元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第5回

「地域とともに歩む」スターバックスのエリア密着型プロジェクトに今、注目すべき理由

文●土信田玲子/ASCII

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 「地域の幸せと繁栄なしに、スターバックスの成功はない」。それはパートナー(従業員)と顧客、地域社会との信頼関係があって初めて実現されるという理念のもとに、全国1600を超える店舗で、年間約8000(2020年時点)もの地域貢献活動を行うスターバックス コーヒー ジャパン。

 地域の歴史、伝統的な建築や工芸、文化、産業の素晴らしさを伝える店舗や限定グッズ。そして国内初の手話が共通言語の店舗運営、認知症カフェなど、多岐にわたる地域密着型プロジェクトについて、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/スターバックス コーヒー ジャパン(株)中日本営業本部 本部長 梅内哲也

地域密着型プロジェクトの基本精神

 

 コミュニティに貢献しようという考え方は、欧米であれアジアであれ、世界約80か国すべてのスターバックス に共通している。では、どのように地域とつながるか、その具現化の方法に関しては、各国のマーケットに委ねられているという。

――地域密着型プロジェクトの基本精神とは?

「スターバックスが、2008年まで指針としてきた旧『ミッション宣言』、それを進化させた、現在の『ミッション&バリューズ』という企業理念があります。まずミッション宣言には『地域社会や環境保護に積極的に貢献する』と、“地域”というキーワードと“貢献する”という指針が明示されています」

「スターバックスコーヒー ミッション宣言」

 当社の原則を一貫して守りつつ事業を拡大し、
 世界の最高級コーヒーの加工から小売まで一貫して扱う
 一流コーヒー専門会社としてのスターバックスを築いていく。

 【行動指針】
 ・お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる
 ・事業運営上での不可欠な要素として多様性を受け入れる
 ・コーヒーの調達や焙煎、新鮮なコーヒーの販売において、
 ・常に最高級のレベルを目指す
 ・顧客が心から満足するサービスを常に提供する
 ・地域社会や環境保護に積極的に貢献する
 ・将来の繁栄には利益性が不可欠であることを認識する

「『ミッション&バリューズ』にも、やはりコミュニティという言葉があります。僕たちが地域のためにできることは何なのか? をお店のパートナー(従業員)と考えるというベースが、ずっと文化的に受け継がれている。地域貢献を始めた当時は、みんなでゴミ拾いをしようとか、小さなことから始まった記憶があります。現在は、地域ごとの課題や、それにどう携わっていけるのだろうか? ということを、より深く考えるような雰囲気になってきていますね」

「MISSION & VALUES」

 OUR MISSION

 人々の心を豊かで活力のあるものにするために —  ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから

 OUR VALUES

 私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。

 お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化を作ります。

 勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
 スターバックスと私たちの成長のために。

 誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。

 一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。

――現在のコロナ禍で特に行っている施策はありますか?

「コロナ禍でも頑張って下さっている、エッセンシャル・ワーカーの方々に、コーヒーやお菓子のドネーション(寄付活動)を行っています。わずかでも、ホッとひと息ついて頂く瞬間をお届けできればと思っています」

コーヒーやお菓子にメッセージを添えて、全国の医療機関へ届けている

――各店舗での感染症対策は?

「来店されるお客様の安全を大事にすることがひとつ。もうひとつは、お店で働く4万人のパートナーが安心して働けるための対策も重要とのスタンスで、いろいろなアクションを講じています。マスクの着用、衛生管理、非接触型の支払い方法推進はもちろんのこと、パートナーがソーシャルディスタンスを確保し、できるだけ分散して休めるよう、店内の一部座席を使用させて頂くこともあります」

 顧客はもちろん、パートナーも大切にする姿勢の確かなスターバックス。パートナーが感染した場合には、自宅待機や完治するまでの療養に関する指導を行っている。公式HPでは、感染者が出た店舗の対応・休止および再開情報も随時公開する。
 

認知症の高齢者と社会がつながる場所“Dカフェ”

 スターバックスは2016年より、東京都町田市において、認知症の人が社会とつながる居場所作りを目的とした、市が主催する認知症カフェ(Dカフェ)の運営に協力している。

――梅内さんが深く関わっている“Dカフェ”のコンセプトとは?

「町田市でも認知症で悩まれている方や、そのご家族がたくさんいらっしゃる。そんな中で僕たちができることは、と考えた時に、誰もが気軽に立ち寄れる、音楽が掛かっているカフェなら少しは話しやすいだろうとか、集まる場の提供ならできるんじゃないか、そんな発想だったんですよね。

 地域といっても範囲はさまざまかもしれませんが、いろいろ悩まれている、大変な思いをされてる人たちの共有項として時間と場を提供していく。それが今回はたまたま認知症カフェという形なんですが、今後もこのスキームを使って、多様なテーマや場所で展開できそうだと考えています」

 地域住民からも好評なDカフェだが、コロナ禍で残念ながら現在休止中となっている。

――地域貢献を目指し店舗が独自に企画、実施する活動“コミュニティ コネクション”では、年間約8000もの活動が行われているとか

「コーヒーテイスティングや、キッズ向けのパーティなどを行っていますが、直接的に地域の課題を解決できるかと言うと、そうとは限らないと思うんです。ただ、地域のお客様と、またお客様同士のコミュニケーションを図る入口、きっかけを作る場所になるのでは、と」

――地域貢献を目指す店舗は実際、どんな雰囲気なのでしょうか?

「それは人口減少など、地域が抱えている問題によって、それぞれですね。例えば、2020年6月にオープンした『nonowa国立店』は、聴者と聴覚に障がいのあるパートナーが、手話で接客するサイニングストアです。行政の方々からも『聾の方々が集まって話せる場所があればと考えていたけれど、なかなかいい雰囲気が出せなくて』と。その点、カフェならコーヒーの香りや音楽で、どこか気持ちをブレイクさせたり、リラックスさせるムードがあって、会話も弾みやすいのでしょうね」
 

サイニングストアの立ち上げで得た〝大切な気付き″

「nonowa国立店」の看板には手話サインが

「スターバックスでは、障がいのあるパートナーが370名ほどおり、そのうち聴覚に障がいのあるパートナーは65名ほどです。もともと『nonowa国立店』がオープンする前も、お店にひとりふたり、聴覚に障がいのあるパートナーがいる店舗もありました。僕自身もダイバーシティ&インクルージョンという言葉を使いながら、ここに携わってきたのですが、このサイニングストアでは意外な気付きがありました。

 実はアンコンシャス(無意識)にいろんなバイアスを持っていたんだな、と。今回とても大切な気付きのひとつとして、今まで聴覚に障がいがあるパートナーが店舗にひとりだけだった場合、自分の言語で話せる相手がいなかったことがあります。多少、手話を学んでくれたパートナー同士なら話せるけれども、相手がネイティブではないので、なかなかスムーズにはいきません。

 このお店を立ち上げる前に、聴覚に障がいのあるパートナーから話を聞いてみると、他国ではすでに、サイニングストアが始まっていたので『私たちも、ああいう場で働いてみたい』という声が上がった。それをきっかけに動き出したプロジェクトだったんです」

手話で楽しげにコミュニケーションを取るパートナー

 

 スターバックスでは2018年から「サイニング アクティビティ」として、聴覚に障がいのあるパートナーが中心となり、店舗運営を数時間行うプログラムを数回実施した。

「これがものすごく好評で、パートナーたちがイキイキと働いていました。それはもう、今まで見たことのないような明るい表情でしたね。僕たちにとっては、障がいのあるパートナーがひとりで働いている姿は普通でしたけれども、実はそれが普通ではなかった。同じ言葉で話す仲間と一緒なら、パフォーマンスも格段に上がるし、楽しんで働いてもらえるということを、僕たちも発見できたお店なんです」

――サイニングストアに続く新たなチャレンジは?

「今のところ、次のサイニングストア出店の計画はないのですが、『nonowa国立店』もオープンしたら終わりとは思っていません。これをどのように広げていくのかが課題ですね。特に障がいのあるパートナーや、多様性を体感した手話のできるパートナーがもっともっと働ける、キャリアを積んでもらえるような場を用意したいですし、そのためには人事制度をさらに変えていく必要もあるでしょう。

 実は、このお店のそばに『都立立川ろう学校』があります。お店の前のバス停に朝並んでいる子どもたちが、手話を用いて働くお兄さんお姉さんたちを見ている。来店された障がいのあるお子さんのお母さんから『パートナーさんが働く姿を見ることで、子どもにも勇気を持ってほしい』という声を聞けたのが嬉しかったですね。

 だから、地域のお客様、聴覚に障がいのあるお客様とパートナー、そして一緒に働く我々にとっても本当により良いものにできるよう、もう一歩、もう二歩と何か動かしていきたいなと考えています」

――ちなみに「nonowa国立店」限定の「ジャーナルブックサイン」。オンラインでの販売予定は?

「このお店に足を運んで頂いて、元気よく働いているパートナーや、手話を使うお客様と触れ合う体験を大切にしたいと思っていますので、店頭販売のみにしています」

「ジャーナルブックサイン」2200円(税込)ではドリンクの種類や数、サイズなど店舗で注文する際に役立つ手話も紹介。「nonowa国立店」限定で販売中

「JIMOTO made Series」が地元愛を盛り上げる

 限定店舗でしか買えないスターバックスのグッズは、ほかにも「JIMOTO made Series」がある。日本各地で地元の産業、素材を取り入れた商品開発を行い、その地域の店舗のみで販売する同シリーズを、2015年12月から展開している。その土地の産業、そこに住む人々を大切にしたいとの思いや、地域への愛着を育むために生まれた企画。2021年2月現在、14の地域でそれぞれの伝統工芸や職人の技を凝らしたグッズを販売中だ。

――「JIMOTO made Series」の狙いとは?

「日本国内には、地域ごとに貴重な財産がたくさん眠っていて、それらを掘り起こし、スターバックスを通して再発見して頂くことですね。それが何につながるかと言うと、その地域の人々が自分の住むところの財産に対してプライドを持てる。さらにその街に足を運んでくれた、他の地域の方や外国の方が、実際に触れることもできる。そうなれば地元の方々が、街の歴史をさらに誇りにも思える。

 コーヒーカップの形をしてはいても、伝統技術に触れてもらえる、見直してもらえるという意味で、僕たちにとっても地域貢献のひとつだと思っています」

――もしや地元貢献のために採算は度外視ですか?

「それが結構売れているんですよ(笑)。現地の職人さんが、ひとつひとつ丁寧に作るので決して安価ではありませんが、背景もご理解を頂き、多くの方がご購入下さっています。非常にありがたいことです。現在は緊急事態宣言中で人の動きが少ないのが残念ですね」

――「JIMOTO made Series」の最新作は?

「1月27日発売の『甲州印伝スリーブ付カップ』です。400年以上にわたり伝承される、鹿革に漆で模様付けした伝統工芸品・甲州印伝(いんでん)のスリーブと、ペーパーカップ型の陶器カップを融合させたデザインです」

「甲州印伝スリーブ付カップ296ml」9020円(税込)。「甲府リバーシティ店」「山梨大学医学部附属病院店」ほか、山梨県内8店舗で販売中

「こちらは山梨県だけの取り扱いです。その場所に行って、地元由来の知恵を体感しながら手に取って頂く、というコンセプトを大切にしているので、ビジネスよりも別の目的を見据えて行っているプロジェクト、と言えるかもしれませんね」
 

土地の文化を楽しめる「リージョナル ランドマーク ストア」

 地域を盛り上げるプロジェクトは、「JIMOTO made Series」だけではない。国内各地ごとの象徴となる場所に馴染むような建築デザインで、地域の文化を世界に発信する店舗「リージョナル ランドマーク ストア」にも注目だ。実際に訪れることで、地元の歴史や伝統工芸、文化、産業の素晴らしさを再発見でき、その土地への絆も感じられるよう、地域色豊かなデザインエレメントが織り込まれている。

その美観で有名な「富山環水公園店」(写真左)と、京の街並みと調和した「京都二寧坂ヤサカ茶屋店」の店内2階

――本来、日本の伝統文化を世界に発信する目的の「リージョナル ランドマーク ストア」。でも外国人観光客のいない今、その役割が変わってきたのでは

「そうですね。本当は違う地域の方々が目的を持って来て下さったり、あるいは海外のお客様が来た際に、ちょっと寄ってみたくなるお店という意味合いもあるのですが、コロナ禍の現在は、特に地元のお客様が自分の街の歴史や伝統、文化をコーヒーを飲みながら再発見できる場所になっているかもしれません。

 お店のデザインや装飾には『これは何々です』という説明書きを、あえて付けていないんですね。パートナーが会話で伝えられるように。するとパートナーも、お客様に伝えるために勉強が必要になる。そんな狙いもあるんです。

 一杯のコーヒーを飲みに来て頂くのに加えて、自分が住んでいる街はこんなところだったんだ、と少しでも思い起こしてもらうのは、すごくいいことかなと思っています」

「伊勢 内宮前店」は、約2000年の歴史を有する伊勢の内宮(皇大神宮)前のおはらい町に、この春オープン予定

コーヒーを出すこと以外の〝役割″を求めて

――ニューノーマルの時代は、遠くに行かず狭い範囲での行動が主になる。スタバの「地域とともに歩む」という精神がより生きてくるのでは?

「日々の行動範囲が狭くなっている中で、常連さんはいつも通りにいらっしゃいますし、お客様が増えている店舗もあるんですよね。これからも末長くこの地域で、商売をさせて頂いている地域のお客様方と良い関わりを保ちながら、一緒に生きていくのが僕たちの存在意義だと思います。コーヒーを提供する以外に、どんな役割を得られるのかということを、これからも皆で考えていかなきゃね、と」

――カフェはコーヒーを飲み、会話を楽しむだけの場所ではないと

「“地域”というキーワードからすると、僕たちも外部から入ってくる者なので、やはりその街の皆さんに、きちんと受け入れて頂ける関係性を築いていく必要があります。出店するということは、しっかりとその街の人間になるということだと考えていますので、一緒に共存できる形でこれからも進めていきたいですね」

 未だに収束しないコロナ禍で、インバウンドの経済効果もすっかり失ってしまった日本。緊急事態宣言発令により国内ですら遠出がしにくい。そんな今だからこそ、地元を見直すチャンス! 足元を見回せば、意外な発見が多いかもしれない。身近な地域社会の課題に対しても、何かできることがありそうだ。地域との共存を掲げるスターバックスの地域密着プロジェクトから、そんな刺激を受けた。

梅内哲也(うめない・てつや)●1971年生まれ、東京都出身。2000年、スターバックス コーヒー ジャパン㈱に入社。2016年より現職、中日本リージョン内約550店舗の営業を統括する。座右の銘は「Make a friend, Make a difference, Make someone’s day」。趣味は釣り。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。最近は類に漏れず「clubhouseにハマっていて、夜にルームを立ち上げ過ぎて辛いですw」とのこと。

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