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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第620回

イスラエル軍のハイテクを応用したHailo-8 AIプロセッサーの昨今

2021年06月21日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 1ヵ月ぶりのAIプロセッサーだ。連載613回における性能評価基準でIPS/Wを主張した片割れのexpederaは連載614回で解説したので、もう片方のHailo Technologiesを今回は紹介したい。

 ちなみに単に“Hailo”と書くと、ドイツで1947年に創業したアルミ製品の総合メーカーであるHailoを指し示す方が普通なので、本記事ではHailo Techと表記することにする。

Hailo TechのAIプロセッサー「Hailo-8」

イスラエル国防軍の先端技術を元に起業
謎のベンチャー企業がAIプロセッサーを完成させる

 Hailo Techは2017年にイスラエルで創業した企業である。イスラエルのベンチャー、というとしばしばIDF(Israel Defense Forces:イスラエル国防軍)出身で、しかもUnit 8200(8200部隊:諜報部隊)やUnit 9900(9900部隊:軍事情報部隊)所属だったりすることが多い。

 もちろん徴兵制を敷いている(厳密に言えば兵役義務があるのはユダヤ教徒と一部のイスラム教徒だけで、全国民に対してあるわけではない)から、ある意味イスラエル人はほとんどがIDF出身ではあるのだが、徴兵期間は2~3年なのに対し、Hailo Techの現CEOであるOrr Danon氏は10年をIDF Technological Unitで過ごしており、しかもキャリアを見ると最初はハードウェア部門のエンジニアから始まり、最後にはプロジェクトリーダーまで達している。

 国防軍であるからいわゆる戦闘訓練なども当然あるのだが、その一方で昨今の軍隊はハイテク技術の塊でもあり、しかも独自のシステムを開発・構築して運用までする必要があるため、その意味では先端技術開発にどっぷり、という状況が続いていたのだろうとは容易に想像がつく。そんなわけでUnit 8200やUnit 9900出身ではなさそうだが、やはりIDFの先端技術にたっぷり触れた後で退役したDanon氏らが興したのがHailo Techというわけだ。

 創業メンバーはDanon氏(当時の肩書はVP R&D)のほか、Hadar Zeitlin氏(Chief Business Officer)とAvi Baum氏(CTO)の3人。またDanon氏は2016年9月からHailo Techに参加しているのに、Zeitlin氏とBaum氏は2017年2月の参加、そして2017年9月からDanon氏がCEOに昇格しているあたりは、当初はベンチャーキャピタル側からCEOを派遣してとりあえず法的な意味での会社組織を作り(ただこの時点でメンバーは下手をするとDanon氏だけだったかもしれない)、その後メンバーが集まって会社の体を成しそうという目途が立ったあたりでCEOがDanon氏に交代したという感じではないかと思われる。

 さてそのHailo Tech、しばらくはステルスモードでの進行となっていた。一応2018年にはウェブサイトもできているが、細かい話は一切なし。ただ2018年6月にはManiv Mobility、OurCrowdとNextGearというベンチャーキャピタルから、高精度なセンサーデータをリアルタイムで処理するチップの開発のために、総額で1250万ドルのシリーズA(資本投下した場合に利益が見込める状態)の投資を受け、その後2019年1月にはGlory Venturesを始めとする中国系のベンチャーキャピタルから、エッジAI向けチップの開発資金として総額2100万ドルの、やはりシリーズAの投資を受けている。

 そして2020年3月には、総額6000万ドルのシリーズB(ビジネスモデルが固まりシリーズAよりも事業計画の数値のブレが少ない状態)の投資を受けている。この投資は既存のベンチャーキャピタル以外にロンドンのLatitude VentureやスイスのABBの投資部門であるATV(ABB Technology Ventures)、さらにはNECの名前も入っていたりする。ここまでの合計で9350万ドルであるが、ほかにそもそもHailo Techを立ち上げた際の創業資金などもあるはずで、おそらく投資総額は1億ドル前後に達しているものと思われる。

 さてそのHailo Tech、昨年まではちらちら名前を聞きつつもその正体がはっきりしなかった。筆者が知る限り、最初に発表があったのはEmbedded Vision 2019におけるデモ展示である。

 Hailo Techはこの時点ですでに最初のHailo-8というチップを完成させており、そのチップを使って自動車のカメラから取り込んだ映像のセグメンテーション(領域分類)デモを実施していた。説明によれば、フルHDの映像をPCからギガビットイーサネットで取り込み、その映像をResNet-18およびFCN-16という2つのネットワークにかけてセグメンテーションするというもので、処理速度は21fps、消費電力は1.2Wで、処理効率は2.6TOPS/Wに達している。

 説明によれば、処理性能はギガビットイーサネットがボトルネックになっているためで、これをもっと高速なネットワークに変えるか、直接Hailo-8にカメラI/Fを接続することでさらに性能が上がるという話であった。

 この時の説明では、同様にResNet-50を実施した場合、オンチップSRAMだけで処理できるので消費電力は1.7Wであり、224x224ピクセルのイメージならば672fpsの処理が可能。fps/Wで言えば395fps/Wに達しており、例えばNVIDIAのXavierと比較して20倍効率的というものだった。

 この時点でHailo Techのターゲットは自動運転であり、2019年後半にはHailo-8のコンシューマー版を、2020年前半に自動車グレード(AEC-Q100という車載向け電子部品の規格があり、これに準拠したものを予定していたらしい)の量産に入るという話であった。ただこの後から同社の方向性は少し変わったらしい。2020年8月にはHailoジャパン合同会社を立ち上げるとともに、ソシオネクストおよびFoxconnと共同で、映像分析用プラットフォーム開発に関するパートナーシップ契約を結んでいる

 実際Hailo Techが現在出しているホワイトペーパーを見ると、自動車向けという話はどこかに消え、代わりに“Smart City/Smart Retail/Industry 4.0/Smart Home/Smart Workplace/Smart Transportation”といった用途に向けてHalio-8がどう活かせるか、といった話が並んでおり、おそらくはシリーズBの投資を受けたあたりから自動車向けはきっぱり諦めた感がある。

 諦めた、というよりは引き続き引き合いがあれば対応はするのだろうが、同社としては車載以外の市場に積極的にアプローチしていくよう戦略を変更したのだろう。

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