Salesforceによる買収から3年、シナジー拡大と日本市場へのコミットメント、パートナー戦略も
APIドリブンなアプローチでDXに貢献を、 MuleSoft Japanが国内市場戦略を発表
2021年04月22日 07時00分更新
セールスフォース・ドットコムおよび同社の事業部門であるMuleSoft Japanは2021年4月20日、2021年度の国内市場戦略発表会を開催し、Salesforce製品とMuleSoftのシナジーや国内市場に対するコミットメントを明らかにした。
2020年10月付でMuleSoft Japanのカントリーマネージャに就任した小枝逸人氏は、「MuleSoftはあらゆる場所に格納されたあらゆるデータをアンロックし、いかなる場所からもリアルタイムに活用できるようにするプラットフォーム。API連携とインテグレーションのパワーでもって、日本企業のデジタル変革(DX)に貢献したい」と語る。
買収から3年が経過、MuleSoft Japanとしての戦略発表
2018年に約65億ドルでSalesforce.comに買収されたMuleSoftは、データインテグレーションとAPIマネジメントの両方の機能をもつ「Anypoint Platform」が主力製品だ。レガシーアプリケーションの連携/統合を得意としており、Coca-Cola、Bank of America、Barclaysといった世界的大企業のDX成功に貢献している。Salesforceに買収されてからはAnypoint Platformと「Salesforce Custromer 360」(Salesforceの各サービスをシームレスに連携させるクロスクラウドなイニシアチブ)との統合が進み、シナジーの最大化が図られてきた。
今回のMuleSoftによる戦略発表は、Salesforceの買収から約3年が経過し、Salesforceファミリの一員としてようやく日本市場の顧客にサービスを提供する体制が整ったことの表明であるといえる。小枝氏は「MuleSoft Japanの戦略」として以下の3点を掲げている。
・日本市場に対するコミットメント … 日本の顧客ニーズに合わせた運営体制(サポートやサービスの日本語化、日本市場に適した組織/人事など)をとりながら、APACおよび米国本社と協働し、グローバルで培ってきたベストプラクティスを継承して日本の顧客のDXを支援
・Salesforceとのシナジー … Customer 360におけるデータインテグレーションを担うプラットフォームとして、MuleSoftとSalesforceの各製品/サービスを有機的に統合し、グループ企業のシナジー最大化を実現
・パートナー企業との連携強化 … すでに20を超える企業と国内パートナー契約を締結しているが、今後は「顧客のことを最もよく知るパートナー」(小枝氏)によるDX事例を増やすことをめざし、MuleSoftによるイネーブルメントやノウハウの提供を促進。さらに大企業向けにアクセンチュア、NTTデータ、NECとの連携を強化
MuleSoftの最大の強みとは
毎日のようにメディアで見聞きする“DX”の言葉だが、レガシーアプリとレガシーインフラの存在に悩まされている日本企業にとって、レガシーのロックインから逃れることは簡単ではなく、実際には「85%のDX案件が頓挫し、失敗に終わっている」(セールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 執行役員 MuleSoft営業本部 営業本部長 小山径氏)という厳しい現実が横たわる。とくにIT部門がレガシーの統合作業に追われてしまい、肝心のイノベーションまでにたどり着けないケースは国内外問わず枚挙にいとまがない。
MuleSoftは“インテグレーション”分野のサービスに分類されることが多いが、従来のインテグレーション(ETL/EAI)製品とは異なり、APIマネジメントに関連する機能全般(設計/開発/管理、マイクロサービス連携など)も備えている。それに加えて、一度開発したAPIをカタログ化できるためAPIの再利用が容易で、迅速なITデリバリを実現しやすい。小山氏はMuleSoftのアプローチを、「IT(API)を組み立てブロックのように再利用可能にし、コンポーザブルなアプリケーションを主役にすることでDXを促進する」と表現するが、このAPIの再利用性により、疎結合なアプリケーションデリバリをスピーディに実現できる点がMuleSoftの最大の強みといえるだろう。
MuleSoftの構成をもう少し見てみよう。MuleSoftのアーキテクチャは上から「エクスペリエンスAPI」「プロセスAPI」「システムAPI」という3つのレイヤ(API群)に分かれている。エクスペリエンスAPIはいわばフロントエンドAPIで、アプリやデバイスからのアクセスを受け付ける。プロセスAPIは、たとえば注文状況や配送状況といったビジネスプロセスを監視し、下位レイヤのシステムAPIを制御する。システムAPIは、ERPやSalesforceなど個々のデータソースと接続し、データ処理(顧客情報更新、配送、注文確定など)を実行する。
いずれのレイヤのAPIも一度作成したあとに再利用が可能であり、これまでのCSV連携に比べ、ビジネスニーズに適したモダンなアプリケーションのスピーディな構築が進むことになる。
なお、MuleSoft Anypoint Platformには5つのコンポーネントが含まれており、このうちSaaSなど外部サービスとの接続を提供する「Anypint Exchange」には200を超えるコネクタが公開されている。レガシーを含む既存の多様なアプリケーションやサービスとの接続性の高さもMuleSoftの大きな特徴のひとつだ。
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日本市場での本格的な展開を開始したMuleSoftだが、すでに国内でもMuleSoftによるモダナイゼーションを実現している企業は少なくない。導入顧客としてはAflac、SMBC、東京海上日動、カインズなどの名前が挙がる。なかでもカインズの事例は「顧客のニーズに即したスピードでサービスを提供するため、MuleSoft Anypoint Platformを“API部品庫”として活用し、新サービスを矢継ぎ早にリリースしてアプリケーションの内製化とDXを急速に進めた事例」(小山氏)と紹介されており、まさにMuleSoftのメリットを最大限に活かしたケースだといえる。
ここ数年、国内でもAPI連携をモダナイゼーションやDXにおける重要なアプローチとして推進する企業は増えており、さらにコロナ禍がDXのアクセラレータとなっている現在、このタイミングでのMuleSoftの日本市場へのコミットはポジティブに受け取ることができるだろう。Customer 360とのシナジー効果もあわせ、APIドリブンなアプローチのメリットをより多くの日本企業に拡大する役割をセールスフォース・ドットコム/MuleSoft Japanに期待したい。