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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第85回

モジュール交換式のハイレゾDAP、Astell&Kernの「SE180」を聴く

2021年07月26日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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操作性や音質について

 サイズはSE200より少し厚くなったが重さはほぼ同じだ。SP1000と大きさはほぼ同じだが重さは100gほど軽量だ。外観は現代オブジェのような独特な形と優れた質感を継承している。傾きのある独特のデザインによって、真四角よりも手にフィットしやすい。そして左手の中指が自然にかかるところに「マルチファンクションボタン」が新設された。従来は3つの物理ボタンで再生をコントロールしていたが、マルチファンクションボタンではひとつの物理ボタンのクリック回数で再生やスキッブ操作が可能となっている。

 交換モジュールは左右のロック解除用のボタンを押しながらモジュールを引き抜くことで取り外せる。抜き差しすると、カチッと確実な音がして精度の高さを感じる。モジュールはシールドされているので、引き抜いた後にあまり気を使わなくても良い点も使いやすい。

 試聴は主に「Acoustune HS1697TI」を使用した。HS1697TIはシングルドライバーながら高域から低域までとてもワイドレンジ感があり、細かな音のニュアンスや立体感が再現できるためハイエンドDAPとの相性が良いイヤフォンだ。交換モジュールのSEM1とSEM2はほぼ同じくらいの時間のエージングしてから比較した。

 SEM1の音質は、本格的なオーディオの音という印象で、力強さと繊細さが両立している。音質レベルは極めて高い。興味深いのは同じDACチップを採用しているSE100のような「シャープだが乾いた感触」が少ない点だ。感覚的に書くと、SE200のESS側の音質レベルを高くしたように思える。ESSらしいシャープさを備えながらオーディオらしい豊かな音を聞かせてくれるという感じだ。

 SEM2よりもパワフルで音のメリハリがある印象で明瞭感が高い。SEM1の方が音に勢いがあって、ロックがハードロックらしく楽しめる。ハイエンドのシングルダイナミックイヤホンに向いた音だと感じた。

 SEM2はSE200のAKM側と割と似た音調。明るめで開放感がある。磨いたようにクリアで鮮明な音だ。ただしSE180においては空間がより広く、深い余裕を感じる音だ。また、音の滑らかさも特徴だ。良録音のクラシック楽曲で弦楽器のボウイングの滑らかさが素晴らしく、いままでポータブルオーディオではあまり聞いたことがないくらいのレベルだ。両モジュールともノイズ感がとても少ない音だが、SEM1の場合は音のエッジの立った明瞭感の高さ、SEM2の場合は楽器音の響きの滑らかさにそれが現れている感じがする。

 SEM2はSEM1に比べて全体に大人しめだ。ポップスやアニソンなどのきつい録音ではSEM2の方がホーカルが聴き取りやすい。ハイエンドのマルチBAイヤホンに向いた音だと感じた。両方のモジュールで音の個性はだいぶ違うので、「SEM2」モジュールを買い足す意味は十分にあると思う。

 SE200ではAKM側とESS側の傾向の差が大きかった。AKM側はより高音質だがシャープすぎ、ESS側は聴きやすいが物足りないという面もあった。また、内蔵モジュールはハイエンドDACチップとモバイルDACチップの組み合わせだった。SE200は曲によってAKM側とESS側を変えられ、一筐体2DACのコンセプトは意味があったと思う。つまり、AKM側とESS側は補完し合う関係で、二つ合わせて一つに完成していたと言える。

 SE180でも音の個性差はあるが、音質レベルは同じくらいで、どちらを選んでも満足いく再生ができると思う。つまりそれぞれが完成していると言える。そう頻繁に差し替える必要はないので、しばらくSEM1で聴きこんで、SEM2の別な面を楽しんでみようという聴き方が推奨されると思う(もちろんペアで持ち運び、曲ごとに変えることもできるが)。

 なお、SEM1/SEM2のどちらも3.5mmアンバランスでも十分完成された音だが、バランスのほうがより力強さが増して明瞭感も良くなる。2.5mmと4.4mmではバランスとアンバランスのような違いはないが、2.5mmよりも4.4mmのほうが少し太めの音になり、高音域の鮮明度も増すので、いろいろと変えて試すのも面白いかもしれない。そうした意味でもさまざまな音質変化を楽しめるDAPだと言える。

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