2021年5月28日、サイボウズは6回目となるMedia Meetupを開催した。今回はkintoneと地方銀行による地方DXがテーマ。地方銀行とのパートナービジネスを手がけてきたサイボウズの渡邉光氏は「kintone×地銀×中小企業が実現する地方DX」と題して、現状の課題や地方銀行との提携スキームについて解説した。
人口減少で疲弊する地方の中小企業と地方銀行の「待ったなし」
今回登壇したサイボウズの渡邉光氏は、2011年から10年に渡って営業として勤務しており、松山支部の所長として広島・四国地区を担当するほか、今回紹介する地方銀行とのパートナービジネスを立ち上げてきた。渡邉氏自身も愛媛県今治市という地方の出身出身で、「DX推進どころか、業務改善すらおぼつかない現場を目の当たりにしてきた。地方出身者としてなんとかサイボウズで地方活性化に貢献したい。地元の企業を盛り上げるにはどうしたらよいかということを模索していた」と語る。
渡邉氏は、地方企業と地方銀行の現状についておさらいする。
現在、地方企業は人口減少とともに、生産年齢人口の減少にあえいでおり、企業数自体も減っている。新型コロナウイルスの長期化など、外的要因による経済的な打撃もあり、生産性と売上の向上が同時に求められている状況だ。しかし、中小企業のITツールの利活用状況は決して芳しくなく、情報共有やコミュニケーションツールなど業務効率化ツールは61%が未導入だという(全国中小企業取引振興協会調べ)。
では、なぜITの導入は進まないのか。「コスト負担ができない」「導入効果がわからない、評価できない」「従業員がITを使いこなせない」といった課題がある中、サイボウズが注目したのは「適切なアドバイザーがいない」という理由だ。このアドバイザーになり得るのではないかというのが、地方銀行とタッグを組む背景だという。
一方で、地方銀行もこうした地方経済の動向に深くリンクしている。企業数自体が減っているので、貸金機会は低下しており、ただですらマイナス金利が続いているのに、楽天やイオンなど新規参入も相次ぎ、競争は激化している。もちろん、金融機関としてポイントやキャッシュレス、仮想通貨対応などのFinTech導入も待ったなしだ。結果として上場地銀78行のうち、6割は本業が赤字・減益という状況で、店舗の削減やリストラも続く。融資以外で新しいビジネスを立ち上げる必要があるわけだ。
こうした新しいビジネスの1つが、ITメーカーとユーザー企業をつなぐビジネスマッチングだ。現状、IT関連を相談する相手としては、地元のITメーカーや販売会社が一番多いが、公認会計士・税理士、地元以外のITメーカー・販売会社に次いで4番目となるのが実は金融機関だという。「経営に関する理解度や課題解決の発見能力など金融機関の強みを活かせば、新たなサービス開発ができる」と渡邉氏は語る。
地方銀行との提携で描く「地方地消を可能にするスキーム」
続いてkintoneの現状、そして地方銀行との提携を進める背景についての説明だ。ノーコード・ローコードでシステム開発が可能なkintoneは、ユーザーの93%は非IT部門という特徴を持つ。月額1500円/ユーザーで利用でき、初期導入は無料のため、導入の敷居も低い。導入企業は2万社を突破したが、今後戦略的にシェアを伸ばしていくためには、新しいチャネルを開拓する必要があるという。
また、売上の8割がクラウドとなったサイボウズにとってみると、パートナーは必ずしもIT企業である必要はないという。インフラやシステムに精通している企業だけではなく、コンサルティング、人材派遣、士業、商工会議所、ベンチャーキャピタルなど顧客リストを持つ企業や団体がパートナーとなる可能性がある。地方銀行もその1つだ。
クラウドサービスであるkintoneは地方での利用者数も増えており、ユーザー事例を披露するkintone hiveのようなイベントも毎年開催されている。そのため、札幌、仙台、名古屋、大阪、松山、福岡などサイボウズの地方拠点をベースに、地方開拓を積極的に行なうことで、より多くの企業のチームワークを支えることができると考えた。
目指すのは、サイボウズ、地方銀行、中小企業の「三方よし」の地産地消を可能にするスキームだ。鍵は地方銀行内に業務課題を解決し、ICT活用を提案する専門部隊。専門部隊は、営業が中小企業からヒアリングして抽出した業務課題を分析し、kintoneをはじめとしたICT活用を提案し、コンサルティングやICT活用の教育までを請け負う。つまり、地銀自体が業務の改善提案やICT活用サポートまでワンストップとして提供することにある。
そしてサイボウズはこの専門部隊を立ち上げるため、行員に向けたkintoneやICTの研修を実施。地方銀行との共催セミナーにより、中小企業のkintoneの認知拡大も行なう。そして、全国350社以上のサイボウズのビジネスパートナーは、専門部隊だけでは難しいカスタマイズや他社製品との連携など開発支援を提供する。
目的は「中小企業のITツール導入の第1歩の支援」。理想は中小企業自身が業務改善を実施し、地方銀行はより高次なDXのコンサルティングに進み、新たな収益源を確保できることだ。これにより、地方銀行が本来持っている地場企業との良好な関係性を活かし、地域に寄り添った地産地消の「リレーションシップバンキング」を実現できるという。
地元企業との関係が深い地方銀行だからできた業務改善事例
とはいえ、企画当初は地方銀行とのコネクションもなく、知人に紹介されても、その活動をなぜ銀行がやるのかと提案書を折られたり、たらい回しにされる状態だった。しかし、地道な活動の結果、なんとかテストマーケティングとしてビジネスセミナーを実施すると、アンケート結果も良好で、製品導入する企業も現れた。また、地場の伝統産業組合に対して、地方銀行といっしょにコンサルティングする機会も得られた。昨今では各行でDX推進部署が立ち上げられるようになったという要因もあり、先行取り組みしている銀行の増加とともに問い合わせも増えたとのことだ。
現在、協業している銀行は北國銀行、滋賀銀行、伊予銀行、福邦銀行、鳥取銀行、山陰合同銀行、ふくおかフィナンシャルグループ、十八親和銀行の7行で、現在までに200社以上のコンサルティングの実績を挙げている(関連記事:サイボウズ、伊予銀行とICT支援で連携)。
事例としては、鳥取銀行が業務改善提案を行なった家具・内装会社の末田(岡山県)は、kintoneによるペーパーレス化を実現。「57歳の内勤従業員がkintoneで製作指示書アプリを作成し、70歳の作業従業員がタブレットで製作指示書を確認する」といった具合で、年間600時間の時短に成功した。
また、伊予銀行が業務改善提案を行なった清掃会社のハウスクリーンきくち(愛媛県)は、息子による事業継承を期に紙ベースの顧客対応をkintoneで刷新した。自社にあった顧客管理システムをkintoneで構築し、従来は30分以上かかっていた顧客の検索も圧倒的に短縮された。こちらもメインバンクである伊予銀行が頻繁に訪問していたからこそ、kintoneの提案ができた。
今後は協業エリアの拡大を図り、カバーできていないエリアの地方銀行を重点的にリクルーティングしていく予定。また、DXサポート人材を銀行に増やすための勉強会や専門機関の立ち上げ、他社のクラウドサービスとの連携を前提としたバックオフィス業務全体のコンサルティングまで進めていくという。