拡張するWWDCの目的
アプリを開発するデベロッパーから一般ユーザーへ
今回のWWDCのキーノートの内容は、手短に言えばiPhone、iPad、Macというアプリのプラットフォームとなる主要なデバイスに、最近のユーザーにとってもっとも身近なデバイスとなっているApple Watchを加えた4種類のデバイス用のOSを中心として、それらのOSにまたがって実現される機能も加えた新機能のオンパレードだった。本来のWWDCの目的を考えれば、キーノートも含めて主にアプリのデベロッパー向けの内容であるべきだ。とはいえ、オンラインのみでの開催となっている去年や今年は言うにおよばず、キーノートの内容が世界中に同時配信されるようになってからは、デベロッパーだけでなく一般のユーザーの注目も集めるようになる。当然ながら絶対数は、一般ユーザーの方がはるかに多い。WWDCのキーノートの内容が、最後のDeveloper TechnologiesとApp Storeを除くと、ほとんど一般ユーザーを主な対象としているように見えてくるのも止む得ないというものだろう。
それでも去年は、Macのインテル製プロセッサーからApple Siliconへの転換という大きな発表があった。これは、もちろん一般のユーザーにとっても重大な発表だったが、それよりも強いインパクトを受けるのは、Macのアプリを開発するデベロッパーであったことは間違いない。去年については、この発表の衝撃が強すぎて新しいmacOSのBig SurやiOS 14についての発表の内容がどんなものだったか、印象がかなり薄くなってしまったのも確かだ。今年は、事前に噂されていたような新しいハードウェアの発表がなかったこともあり、各OSや関連技術の新機能が、注目を集めやすくなったのは事実だろう。そのことだけを見れば、本来のWWDCの姿に近づいたと感じられないこともない。ただし、そうした新機能をアプリのデベロッパーがどのように利用できるのか、開発者の視点に立った説明は少なかった。本来であれば、WWDCの本体である技術セッションの紹介なども含め、新たな機能に対して開発者はどこを糸口にして情報を入手し、開発活動を始めらるのか、そのガイドを示して欲しいところだ。
各トピックに対する紹介記事は、すでにいろいろと出尽くした感もあるので、この後は発表内容の紹介的なことはなるべく省き、個人的に特に印象残った部分について、私感を述べさせていただくことにする。その前に、全体を通して今更ながら1つ気付いたことがあったので、それについて先に述べておこう。
ちょうどiPad用のiOSが、iPadOSと名前を変えたころから強く感じられるようになってきたことだが、iPadの機能が徐々にMacに近づき、逆にmacOSの見た目や操作性がiPadOSに近づいてきたように見える。それは、両者がハード、ソフトの両面で接近して、やがて統合されてしまうのではないかという印象を与えるほどだった。WWDCではないが最近登場したiPad Proが、本来はMac用に開発されたと思われるM1チップを搭載して登場したのも、その伏線のようにさえ思われた。しかし、今回のWWDCのキーノートを観て、少し印象が変わってきた。それは、iPadOSとmacOS、そしてiOSも含めて、「連携」を強化する方向に進化しているのは確かなものの、iPadとMacが統合する方向には向かっていないように感じられたからだ。つまり、アップルとしては、iPadとMacを統合した新たなハードウェアを各ユーザーに1台だけ使って欲しいのではなく、今後もMacとiPad、あるいはiPhoneというデバイスは、それぞれ別々に所有し、必要に応じてそれらを組み合わせて複数台同時に使って欲しいと考えているように見えた。アップルとしては、ユーザーによって異なるニーズにも対応しやすいし、その方が収益的にも有利だろう。
これはまだ、今回のキーノートを観て感じた印象レベルの話であって、確信があるわけではない。いずれにしても、アップルの提供する各種OSの相互関係については、これからも興味が尽きない。
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