世界初のオープンソースの自動運転OSソフトを開発し、各分野の優秀な企業と手を組む水平分業化で、グーグルなど世界の名だたる競合相手に戦いを挑む「ティアフォー」。自動車業界のLinuxを狙う新進企業は、持てる技術を活かして「AI教習所」を設立。目指す未来には満員電車も交通事故もなくなるのか。その直下であり、都市観光バスとのタッグで「XR」メタ観光サービスを提供する「シナスタジア」が考える、未来の移動時間の変化とは?
大阪・関西万博やスマートシティがこぞって導入を望む自動運転システム。それが創り出す近未来の交通網、変わっていく人々の日常とは? 若き気鋭2人に元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。
世界初!オープンソース戦略による
ティアフォー「自動運転の民主化」とは?
――両社の成り立ちを教えてください。まずは岡井谷さん、ティアフォーが誕生したきっかけは?
岡井谷:「もともと創業者の加藤真平が、名古屋大で自動運転OSソフト『Autoware※』を開発しており、運転席無人での自動運転を公道で初めて実施もしていたんです。米国グーグルのウェイモ(Waymo)、中国のバイドゥ(Baidu)など、海外には先行する企業が当時も既にありましたが、オープンソース戦略を採れば世界中のグローバルプレイヤーと水平分業することで、まだ勝機があるかもしれない。加藤がそう思い立ち、2015年12月にティアフォーを創業しました」
※「Autoware」は「The Autoware Foundation」の登録商標
――ティアフォーという社名の由来は?
岡井谷:「よく聞かれるのですが、自動車業界の典型的なピラミッド構造からきています。OEM(相手先商標による生産)を頂点に置いて、ティア1、ティア2、ティア3と、トヨタや日産などそれぞれのピラミッドがあり、その階層構造のどこにも属さない4番目の存在という意味でのティアフォー、ピラミッドのどのレイヤーとも協業するというイメージです。英語表記ではTier IV。「IV」がローマ数字でI=アイとV=ブイの組み合わせで、インテリジェント・ビークル(Intelligent Vehicle)という自動運転車両の頭文字との掛け合わせにもなっています」
――会社案内などで「自動運転の民主化によって社会全体に利益をもたらす、安全でインテリジェントな自動運転の技術を開発」と謳っていますが、「自動運転の民主化」がつまり「Autoware」というオープンソースの普及につながっているわけですね
岡井谷:「おっしゃる通りです。世界で初めてオープンソース戦略を採ったのはティアフォーですが、後続でバイドゥ、違う技術ですけれどもコンマ・エーアイ(Comma.ai)など、いろいろと出てきています。ティアフォーは子会社を含めてもおよそ300人の小さな会社です。ウェイモやバイドゥの企業規模とレベルが違う。そこに対抗するためには、自動運転技術を開放し、自動運転車両を構築する多様な企業とそれぞれの得意分野を持ち寄っていいものを作っていこうと。
ウェイモは自動運転に必要なセンサーなどを自前で開発、搭載するという自前主義を貫いていますが、我々は違います。例えば、ライダー(LiDAR)センサーであれば自社単独での開発はせずLiDAR技術が優れた企業と手を組むなど、水平分業体制を構築していくという流れですね」
――グーグルやアップルのように1社が囲い込みをしない戦い方ですね。MicrosoftがLinuxをWindowsOSの基盤にしているような
岡井谷:「そうですね。WindowsがLinuxを採用したのと同じ路線を辿っていくことが狙いになっています。グーグルやバイドゥに比べれば、我々は後発でまだまだ後ろを走っている状況ですけれども、オープンソースの力が徐々に追い付いていくのは間違いないでしょう。今後、恐らく競合との技術的な差異はほとんどなくなってくる。そこで力を発揮する体制が、オープンソースによる水平分業じゃないかと思っています」
シナスタジア=共感覚を視覚化する「知覚革命」
――シナスタジアはティアフォーの子会社ということですが、有年さんから起業の経緯を
有年:「僕が東京大の大学院で自動運転の研究をしていた時、入っていたのがティアフォー創業者・加藤真平の研究室だったんです。もともと高校生の頃から起業のタイミングをずっと窺っていましたが、ビジネスを何も知らない一介の学生が無策に起業したところで、激しい戦いのなかで生き残っていくのは難しい。まずはビジネス界で生き残るために、非常に優秀な人たちの下で学びながら経営能力を身に付けたい、と考えていました。
そこで、ティアフォー創業メンバーの方たちと出会って起業するなら今だ、と。ティアフォーの事業内容も、僕が起業しようと思っていた事業ドメインと非常に近しい部分もあったので、大学院の同期で起業家志向があるメンバーと一緒にシナスタジアを立ち上げました」
――最初に立ち上げた時の仲間は何人?
「僕を含めて3人です」
――シナスタジアのメインテーマとは?
「『知覚革命で人々を幸せにする』をミッションとして掲げています。インターネットの普及によって『知』というもの自体は、どんな場所においても瞬時に共有することが可能になりました。ただ、その知覚体験、五感による体験は、まだ十分にデジタル化されていません。例えば、地球の裏側にあるブラジルの街の空気感、触覚や匂いといったものです。そういった知覚体験が平等に、地球上のどんな場所、どんな立場にいる人でも体験できるということが実現できていない。それを実現していくのが『知覚革命』です。いま開発している『車×XR技術』の事業も、その第一歩としての位置付けです」
――シナスタジアという社名の由来を
有年:「シナスタジア(Synesthesia)は"共感覚″という意味です。例えば文字を読んでいる時に、その文字に色がついて見えるとか、音楽に対して赤や黄色など色彩を感じるといった、2つの異なる五感が同時に感じられる感覚を持っている人のことを"共感覚者″と言います。文字に色がついて見える方は10人に1人いると言われています。この共感覚=シナスタジアを社名に掲げている理由としては、先ほどの知覚革命と通じる部分があります。
今後、それこそAR体験とか、最近出てきたバーチャル触覚技術、バーチャル味覚技術といったものが発達してくると、その場所において五感で感じ取ることのできなかったもうひとつのメタな情報、バーチャルな情報を、そこに存在しているかのように感じることができるようになります。例えば『ポケモン GO』のポケモンが、現実の場所にいると手放しに実感できる人はまだ少ないと思いますが、AR技術がさらに発達してくると、現実とバーチャルの境目が分からないくらいに、臨場感や存在感が高まります。今までの感覚とまた別の知覚、2つの知覚体験を同時に感じられるようになることが、まさに共感覚的な体験の実現になるんじゃないか。そこからシナスタジアという名前を付けたんです」
――“知覚革命”は、“共感覚”のようにメタ情報を可視化するということですね。現実に見えているものだけじゃなくて、多層レイヤーがあり、いろんな意味が重なっているという
聞き手の玉置と有年氏とは以前、玉置が東京大でメタ観光についての講義を行なった際に出会っている。
有年:「玉置さんの講義を拝聴しに行ったのですが、実は自分がまったく知らない講義だったんです。ツイッターでたまたま講義についての記事を見かけて、そのタイトルがもう、まさにシナスタジアが目指す未来とかなり近かった。ほとんど同じことを考えていらっしゃる方がいたのに感動して、いきなり初めましての講義に1人で乗り込み、一番前の席で聴いていました」
――あの時、非常にコミットして頂き僕も自信が湧きました。今度はインタビューされる側になりましたね
有年:「はい、ありがとうございます」
「AI教習所」が教官不足と高齢者の免許返納問題に貢献
――ティアフォーが現在行なっている事業の内容を教えてください
岡井谷:「先ほど説明した社名の通り、ティアフォーではどのレイヤーの方ともお付き合いして事業を行なっています。ピラミッドの頂点のOEMと実際に自動運転車両の開発、自動運転ソフトの開発実装プロジェクト。さらにティア1、ティア2、ティア3あるいは大学などと自動運転用のセンサーを共同で研究し、評価を行なう。
またバスや電車など公共交通機関を運営されている交通事業者の方々と、自動運転を社会にどう実装していくかということを、PoC(概念実証)の段階ですが徐々に始めようとしているところです」
――ティア1のOEMの企業、つまり自動車メーカーとも一緒に行なっている? 海外との連携は?
岡井谷:「そうですね。自動車メーカーさんと協業させて頂いているプロジェクトがいくつかあり、海外の自動車メーカーさんとのコミュニケーションも進めています」
――自動運転の実証実績はどれくらい積んでいる?
岡井谷:「ティアフォーでは、これまで18都道府県の約50市区町村において、約70回PoC(実証実験)を実施しています。これは国内トップクラスの実績です。海外でもアジア・アメリカを中⼼にプレゼンスを拡⼤しており、アメリカでは既に⽶国運輸省に属する連邦道路庁が推進する交通システム"CARMA"で、Autowareが⾃動運転プラットフォームとして採⽤されることが決定しており、現在、実際の⾞両を⽤いた⾛⾏実験を実施中です」
――自動運転を基盤にした新事業は?
岡井谷:「今年の5月12日に、福岡で南福岡自動車学校を運営するミナミホールディングスと弊社で、合弁会社『AI教習所株式会社』を設立しました。名前の通り、AIおよび自動運転の技術を用いて、教習生の評価・教習をサポートするシステムを販売する会社です。
今、日本で新たに免許を取得するドライバーの数は、意外にも前年比およそ数%減程度で漸減の状況が続くなか、2033年には指導員や教官の数は教習生に対しておよそ35%減と人手不足が深刻化する見通しです。そこで、自動運転など弊社のさまざまな技術を活用し、ドライバーの顔や眼の動き・位置を見て巻き込み確認等をしているかチェックし、また走行軌跡計測等を通じ、一定の基準に基づいた運転技術が採点できるようになっております。
――『AI教習所』は日本初の取り組みかと思いますが、運用はいつから?
岡井谷:「海外では同様のサービスが既に存在しますが、日本では初ですね。正式な運用はトライアル期間を終える2021年9月が目処。いろいろな自動車学校に導入していく予定です」
――昨今、高齢者の交通事故が社会問題になり、運転技術チェックの頻度を上げるべきと叫ばれていますが、「AI教習所」などティアフォーの技術が利用される予定は?
岡井谷:「2022年6月から施行される高齢者技能検査(75歳以上で事故歴のある人は技能検査必須)が始まりますので、そこに向けて上述システムの開発を継続しており、技能検査前の練習として使って頂き、ご自身の弱点を把握・克服できるようにしていきたいと思っております」
――AIの採点結果が運転技術・能力の現実を突き付けるのでは?
岡井谷:「教習と同様の項目で精度の高い評価ができるようになっており、具体的な運転技術改善の指標に使って頂ければと思っております」
XRライドでメタ観光!横浜オープンバスでローンチ
――有年さん、シナスタジアの事業について教えてください
有年:「メイン事業はXRライドです。2020年12月に『IKEBUS』という、豊島区が運行する小型電気バスの期間限定旅行商品として、XRバスツアーを販売した実績があります。年内には京急電鉄の2階建てオープントップバス「KEIKYU OPEN TOP BUS横浜」で、バスの車上で弊社のシステムを搭載し、ゴーグルをかぶって体験するXRバスツアーを販売する予定です」
――今年3月に僕が乗せてもらった、みなとみらいのバスは実験段階だった?
有年:「そうですね。その延長線上で販売を行なっていきますが、デモンストレーション時点から、さらにいろいろな調整をかけて運営方法や内容を改善していきます」
――観光庁の案件ですね
有年:「はい。それが今回の観光庁の案件につながっていて、今年3月のデモンストレーションは、神奈川県の補助事業の一環で行なっていたのですが、4月からは観光庁の事業補助枠内の企画で、実際には今年11月から販売していく予定です。XRコンテンツにアニメや、ゲームのコンテンツ制作、広告宣伝といった部分でKADOKAWAさんのご協力も得て今回、横浜でサービスをローンチします」
――補助対象に選ばれたのは、どこが評価されたから?
有年:「観光庁に評価されたのは、乗り物で実際にXR体験ができる技術は他に類を見ない、という点でした。またコロナ収束後にはインバウンド観光客の増加も予想され、日本ならではの目新しい観光サービスを提供していくことで、インバウンドの引き込みにつなげていく。コロナ禍で国内の観光需要が落ち込むなかで、革新的な商品を観光地と一体となって開発していくことで、内需の再盛り上げにも期待している、と。
本当に先進的な自動運転技術や、最先端のVR、XR技術も活用していて、技術的にしっかりとしたバックボーンがある事業ですので、そういったところを評価頂いたと伺っています」
——実際にバスでゴーグルを着けてXRを体験した時、いわゆる「VR酔い」がなかった。横浜の景色が流れながら、そこにキャラクターが登場するというメタ情報が重なり、ストーリーが展開されるのに酔わないのが驚異的でした
有年:「実現できている会社は、今のところ存在しないと思いますね。2017年=VR元年に旅行代理店などが、実証実験ベースで乗り物とVRを組み合わせた取り組みを行なったんですが、結局どれも酔ってしまうことを解決できずに終了した例をいくつか聞いております。弊社調べですが、このオープントップバスのトライアルでは、これまで実際販売したお客様含めて500名以上の体験者にアンケートを取ったところ、VR酔いした人はおよそ4%ぐらい。つまりほとんど酔わないという結果でした。論文の結果では普通に車に乗るだけでも、およそ10%ぐらいの方は車酔いするので、車より酔いにくいようです。
なぜかというと、かなり没入感があり楽しんでいるうちに、気付けば目的地に着いてしまうからなんです。実際に乗り物酔いがひどくて、乗るだけですぐ酔ってしまう方々にも被験者としてVRゴーグルをかぶらせたら、いつもより酔わなかったという結果も。弊社の技術だからこそ実現できているということですね」
——実際に外の景色が見えながら、そこにファンタジーや観光情報が載ってくるのを見られるのはすごく面白いですよね
有年:ありがとうございます。現実に今まで見られなかった歴史・文化・自然遺産などの情報、またアニメ・映画・ドラマの情報を重ね合わせることで、今までにない観光タイプにできることには、非常にご期待も頂いています」
MaaS、スマートシティや大阪万博への活用の展望は?
―-都市交通システムをスマート一元化するMaaS(Mobility as a Service)やスマートシティ、また2025年の大阪・関西万博で、自動運転やXRへの関心も高まっていますが、国全体や都市に関わるティアフォーの展望は?
岡井谷:「我々も万博に向けて準備は始めていまして、交通事業者さんと一緒に何かできないかと話しています。2025年の万博で、会場内だけでなく、会場と主要ターミナルを繋ぐ公道での自動運転による次世代モビリティの実装も披露するべく企画検討しているところです」
――スマートシティやMaaSから引き合いが多いと思いますが、実感はどうですか?
岡井谷:「最近は、そういった引き合いが増えてきている印象です。日本国内でも、既存の都市を造り変えるブラウンフィールド、ゼロから未来都市を創るグリーンフィールド、それぞれで多様なスマートシティへのアプローチ方法がありますが、その両方からインフラとして自動運転導入の検討をしたいという引き合いを頂くこともあります。国内だけでなく海外からのお問い合わせも徐々に増えています」
――自動運転を組み込んだ未来都市のイメージはありますか。 車が自由自在に動いている現在と自動運転を組み入れた街は表情が違うのでは?
岡井谷:「イメージ像が何年後かにもよりますが、人間が運転する車両と自動運転車両が混在する過渡期を越え、ほとんどが自動運転車両になった世界には、非常に秩序ある交通があるというイメージはありますね。
渋滞や交通事故のない世界。交通事故のほとんどはヒューマンエラーによると言われているので、交通事故で怪我をされたり亡くなられる方も激減していると思います」
――有年さん、シナスタジアの展望はどうですか?
有年:「弊社はまだ小さい会社で、具体的に万博やスマートシティで何か事業展開を行なう予定は今のところないですが、この先どういった都市空間が形成されていくか、弊社の参入も考えると、ひとつにはシナスタジアが思い描く未来の移動体験というものがあります。仕事のための移動は、今後VR技術やリモート遠隔技術でどんどん減っていく。移動自体を楽しむ旅行、エンターテインメントを目的にした移動が今後増えていくだろうと考えています。その中で乗り物が、走る映画館、走るプラネタリウムのような役割を果たして、今まで映画館でしか体験できなかったことが、そのまま乗り物での移動中でもできるようになり、その街の魅力をも再発見するところまでつなげていけるようにしたいですね」
――いわゆるエンタメの要素もあるんですね。そもそも有年さんが自動運転を研究し始めたのは、学生時代の超満員電車に嫌気が差して、満員電車を撲滅したいと考えたのがきっかけだったとか
有年:「中高一貫校で電車通学していたのですが、身長が低いこともあり、田園都市線の超満員電車の中で、本当に埋もれてしまって何もできない。たまに女性の『骨が折れる』という悲鳴が本当に聞こえてくる。そんな壮絶な電車で通学していて、何でみんなこんな苦しい思いをして、貴重な24時間のうち、2~3時間もこんな空間にすし詰めにならなきゃいけないんだろうと。
では、何でタクシーに乗らないかといえば料金が高いから。タクシーが無料になれば、みんなこの電車に乗らないだろう、ドライバーなしで車が勝手に走っていれば、もっとタクシー料金も安くなるだろうと。結局、満員電車を撲滅させるには、自動運転を研究して自動運転車が当たり前の世界を作らなきゃいけないと考えていました」
――「満員電車ゼロ」は小池百合子都知事の公約にもありましたね
有年:「結局ゼロにはなりませんでしたけど(笑)。自動運転を研究するきっかけは満員電車をゼロにしたいことでしたが、大学院で自動運転のコア技術を研究していた時に、たまたまティアフォーという会社に出会って。その成長速度を見ていたら、自動運転の時代は僕が想像していたよりも、遥かに早く到来してくると悟りました。だったら、さらにその先の移動自体が楽しくなるような体験を提供していきたいと思い、シナスタジアを立ち上げたのです」
――移動の概念を変えるということですよね。満員電車はコロナ禍で避けるべき、できるだけテレワークや時間差通勤が求められましたが、コロナ禍はもう1年半以上続いています。岡井谷さんの会社への影響はありましたか?
岡井谷:「いろいろな側面から影響は多少なりとも受けています。ビジネス面では、業界的に自動運転を含む先進分野での研究開発予算が一部削減される傾向もあり、一時的に商談が停滞することなどもありました。
社内のエンジニアに関しては、リモートが好きな人と、オフィスに出社して開発する方が効率がよいという人がいて、テレワーク推進によって生じるメリット・デメリットを感じることがありましたね。現在は、再度の緊急事態宣言により出社制限を設けておりますが、ウィズコロナで、より高効率な働き方を目指して動き始めています」
――自動運転を使えば都市インフラやコントロールの効率が上がる側面もありつつ、感染症対策などコロナ禍に対する都市の対応力を補強する面もありそう
岡井谷:「コロナ禍で求められる非接触の部分を、自動運転で後押しできると思っています。ただ、まだ公共交通のインフラとしては導入ができない状況なので、その実装段階に入れば、このコロナや感染症に対する有効な予防策のひとつとして、お役に立てる技術になるのかなと思います」
――例えば換気。あるいは混雑度の調整も従来の交通インフラよりは、やはり自動運転の方がいいよう
岡井谷:「管制塔のようなところで交通状況情報を把握して、適材適所に配車。ピークタイムとオフピークで自動運転車両の数を調整したりはできると思います。そういった工夫をすれば、さっきの満員電車の話じゃないですが、人がより不快感を感じずに適切な空間で移動しやすくなってくるはずです」
――コロナで本当に世界は大きく変わった。ティアフォーの持つ技術の意味もさらに高まったのでは
岡井谷:「コロナ禍において、人と人との接触を避けるという意味合いで、自動運転を求める社会の機運が高まっている部分は多少なりともあると思います」
コンテンツ企業とのエンタメ・コラボにも関心
――弊社のようなコンテンツ企業、いろんなエンターテイメント事業を行なう会社とコラボするアイディアは?
岡井谷:「自動運転技術とソフトウェアが我々の強みではあるのですが、自動運転車両が走る未来においては、やはり余暇時間の充実が、より高く評価されてくると思います。余暇の楽しみ方は人それぞれですし、既にNetflixやHuluなど、場所を問わず楽しめるコンテンツプラットフォームは存在しますが、より豊かな表現ができるようなものならもっと面白いですよね。それがシナスタジアの提供するプラットフォームで、その上に例えばKADOKAWAさんの面白いコンテンツが載ってきて、どこにいても楽しめる、さらにそのルートや移動方法によって、コンテンツの内容が分岐したりすれば、何回でもリピートできます」
有年:「今、岡井谷さんがおっしゃったことには全面的に賛同します。自動運転車はまだ普及していないけれど、非常に注目度が高いもの。取り組みとしては、自動運転車をKADOKAWAさん運営のさくらタウンなどで、1台走らせることで認知度を上げる。さらに自動運転車が走るだけではなく、KADOKAWAさんのIPを活用して、その乗り物の中で新しい体験をする形で未来移動体験、余暇体験を見せることができたらいいですね」
コロナ禍の影響で、リモートワークも普及。仕事のための移動が減る一方で、移動時間は余暇時間に充てられるようになってきた。そのなかで体験できるXR余暇体験は存在感を増し、自動運転とXRを実装した車が新たな動くメディアとして、人々の日常をより豊かなものにしていくのだろう。
自動運転やAI教習所、XR技術の進化により、ヒューマンエラーによる事故や殺人的な満員電車がなくなり、移動時間をも楽しめる新しい交通の時代。その到来は決して遠くないはずだ。
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