MacとiPadのキメラとなったiPad Pro
事前の噂では、今回の発表のメインは新しいiPad Proではないかとも言われていた。やはりという感じで、iPad Proの登場自体には何の驚きもなかった。それでも筆者が驚かされたのは、そのiPad ProがM1チップを搭載して登場したことだ。
M1チップについては、もはや何も説明の必要はないかもしれない。昨年になって、長年Macシリーズに採用してきたインテル製CPUから、独自のApple Siliconへの転換を発表したアップルが、その第1弾として作ったチップだ。これまで、iPhoneやiPadに採用してきた「Aで始まる名前のチップ」に対して、M1のMは「MacのM」だろうと筆者は考えていた。そのM1をiPad Proが採用したということは、Pad ProがMac並の性能を獲得したということにとどまらず、Macの心臓を移植されたようなものだ。M1は、いわゆるSoC(System on a Chip)の一種で、1つのチップにシステム全体を構成する機能を集約したようなもの。それがMacと同じになったのだから、中身はほぼMacと言っていい。ただし外観や操作性は、これまでと同様のiPad Proには違いないし、動作するOSもiPadOS、その上で動くアプリも当然iPad用のものだ。これはもう、MacとiPadのキメラのようなマシンと言っていいだろう。
iPad ProにM1チップが載るのなら、ついでにmacOSも載せて欲しいと考えるのは、Macユーザーの自然な願望だろう。その実現には、少なくとも性能的には何の問題もないはずだ。今回のiPad ProのM1チップの仕様を確認しても、発表されている範囲の数値は、Macに搭載されているものと同じ。4つの高性能コアと4つの高効率コアを組み合わせた8コアのCPU、8コアのGPU、16コアのNeural Engineで、ユニファイドメモリとしてのRAM容量も8GBまたは16GBを用意している。M1とは直接関係がないが、外部のストレージもRAMが8GBのモデルは128GB、256GB、512GBの3種類、RAMが16GBのモデルは1TBまたは2TBのストレージ容量で、macOSを搭載してMac用のアプリを動作させるのにも、まったく遜色ないスペックを実現している。
iPad Proのハードウェアが、Macのハードウェアと比べて劣っている可能性があるとすれば、複数のThunderboltポートを制御する拡張性の部分くらいのものかもしれない。しかしそれとても、質的なものというよりは、単純に量的なものだと思われる。心臓部のM1チップが同じなのだから、少なくともM1チップを搭載して昨年発売されたMacと比べて、I/O性能で特に劣るということもないはずだ。
実際にmacOSとiPadOSは、基礎的な部分の共通化が進んでいると考えられるが、もちろん違いもある。分かりやすいところでは、macOSはタッチスクリーンや内蔵カメラなど、iPadにとっては基本的な機能を直接サポートしていない。現状のmacOSを移植しただけでは、こうした機能が使えず、iPad ProでmacOSを動かす意味は薄れてしまう。しかし、アップルがその気になりさえすれば、そうした機能をmacOS上で実現するのも、それほど難しくないだろう。
iPad Pro上でmacOSが動けば、これまでのiPadでは使えなかったMacの、特にプロ用の領域のアプリが使えるようになるのだから、メリットはかなり大きい。しかもM1用のBig Sur上では、多くのiPadアプリも動く。
もちろん、本当にiPad Pro上で動かしたいのは、macOSではなくmacOS用のアプリの方だ。もしアップルが、Logic ProやFinal Cut ProなどをiPadOS上でも使えるようにしてくれるのなら、それでもかまわないという人も多いだろう。
今回の発表でも、サードパーティのデベロッパーが、iPad Proへの期待を表明したショートインタビュー的なビデオが流されていた。サードパーティ製も含めてプロ用アプリの環境が充実すれば、iPad Proは、今よりもずっと魅力的なものになるだろう。今述べたことは、今のところ筆者の妄想に過ぎないが、今回のM1チップの採用が、その妄想を現実にするための扉を開いてくれるものであることを願ってやまない。
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