振り分けます。やらなくても大きな影響は出ないが、やらないと写真がどんどん溜まってしまう。現場のメンバーが事務所に戻ってやっていたので、これはなんとか楽にしたいなと」(鈴木氏)ということで、以前のRPAから含めて、地道に改良を加え、年単位で作り上げたものだ。
現場ではさまざまな導入効果が得られている。神田氏は、「うちの部署は単純だけど、工数の多い業務ばかり。昨年、入社したメンバーからは、『こんな仕事を人手でやっていたなんて信じられない』『RPAはなくさないでほしい』と言われています」と語る。また、業務が自動化されたのを見て、興味を持つ社員も出てきており、「この業務を自動化できませんか?」という相談も持ちかけられるようになっている。
RPAでは、お約束とも言える「月●●時間の削減」という導入効果は丸善にはまだない。そのため、経営陣に向けては、とにかく長い目で効果を見てもらうよう働きかけているという。「経営者は概して短期的な導入効果を求めがち。ですから、弊社は経営のメンバーには、『やり続けていれば5年後はもっとよくなっています』と言い続けています」と吉川氏は語る。
5年後、10年後 RPAをやっていてよかったと実感するために
田中氏は、RPAプロジェクトを振り返り、「ここまで成功するとは思わなかった」と語る。というのも、過去に顧客管理や棚管理、営業支援などさまざまなIT製品を導入し、使われずに風化してしまったという経験がいくつもあったからだ。「プロパーで20年働いてきたので、使われずにゴミとして捨てられたシステムはいっぱい見てきました。だから、やりたいメンバーがやらないとダメだと思っていました」(田中氏)。
今回のRPAに関しても、導入当初から社内勉強会をやっていたが、結局参加者は減ってしまったという。しかし、やりたいメンバーだけで地道にRPAの活動を続け、結果としてその活動は効を奏した。まずビジョンをしっかり作り、組織の枠組みを超えて、やりたいメンバーがチャレンジできたからだと田中氏は分析する。「とにかくみんなに試してもらい、スキルアップする流れがよかった」と振り返る。
鈴木氏は、「RPAを使って、省ける仕事はとにかく省き、人しかできないお客さまとの話に時間を割きたい。5年後、10年後、人手不足で働くメンバーが少なくなったときに、自分で業務を自動化できるRPAをやっておいてよかったなと実感するために」と先を見通す。今後も焦らず社内での適用範囲を拡げつつ、同業や業界のプレイヤーにも知見を共有していきたいという。